石を鳴らす? 吹いて鳴らし、振って鳴らし、打って鳴らす・・・。それぞれの石に独自の音色があり、これらの音が信仰の中で象徴的な意味も持ってきました。
石笛・磐笛(上左:江の島、上右・下:伊予)
吹いて鳴らすのは「イワブエ」。「石笛」「磐笛」と書きます。大昔から祭りの場に神を迎え、祭の終わりに神を送る音に、「オーッ」と次第に上昇し下降する声「警蹕(けいひつ)」があります。この声は、『枕草子』第20段に、「警蹕など『をし』といふこゑ」と書かれて登場しますが、磐笛もこの役割を果たしました。磐笛の孔は、海岸で貝が住みついたり風化によって開いた孔で、海岸の石には貫通孔を持つものもあります。この孔に唇を当てて、フルートのように吹くと、かなりの高音が出ます。
>石笛(写真上右)
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人の可聴範囲を超えた音が出るので、動物たちを威嚇する音でもあったようです。
鈴石(上左・上右:名寄、下:西表島)
振って鳴らすのは「鈴石」。石の内部が何らかの理由で空洞になり、中に崩れた小さな石や砂が残っていて振ると鳴るものです。音は小さく、空洞の中が砂か小石かによってシャラシャラ、コロコロと音色が異なります。北海道の名寄や、沖縄の西表島で良く採取されますが、名寄の鈴石は天然記念物になっています。
>鈴石(北海道・名寄 写真上左)
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>鈴石(西表島)
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この鈴石が何に使われていたのか不明ですが、「鈴」は神の声の象徴だったり、道中の無事安全を祈る厄除けの役割ですので、鈴石もお守りや厄除けとして大事にされたのでしょうか。
火打鎌と火打ち石(メノウ)
打って鳴らす石といえば「火打ち石」。今年の2月の「季節の音めぐり」でも取り上げました。
>季節の音めぐり 第11回「しんしんと」
火打ち石は火をおこすための道具ですが、火打鎌で石(メノウ)を打つ音は、厄除けや安全を祈る音として、モノづくりの工程で使われてきました。玄関で火打ち石を鳴らして旅の安全を祈り、また酒蔵では酒造工程の安全を祈る祝詞とともに火打ち石が打たれてきました。
石の呼び鈴
打つと美しい音色を奏でるのは、火山の噴火で地中に埋もれていた金属に近い石「磬石(けいせき)」です。音高の明確な音を出すので、讃岐で取れる磬石は地元では「カンカン石」と呼ばれています。学名は「サヌカイト」。1970年代から活躍する打楽器奏者のツトム・ヤマシタさんが、サヌカイトを何本も吊るして演奏したことから世の中に知られるようになりました。
写真は「石の呼び鈴」と名付けられた石で、入手したときの説明では、茶室の入り口に下げたとありましたが、本当かどうか不明です。長さ21cmで、鹿角のような硬いバチで打つと金属音と同じ明確な音高が出ます。
>石の呼び鈴
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新潟と富山の県境にある海辺の町「青海町(おうみまち)」の人々は、厳しい冬も過ぎて爽やかな夏を迎える頃に海から聞こえてくる〈波が石を洗う音〉が大好きで、子供も大人も、この響きを「カラカラカラ」と表現して親しんでいます。
色彩の変化だけではなく、身近な響きに耳を傾けながら、人々は季節の移り変わりを感じてきたのです。
次回は、「豆腐ラッパの不思議」です。
文:茂手木潔子(日本文化藝術財団専門委員/聖徳大学教授)
楽器写真撮影:服部考規
音源制作:film media sound design
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