『受け手』というボランティア〜子どもの気持ちを聴く電話〜 いまから20年前、「いじめよ、とまれ」を合言葉に「世田谷こどもいのちのネットワーク」が立ち上がりました。地域の大人たちが立場を超えて、悩み苦しむ子どもたちを支えていこう、という思いがそこにありました。具体的な子ども支援の方策として生まれたのが、イギリスの経験に学んだ「せたがやチャイルドライン」。その試みが全国に波及し、各地に「チャイルドライン」が誕生しました。
最前線で子どもの気持ちを受けとめているのはボランティア。電話をうける「受け手」はどんな思いで活動しているのかご紹介したいと思います。
◆子どもの気持ちを聴く電話 18歳までの子どものための電話「チャイルドライン」は現在、全国に71団体あり、全国共通のフリーダイヤル番号で活動しています。運営の規模、組織のあり方はさまざまですが、電話を受ける「受け手」と、受け手を支える「支え手」とが、子どもたちの声を聴きます。子どもの気持ちを聴く電話を支えているのはすべてボランティアです。
チャイルドラインでは、電話で子どもの気持ちを聴く人を「受け手」と呼んでいます。当初「相談員」としていましたが、電話を受けてみると、必ずしも子どもたちは「相談」するのではなく、自分の気持ちを聴いて欲しい、話をしたいために電話をかけてくることが多い、ということに気づかされます。そこで相談員ではなく「受け手」という呼び方を考えました。同じように、スーパーバイザーとは言わず、「支え手」と呼ぶことにしました。受け手が先手を打って、解決したり指示したりせずに、まず子どもの気持ちを受けとめる。そういう電話でありたいと思ったのです。
2014年度は全国で約70万件の発信があり、そのうち受けとめられた子どもの声は年間20万件。受け手の不足により、子どもたちからの声に十分にこたえきれていないのが現状です。
◆子どもの力を信じて チャイルドラインは子どもに対して、説教や指示、助言や命令をせずに、子どもが主導権をもって話せることを大切にします。受け手は先入観なしに、白紙の状態で子どもの声や気持ちを聴きます。子どもは、自分の気持ちを聴いてくれる電話だと感じ、この受け手に話していいんだ、と思えた時に、つらさやさびしさ、悩み、聴いてほしいことを話し始めます。十分に聴いてもらえたと感じることができた時に、子どもは自分自身の力で解決への道をみつけていくことができる、と私たちは信じています。子どもがその力を出せるようにサポートするのが受け手なのです。
チャイルドラインの受け手に必要なのは、「聴く」ことができる力。電話の向こうの見えない子どもの心を聴く力をつけるには、研修が必要です。受け手として認定されたのちにも、研修を継続し、それぞれの受け方をグループで振り返り、子どもの気持ちにさらに寄り添っていけるようにつとめます。
電話は相手の顔が見えないコミュニケーション手段なので、突然子どもから一方的に電話が切られることもあります。子どもに主導権があるのですから、子どもがこれ以上話したくない、と思ったら切ってもいいわけです。受け手はそれによって辛い気持ちになることもありますが、心に残ったモヤモヤを持ち帰らないよう、またよりよい状態で電話を聴くことができるよう「支え手」によるサポートがあります。受け手はひとりぼっちではないのです。
◆受け手の想い 実際に子どもたちの声を聴いている受け手の方がたはどんな想いで活動しているのでしょうか。2015年9月におこなった世田谷独自のフリーダイヤルキャンペーンの報告書に綴られた受け手の想いをご紹介します。
*子どものパワーを感じて*
電話の向こうの声は、最初は緊張で少し震えているように感じました。ずっと話を聴いているうちに、その声はだんだんとしっかり明るくなっていきました。実際に悩みを抱えているものの、話しているうちに意思が固まっていき、最終的には自分で結論を出すという子どもの底知れぬパワーを感じました。最後は「心が軽くなった」という言葉をもらえて、とてもあたたかい気持ちになりました。ただ電話で話を聴くことだけれども、それが子どもにとって一助となり、大切な時間でもあることを再認識しました。
*子どもを真ん中に*
「せたがやチャイルドライン」と出会い、あっという間に10年が過ぎていきました。「チャイルドラインの『子どもの声を聴く』ってどんなこと?」と、今も自問自答しています。
私がいつも心にとどめていることがあります。それはせたがやチャイルドラインが大切にしている、「子どもを真ん中に」「5つの約束」を守ることです。ときに大人として指示、指導、助言をしたくなり、子どもの気持ちを見失いそうになります。そんなとき「子どもを真ん中に、5つの約束を守る」ことができているか? 子どもの気持ちに寄り添い、子どもを大切に思い聴いているのか? と振り返ります。
子どもは安心して話ができる場所や、否定されずにありのままを聴いてくれる大人と出会えたら、子ども自身が持っている力を十分に発揮することができると信じています。そんな大人でありたいと思い、受け手になったあとも研修を受け続けています。
研修は、自分自身にわきおこる気持ちに気づき、自分自身の感覚や気持ちを確認し、みつめ、さらに自分を大切にする方法としても役に立ちます。相手の問題だと思っていたら、振り返りで実は自分の問題だったと気づくこともあります。子どもの気持ちに寄り添える大人になるにはまだまだ先が長そうです。
◆子どものこころ、みえていますか? チャイルドラインでは、ふだんの「子どもの声を聴く」活動のほかに、こういう活動を地域の多くの方々に知っていただきたいと願って、講演会なども実施しています。
昨年11月には、「せたがやチャイルドライン15周年特別企画」として、シンポジウム「思春期の子どものこころ、みえていますか?」を実施しました。日本で初めてのスクールソーシャルワーカーとして長年子どもたちに向き合ってこられた山下英三郎さんと、元不登校・ひきこもりの当事者で、「ストップいじめ!ナビ」事務局長の須永祐慈さんをお迎えして、お二人の体験に基づいた貴重なお話をうかがいました。
小中学校のPTAの方にもお集まりいただけるよう招待状をお送りして、当日は多くの保護者の方がたが参加されました。山下さんはご自身の体験から「子どもの気持ちはなかなかみえないけれど、みえなくてもみようとする気持ちが大切」とお話されました。須永さんは「不登校・ひきこもりの子どもたちには言葉にならない気持ちがあり、まずはその思いをまるごとうけとめてほしい」と自らの経験から得られた気持ちを話されました。

