自然と社会をつなげる回路 〜エコロジカル・デモクラシーという考え方〜 「エコロジカル・デモクラシー」略してエコデモ。自然・生態系(エコロジー)と社会(デモクラシー)の両方を一緒に考え、新しい価値、方法、世界を実現しよう、という広大な考え方です。
昨年10月に「エコロジカル・デモクラシー財団」が世田谷を拠点に設立されました。去る5月28日には研究・実践を通して「エコデモ」を提唱されたカリフォルニア大学のランドルフ・ヘスター〈ランディ〉教授が来日して講演をされました。
シンポジウムに参加し、エコデモの世界を紹介してみたいと思います。

◆エコとデモクラシーを結ぶ 「エコロジカル・デモクラシー財団」の代表理事、土肥真人さん(東京工業大学准教授)は、「世田谷まちづくりファンド」の運営委員長を5年間務め、区民主体のまちづくりに大きくかかわってきました。出会ったときに、熱く楽しそうに語る土肥さんと研究室の若い学生たちに、「夢」と実現可能な「未来」を感じ、「エコデモ」の考え方に興味がわきました。
そして、5月28日、東京工業大学大岡山キャンパスで、財団主催の特別シンポジウム「エコロジカル・デモクラシーという都市デザイン」が開催されると聞き、さっそく取材に向かいました。
シンポジウムではまず、財団設立の趣旨が説明されました。土肥さんは「自然を直すと社会が治る、社会を直すと自然が治る、という不思議な回路が存在します。今まで別々に展開されることの多かったエコロジー運動とデモクラシー運動を結びつけ、自然と社会の問題を一体として解決する方法を模索する『エコロジカル・デモクラシー(以下、エコデモ)』を実践するため、昨年秋に財団を立ち上げました」と話します。
続いて土肥さんの恩師でもあるエコデモ提唱者のランディさん(ランドルフ・T・へスター・カリフォルニア大学名誉教授)の講演が行われました。ランディさんは米国内外で数々の都市計画に関わる中で、エコロジーとデモクラシーを統合する必要性を訴え、また統合の過程で地域コミュニティが重要な役割を持つことを強調しています。その豊富な経験から得た知見をまとめた著書『エコロジカル・デモクラシーのデザイン』は日本の都市計画の専門家の間でも高く評価されています。

これまでは自然と社会の問題は別々に取り組まれることが多かったが、多くの分野を結びつけ、自然と社会の問題を一体として解決しようとする新たな動きがエコロジカル・デモクラシー。
(図はエコロジカル・デモクラシー財団HPより)
◆都市デザインにコミュニティの知恵を活かす ランディさんは同書の中のエピソードから、「エコロジカル・デモクラシー」の具体例を紹介しました。
例えば、米国ノースカロライナ州マンテオ市のウォーターフロント再開発計画では、地域の人びとに、これからも守り続けたい大切な場所をマッピングしてもらい、これを生かした形で計画をつくりました。さらに建設段階でも多くのボランティアに参加してもらうなど、地域のコミュニティと知恵を生かしたことが成功につながった、と語ります。
また、台湾・台南市の、クロツラヘラサギ(絶滅危惧種)の生息地である湿地帯に、工場団地を建設することが計画されたときは、地元の漁師たちと協力し、科学者と漁師たちそれぞれの知見を補い合わせて環境保全運動を展開し、計画地を変更することができました。
ランディさんからは、このような取り組みを通じて獲得したエコロジカル・デモクラシー実践のヒントが具体的にたくさん語られました。
さらに、まちづくりの実践と理論化に取り組んでいる早稲田大学教授の佐藤滋さんの講演では、「日本のまちづくりは様々な主体がバラバラに頑張る中で、これらが組み合わさってエネルギーが生まれ、ひとつのものができていく。そうした経験の積み重ねを方法論化していくことが大切」などの見解が示されました。
この後のパネルディスカッションでは、「まちづくりにおいて、専門家の知識と地域の生活者の知恵をどう関係づけるか」との問いに対し、ランディさんは「専門家には科学的知識に基づく計画づくりが求められます。しかし、これは地域の人びとの知恵をないがしろにするものではなく、両者の相互対話が重要です」と応えました。
また、ランディさんが著書で、「エコロジカル・デモクラシーでは楽観主義が大切」と記していることに関して、土肥さんは「運動の中で、大きな壁にぶつかっても、へこたれないで歩いて行く、という心の持ち方が大事」と話し、佐藤さんは「根拠のある楽観主義となるように、これまでの積み上げを検証し、仲間内だけでなく社会に広げていくことが必要」との認識を示しました。
最後にランディさんが「エコロジカル・デモクラシーはまだあちこちに種が散在しているに過ぎませんが、やがて芽を出して、花開くでしょう。それこそが、厳しいこの現実社会をよりよくしていくことにつながります」と展望を語りました。今回のシンポジウムはとくに若い世代の参加が多く、これからの日本における「エコロジカル・デモクラシー」の展開が期待されるイベントとなりました。

