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農産物価格高騰に見る中国社会 [2010年06月30日(Wed)]
5月27日、中国国家発展改革委員会、商務部、国家工商総局が連名で通知を出し、農産物に対する投機行為や価格吊り上げ行為を厳格に取り締まることが提起された。

ただちに調査を開始して、6月末までには取り締まりを終えるよう求め、農産物の投機行為や売り惜しみに対しては、不法所得を没収した上、不法所得の5倍ないし最大100万元(約1300万円)の罰金を科すとしている。

中国では、昨年10月頃から一部の農産物価格が高騰している。その背景として、金融緩和政策に伴う余剰資金の一部が商品市場に流れ込み、農産物市場でも投機目的の買い占めが発生しているのではないかとささやかれていた。中国政府による今回の厳罰方針発表は、こうした状況を踏まえたものである。

図1 中国農産物価格の推移

出所)中国国家発展改革委員会統計資料より筆者作成


農産物価格は季節的な変動があるものの、前年同期比で見て、確かにジャガイモが49.3%、ニンニクが45.7%、白菜が31.4%などと軒並み高騰している。

そもそも中国の農産物価格は近年上昇傾向にあり、特に野菜価格は穀物価格や消費者物価全体の伸びを上回るペースで上昇してきている。

その構造的な要因として、都市化の進展に伴い耕作地が減少するとともに需要量が増大していることが考えられる。

かつて各地の野菜農場は都市部の近郊にあり、「地産地消」されていた。ところが、近年の都市化により、多くの地方において耕作地が新興住宅地に転用されてきている。転用に伴う新規の代替耕作地の開拓も間に合わず、耕作地の減少を招いているとされる。

一方で、都市化はかつて野菜を自給自足していた農村住民を消費者に変え、市場での需要量が増大している。こうした都市化に伴う需給両面での影響が野菜価格の高騰の遠因となっているものと考えられる。

図2 中国耕地面積の推移

注)1996年、2007年、2008年は測量値。2001年は推計値。その他の年は公表なし。
出所)『中国統計年鑑』各年版より筆者作成


加えて、天候不順による減産の影響も無視し得ない。今年も広州などでは大雨が続き、野菜価格の上昇要因となっている。近年の中国では、こうした「異常気象」は毎年のように聞かれ、「異常気象」の発生が「常態化」している。

こうした状況に加えて、さらに野菜の投機的買い占めが発生しているのではないかといわれているのだ。すなわち、上に述べた構造的要因や天候不順などのために人々の値上がり期待が高まったニンニクや緑豆など一部の農産物が、不動産価格高騰の抑制や株価の低迷のために行き場を失った一部の余剰資金にとっての新たな投機先と化しているのではないかというのである。

 野菜価格高騰の原因を投機的買占めに求める見方については、中国政府内に異論がないではない。国家統計局のチーフエコノミストは、「目下、余剰資金が農産品分野に流入していることを裏付ける証拠はない。ニンニクや緑豆などの農産品の生育周期は決して長くないので、価格上昇に素早く反応して供給量も上昇するはずである。たとえ短期的に収益を上げたとしても、長期的に見れば生鮮農産品への投資などありえない」(『中国網』5月24日)と、投機説を真っ向から否定する。

 一方、農産物価格の監督強化を地方政府に指示した国家発展改革委員会の副主任(副大臣)は、「我々の調査では、悪意による買い占め、価格吊り上げ、価格カルテルなどの存在が認められる状況にある。国務院常務会議(筆者注:日本の閣議に相当)もこの問題について発展改革委員会の報告を取り上げている」(『中国広報網』5月28日)として、自らの厳罰方針を正当化している。

 実際に農産物の投機行為が農産物価格に深刻な影響を与える程度に存在しているかどうかは定かでないが、中国政府にとっては、その真偽よりも、農産物価格の高騰と投機説の存在そのものが放置できない問題だと考えられる。

 庶民の生活を直接に圧迫する農産物価格の高騰は、広範な大衆の不満や政府への批判につながりかねない種である。実際、今から遡ること21年前、1989年6月4日の天安門事件の基底には食料品価格の高騰に端を発した大衆の不満があったとされる。

折しも、前年比マイナスで推移してきていた中国の消費者物価指数(CPI)が、農産物価格の高騰とともに昨年秋からプラスに転じ、4月には前年同期比2.8%の上昇と発表されたばかりであった。こうした物価の上昇が、天候不順などの天災ではなく、一部の富裕層の投機による人災だという噂がまことしやかに大衆の間で広がっている以上、その真偽などを問うている場合ではない。中国政府としては、できる限りの対応をしていると大衆に見せることこそ肝要であろう。

 しかし、仮に投機が起こっているとしても、その背景には構造的な需給逼迫による値上がり期待があってのことである。その解決なくしては、農産物高騰は恒常的に繰り返されることとなり、今後も中国政府の頭を悩ませる社会不安要因の一つとしてくすぶり続けることになるだろう。

(三菱総研HPより再掲)
http://www.mri.co.jp/NEWS/report/review/__icsFiles/afieldfile/2010/06/25/er20100628_01.pdf
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