後半のトークセッションでは「誰かに相談したり、つながったり、子どもが安心できる場をつくるには、まわりの大人たちがつながること」や、「子どもに寄り添いながら気持ちを聴く、受けとめる。わかろうと努力をする『場』を共有すること」が大切であると、多くの示唆をくださいました。長年のご経験に基づくお話は説得力があり、チャイルドラインの活動にも通ずるところがありました。思春期の子どもを育てる保護者にとっても、わが子との向き合い方へのヒントを得られたのではないでしょうか。こうした講演会の企画・実施は今後とも続けていきたいチャイルドラインの活動のひとつです。
◆子どもの問題に関心を 今年も5月27日(金)から、せたがやチャイルドラインの公開講座が開講します。中でも注目は、不登校の当事者である須永さんによる講座。人間の性を生の問題と捉える立場でセクシュアリティを長年説いてこられた村瀬幸浩さんによる、思春期の性に関する講座。プレーパークの実践から「子どもが遊びで育つ」ことの大切さを全国に伝えている天野秀昭さんの話。「生きているだけですごいんだ」をモットーに、フリースペース「たまり場」でたくさんの子どもや青年たちに接している西野博之さんのお話。子どもとかかわる上で役立つ貴重な学びの場です。興味のある回のみの単発参加も可能なので、ぜひ多くの方に参加していただきたいと思います。

講座チラシ
2016公開講座チラシ.pdf この公開講座は、電話の受け手となるための必修講座でもありますが、必ずしも受け手をめざさなくても、まずは公開講座に参加して、子どもの問題に関心をもつ、講座を共に受ける人たちとつながる、チャイルドラインの活動を知ることから始める・・・、いろんな可能性が見えてきます。
(せたがやチャイルドライン 運営委員長 星野弥生)
●18歳までの子どもがかける電話
チャイルドライン全国フリーダイヤル

0120-99-7777 毎日16時〜21時
せたがやチャイルドライン

03-3412-4747 火曜〜土曜16時〜21時
●せたがやチャイルドライン事務局

03-5712-5101
●「受け手」になるには…公開講座(全9回)と受け手養成専修講座(9月〜11月全10回)を受講していただきます。
講座受講後、1年間のインターン研修を経て、正式な「受け手」に認定されます。
公開講座 5/27〜7/22 毎週金曜日19:00〜21:30
講座の詳細はこちら
http://www.otagaisama.or.jp/news/20160426/3205.html