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2013年12月01日

第7回 上古時代:『古事記』より その4

今回は素晴らしい歌を捧げることによって、命を救われた采女(うねめ:豪族出身で朝廷に仕える女子)のお話です。
雄略天皇(5世紀後半)の時代。
天皇が泊瀬(はつせ)に出かけ、大きな欅の木の下で、新嘗(にいなへ:天皇がその年の新穀をもろもろの神に供え、天皇自らも食されること)の酒宴をしていたときのこと。
伊勢の国・三重からやってきていた采女は天皇に捧げようとした御杯(さかずき)に欅(けやき)の葉が落ちてきたことに気づかず、そのまま天皇に献上しようとしました。それを見た天皇は采女を打ちすえ、首に刀をあて、斬り殺そうとしました。その時、采女は静かに謡いはじめました。

歌謡7写真2 (2) - コピー.JPG

♪纒向(まきむく)の 日代(ひしろ)の宮は、
朝日の 日照る宮、夕日の 日がける宮、 
竹の根の 根垂(ねだ)る宮 
木(こ)の根の 根ばふ宮 
八百土(やほに)よし い築(きづ)きの宮
真木(まき)さく 檜(ひ)の御門
新嘗屋(にひなへや)に 生(お)ひ立てる
百足(ももだ)る 槻(つき)が枝(え)は、
上(ほ)つ枝は 天(あめ)を覆(お)へり
中つ枝は 東(あづま)を覆へり
下枝(しづえ)は 鄙(ひな)を覆へり
上(ほ)つ枝 枝の末葉(うらば)は 
中つ枝に 落ち触らばへ
中つ枝の 末葉は 下(しも)つ枝に 落ち触らばへ
下枝の 枝の末葉は 
あり衣の 三重の子が 指挙(ささ)がせる 
瑞玉盞(みずたまうき)に浮きし脂(あぶら)
落ちなづさひ 水(みな)こをろこをろに
こしも あやにかしこし 
高光(たかひか)る 日の御子 
事の 語り言も 是(こ)をば

現代訳にすると天皇の治世を見事に讃えているのがわかります。

「纒向(まきむく)の 日代(ひしろ)の宮は、朝日の照り輝く宮、夕日の光輝く宮、竹の根が十分に張っている宮、木の根が長く延びている宮、築き固めた宮でございます。桧作りの宮殿の、新嘗の儀式をとり行う御殿に生い立っている、枝葉のよく茂った欅の枝は、上の枝は天を覆っており、中の枝は東の国を覆っており、下の枝は田舎を覆っています。そして上の枝の枝先の葉は中の枝に散り触れ、中の枝の枝先の葉は下の枝に散り触れ、下の枝の枝先の葉は、三重の采女が捧げていらっしゃるりっぱな杯に、浮き脂のように落ちて浸り漂い、水をこおろこおろとかきならして鳥のように浮かんでおります。これこそなんともおそれおおいことでございます。日の御子よ、事の語り言としてこのことを申し上げます」
(現代語訳:『古事記』全訳注 次田真幸)

最後に、「水を、こおろ、こおろ、かきまぜ国が固まっていく」と、天皇の力を素晴らしいものとして、讃えています。

歌謡7写真2 (1).JPG

あまりに見事に謡ったので、天皇は罪を許すことになりました。
大変喜んだ皇后は勧杯の歌を謡いました。それを聴いて、天皇も諸臣に大いにお酒を頂くことを許す歌を謡ったとのことです。この三首が天語歌(あまがたりうた:受け継ぎ語りゆく歌)として『古事記』に残されています。
上古時代の最も言葉の巧みを極めた歌・技巧歌として評価されています。


資料:
新訂増補『日本歌謡史』高野辰之著(五月書房)
『古事記』全訳注 次田真幸(講談社学術文庫)
posted by 事務局 at 11:05| Comment(0) | 日本歌謡物語
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