『Design for Ecological Democracy』の著者ランディ氏(写真右)とマーシャ氏
◆「エコデモ」を発見・観測する シンポジウムに参加して、どうやら、「エコデモ」は地球全体の大きなスケールの概念でもあるけれど、実は私たちの身の周りの「日常」の中にも見え隠れしているもののようだと知りました。新しい価値である「エコデモ」を、なぜ、どうやって日本に広めて行くのかということをもう少し知りたくて、後日、あらためて東工大の土肥研究室を訪ねました。
ホワイトボードには近隣のまちの地図やマッピング図が貼られ、「あれもこれも」が主張しながら雑然と置かれ、若い人たちが自由に出入りする部屋はエコデモの発信地。
土肥さんは「エコデモはすでに、そこにもここにも存在しているんです」と言います。「ないものを想像するのではなく、現実にあるものを観る、というのが基礎的な作業です。エコデモだと思うところを訪ね、活動している人が気づいていない価値を見出し、それを束ねてエコデモの価値を同時につくっていきます。そうするとひとつひとつの活動はバラバラで小さいけれど、深いところにある大きな価値でつながっていることがわかります」
発見・観測の過程でヒアリングをし、出会ったグループは15団体。「世田谷まちづくりファンド」の運営委員長を務めて世田谷のまちづくりと繋がったことはとても大きい、と土肥さんは話します。

写真左が土肥先生。右は事務局の吉田さん。
◆ボランティアは支え合いエコロジー 続けて、「近代になり、人間は環境とコミュニティから離脱して、自由と平等、平和という普遍的な価値、民主主義を手にしました。しかし、種としての生存をかけた共感と美という価値を置き忘れてきてしまったようです。もう一度ここで2つをつなげたい。今、求められているのは、種として生き残るための支え合いエコロジー、それがボランティアです。目の前にいる人を助けていく、でもそれ以上のこと、種としての人間に関わることがボランティアの『セボネ』なのでしょうね」と土肥さんは言います。日常のボランティア活動の中に、自然と社会のつながりを意識した、人と人、人と自然が支え合う活動、つまり「エコデモ」を探し、発見をしていくことが、大きな価値に束ねられて「社会を見直す」ことにつながっていくのでしょう。
◆自然の環のなかにいる自分 土肥研究室は若者のアイデアが溢れています。人は水の循環の中に生きていて、だれもがどこかの川の流域に属しているといえます。そこから発想した、自分の暮らす地域や故郷の川の名前を付したリバーネームの「名刺プロジェクト」もそのひとつ。生態系における自分の位置を示すツールで、ちなみに土肥さんの名刺には、「多摩川―谷沢川」と書かれています。このカードを会った人に渡すことで、話がどんどん膨らみます。

自分にゆかりのある川を名刺に刻む。誰もが使うことのできる交流ツール。
東アジアに生息する絶滅危惧種のクロツラヘラサギを応援する「SPOON」の活動では、クロツラヘラサギの個体につけている「足環」を模した指輪を賛同者に渡しています。クロツラヘラサギの生息は、多様で豊かな生態系があることの証となります。
さあ、私たちも身の周りの「エコデモ」探しの旅に出ませんか?
(取材/編集委員 佐藤研資・星野弥生)
●一般社団法人「エコロジカル・デモクラシー財団」
http://ecodemofund.wixsite.com/mysite