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2008年03月01日

“四季おりおり” 第五回 心は春



  あかりをつけましょぼんぼりに
  お花をあげましょ桃の花 
  五人ばやしの笛太鼓
  今日はたのしいひな祭り


          「うれしいひな祭り」
          サトウハチロウー作詞


ひな祭り

3月3日はひな祭り。

女の子の成長と幸せを願う日です。

平安時代には「雛(ひな)遊び」、室町時代には「ひない祭り」と言われる女の子の人形遊びがありました。

今の“ままごと遊び”のようなものだそうです。

ひな祭りは、このような人形遊びと、中国から伝えられた季節の変わり目に邪気を払う行事とが結びついたといわれています。

春の季節の花であり、魔ものを打ち払う力があるとされる桃の木が飾られ、「桃の節句」として広まってゆきます。



時の流れは速いもの。
季節の節目に行事がなければ、あっという間に時は過ぎ去り、思い出もなく消え去りそう。

ひな祭りになるとよく幼馴染の女の子の家に遊びに行きました。

赤いひな段に内裏雛(だいりびな)が飾られ、横には桃の花。

人形はすべて小さく繊細でした。それなのになんと華やかなこと。

きまって、紙のひな人形をつくって遊んだものです。

画用紙にハサミとクレヨン。
上手く出来たためしはありません。
でも、とっても楽しかった。


いつの世も家族の幸せを願う心は、変りはないものです。






草の戸も 住み替はる代ぞ 雛の家        
                    芭蕉




「草庵にも、主(あるじ)の替わる時節がやってきた。私が家を出た後は、ひな人形を飾るような娘のいる家となることだろうよ」

旅に出る芭蕉も、ひな人形を飾る家族を想像し、
心を和らげたことでしょう。


青い目の人形

昭和2年、日米関係改善を願うアメリカの人々から「平和の使者」として1万体ほどの「青い目の人形」が送られてきました。
人形にはメッセージが添えられていたのです。

「ひな祭りに仲間入りさせてくださいな」と。

全国の学校に配られた「青い目の人形」は一挙にひな祭りの行事を広めたと言われています。

しかし、その14年後にはじまった戦争が、辛い運命を「青い目の人形」に与えてしまいました。
敵国の人形だと言うことで、ほとんどが壊されてしまったのです。

悲しいことですね。


春の木



河の上(へ)の つらつら椿 つらつらに
見れどもあかず 巨勢(こせ)の春野は

                『万葉集』巻一

春の野に繁ってつらなりあう椿。
美しく咲き誇る花。
いくら見ても飽きない花の美しさに心ひかれる万葉人。

春一番、すこしばかり暖かくなった春風に誘われるように、次々に真赤な花をひらく山椿。

生命力にあふれた濃緑の葉に包まれ咲く輪郭鮮やかな花。
その姿は、古代に霊力が宿る神木とされたのにふさわしい。

その霊性のせいなのでしょうか。平安時代にはあまり歌にも詠われることのなかった椿。

しかし、鎌倉時代の末から、椿の美しい姿が美術や工芸品に見られるようになります。

江戸時代には園芸が盛んになり、宮廷から幕府、庶民層まで椿の人気は広がります。

徳川家康は江戸城内に「御花畠」をつくりました。「江戸屏風絵」には約10本もの椿の古木が、白壁に囲まれて描かれています。
二代将軍秀忠も椿好み。もっぱら諸国から椿を収集したとか。

花の首が落ちるように散るのを嫌って、武士は椿嫌いと思われていました。

そう思われていたのは明治以降のことらしく、実際は武士にも人気がある花でした。

当時、人々はみなこぞって品種改良に熱中していたそうです。

江戸の植物図鑑・安楽庵策伝の『百椿集』には珍しい椿の数々が紹介され、宮内庁蔵『椿花図譜』にも700余種の椿が紹介されているとのこと。

元禄の頃には長崎から西欧に椿も含め、いろいろな花の苗や種が輸出されてゆくようになりました。

19世紀後半には、なんと欧州に椿ブームが起こりました。

そして、あの愛と情熱の小説『椿姫』(デュマ・フィス作)が生まれたのです。

与謝野晶子も恋心を椿に託して詠いました。


     椿ただくづれて落ちん一瞬を
        よろこびとして枝に動かず

                  『草の夢』




散り落ちるその一瞬を歓びとして咲く椿。
一瞬に永遠を見る思いです。

花の命は最期の最期まで燃え尽きるもの。

女性の恋の熱情も。

いとおしい いとおしい せつない ものなのです。





資料:

『日本人のしきたり』飯倉晴武編著 青春出版社

『花を旅する』栗田勇著 岩波新書

『万葉秀歌』久松潜一著 講談社学術文庫

『風物ことば十二ヶ月』萩谷朴著 新潮選書

『入門歳時記』大野林火監修 俳句文学館編 角川書店

『芭蕉文集』富山奏校注 新潮日本古典集成

『季語の底力』櫂未知子著 生活人新書
         
『与謝野晶子』松平盟子著 世界思想社



posted by 事務局 at 11:15| Comment(0) |
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