みんなの想いをカタチに
〜演劇ワークショップ活用の可能性〜 「演劇」というと「劇場で芝居を観るもの」というイメージが強いですが、劇場やホールを使わないでやる、もっと身近な演劇もあり、演劇のつくり方にもいろいろな方法があります。「演劇ワークショップ」もそのひとつ。地域での演劇ワークショップの活用の可能性について、世田谷パブリックシアター学芸担当の恵志美奈子さんと福西千砂都さんにお話をうかがいました。
◆創造する公共劇場をめざして 世田谷パブリックシアターは、「公共劇場」として1997年に三軒茶屋に開館しました。世田谷区がつくり、公益財団法人せたがや文化財団が運営している演劇やダンスのための専門劇場です。公演を企画・実施する劇場部制作担当のほかに、学芸担当が置かれ、演劇の普及啓発や人材育成のためのさまざまなワークショップやレクチャーなどを行っています。
演劇を専門とする人のためだけでなく、地域に暮らす人たちが、演劇を通して自分たちの地域のあり方や他者との共生について考え、また個人としての生き方を見つめ直し、新たな可能性や価値を見出すための機会や場を提供しています。
◆集団で演劇をつくる意味 そもそもパブリックシアターで行われている「演劇ワークショップ」とはどのようなものなのでしょうか。恵志さんは「たぶん世の中の人が想像する演劇とは、台本があって、演出家がいて、衣装や小道具があって、稽古して公演するものというイメージではないかと思います。でも世田谷パブリックシアターでは演劇ワークショップはそういうトップダウン式な形ではない、集団で創造するカタチを模索するものととらえています。ワークショップに参加した一人ひとりが意見を出し合って、作品づくりにかかわり、何をみんなで共有してつくっていくかということを大事にしています」
集団で演劇をつくるプロセスには、ともに作業をする仲間を知ること、そして受け入れること、意見を出し合うことや、人に伝えるために表現を工夫することなどさまざまな要素が含まれています。最終的な作品を完成させることだけに目的があるのではなく、そのプロセスを体験していくことで新たな発見や気づきが得られるのです。
◆表現の楽しさを伝える こうしたワークショップを劇場に集まってくる人だけでなく、劇場に来られない人たちにも活用してもらいたいと考え、劇場以外に地域で核になる場所をつくろうと、学校に出かけていく『かなりゴキゲンなワークショップ巡回団』を2003年から始めました。
決まったプログラムはなく、学校やクラスに合わせたオーダーメイドのワークショップです。時間数や回数、内容も相談しながら決めていきます。学校から依頼があると、先生と劇場スタッフ、ワークショップを実施する進行役も含めた三者で打ち合わせをして、先生がどんなことをしたいと考えているかじっくりお話を聞き、学校側のねらいを踏まえたプログラムを構成します。

「だるまさんがころんだ」は実はとても演劇的な遊び
子どもたちは身体を使って身近なモノになって表現したり、登場人物になりきって物語の一場面を演じたりします。どうしたら自分たちの伝えたいことがもっと伝わるか表現の仕方を工夫したり、みんなで協力してつくっていくおもしろさを体験していきます。大事なのは演技の上手下手ではなく、表現の楽しさを感じてもらうこと。

昔話の一場面を全身で表現して、お互いの作品を見合う
新学期のクラスづくりや学芸会・学習発表会に活かしたり、教科「日本語」や「国語」、「体育」の表現活動など、授業の一環でも活用されています。2014年度は区内29校の小・中学校で実施しました。
◆地域への広がり さらに、パブリックシアターでは劇場や学校以外に、地域で活動している人たちにももっと演劇を活用してもらいたいと、多様な人が集う場での新たな試みのひとつとして、「地域連携プログラム」を始動しました。今年4月、協会事業のせたがやチャイルドラインでも演劇ワークショップを実施しました。
チャイルドラインは18歳までの子どものための電話で、多くのボランティアの協力によって運営しています。子どもからの電話を受けるボランティアはシフト制で、個別に活動する場面が多く、同じ活動をしているボランティア同士でも、なかなか顔を合わせる機会が少なく、集団としての一体感をもちにくい状況にありました。いっしょにどんなことができそうか話し合っていく中で、これらの課題に対して「それなら演劇の手法を使って何かできるのではないか」とワークショップの実施に至ったのです。
最初は、コップや急須など身近なモノの形を身体で表現するシアターゲームで参加者の緊張した心と身体をほぐし、お互いを知りあうことから始めます。2人一組になって手元を見ないで相手の似顔絵を描くワークでは思わず笑いがこぼれる場面も。場があたたまったところで、グループごとにあるお話を読んで印象に残った場面を話し合い、その一場面を表現して発表しました。同じ話を聴いても人によって着目点が違い、お互いのグループの作品を見ながら気づいたことを話し合いました。
このワークショップを通して参加したメンバーからは「ふだんの言葉を中心にしたコミュニケーションとは違い、身体を使ったことでリラックスでき、みなさんと楽しく知り合えました」「最初は緊張していたけど、ワークを通して気持ちが落ち着きました。知らない人たちをつなぐ効果を感じました」「メンバーがより身近に感じられるようになりました。ぜひまた参加したいです」と感想が寄せられました。
◆演劇が得意とすること 世田谷パブリックシアターは、「地域連携プログラム」をより一層展開していきたいと考えています。地域のいろいろな現場で演劇ワークショップを活用してみたいという区内の非営利の団体であればどこでも歓迎だそうです。「地域の団体とパブリックシアターが各々の専門性を生かしながら、課題に向かってどう協働できるか考えていけたらと思います」と恵志さんは話します。「私たちはそれぞれの分野の専門家ではありませんが、組織で何かやりたいことや解決したいことがあるなら、演劇ではこういうやり方ができますよ、という提案ができると思います」
地域の団体がどんな場面で活用できそうか、お二人に聞いてみました。「チャイルドラインの事例のように、お互いを知ることや組織の雰囲気づくりは演劇が得意とすることです。また、『ボランティアとは?』などあるテーマについて考えたり話し合うときにも、言葉だけではなく身体を使いながら考えるといつもと違った視点や発想でアプローチでき、ふだん気づかないような新たな発見があると思います」

お話をうかがった福西さん(左)と恵志さん
そもそも演劇とは誰かに何かを伝えるためのものであり、自分たちの活動を地域の人に知ってもらうために活用することもできそうです。「自分たちの活動を外に発信するひとつの方法として演劇という形が考えられると思います。さらに、組織内部のメンバーに限らず、活動の対象者(子どもや子育てママなど)といっしょにやるプログラムも可能です」といいます。


ナツボラ2014では、中学生と大学生が地域の方から聞いた話をもとに、
劇をつくって発表した
◆演劇で地域をより豊かに 集団でひとつの作品をつくっていく過程では、意見の違いを感じたり、さまざまな価値観に出会い、その人の背後にある社会の問題が見えてきたりすることがあります。演劇をつくるときは社会に無関心ではいられません。「堅苦しく『社会にかかわる』というよりは、人とかかわることを通して、自然とそういう問題に気づいたり関心をもつことにつながっていくのではないかと思います」と福西さんはいいます。
地域の課題に対して、演劇の手法を活用して取り組むことで、新たな発見や何かを見出す可能性を感じました。みなさんの地域や組織でも演劇のチカラを活用してみてはいかがでしょうか。
(取材/事務局)
●世田谷パブリックシアター
http://setagaya-pt.jp/学芸担当

03-5432-1526
地域の物語2016 ワークショップ参加者募集
『生と性をめぐるささやかな冒険』(女性編)
https://setagaya-pt.jp/workshop_lecture/20160110chiikiws.html