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北朝鮮核開発問題の経緯と展望 [2009年06月22日(Mon)]
6月13日、北朝鮮外務省は、同国が5月25日に実施した2度目の核実験に対する国連安保理制裁決議について「断固として糾弾排撃する」と非難し、(1)新たに抽出するプルトニウム全量の兵器化(2)ウラン濃縮作業への着手、(3)制裁への軍事的対応という三項目の措置を実施するとの声明を発表した。

03年以来北朝鮮核開発問題の解決を模索してきた六カ国協議は暗礁に乗り上げ、問題の行方は非常に不透明だ。いったい、どこでボタンの掛け違いが始まり、何が事態を深刻化させ、今後どこへ向かうのか。


1.米朝相互不信が引き起こしたエスカレーション
北朝鮮核開発問題の発端は90年代前半までさかのぼる。当時すでに北朝鮮が保有を始めていた原子力発電所は黒鉛減速炉によるものであったが、この黒鉛減速炉からは核兵器の原料となる純度の高いプルトニウムが生成されることから、米国政府はその放棄を強く要求したことに端を発する。

北朝鮮が原子力発電所にこだわるのには事情がある。同国の経済発展において電力不足は大きなボトルネックとなっているが、水力発電では冬に水不足となり発電量が落ち、火力発電では石炭がない。この点、北朝鮮は埋蔵量2600万トン、採掘可能量400万トンといわれる世界有数のウラン鉱山を有する(日本経済新聞2002年10月17日)ことから、畢竟、原子力発電に期待がかかるのである。

黒鉛減速炉による原子力発電の放棄を飲まない北朝鮮に対して、米国政府は空爆も辞さない姿勢を見せたが、結局1994年6月、プルトニウムを生成しにくい軽水炉型の原子力発電所を日韓の支援(日本30%、韓国70%)によって提供するとともに、その完成までは米国が火力発電用の重油を提供することで関係国(北朝鮮、米国、日本、韓国、中国、ロシア)の間に合意(いわゆる「枠組み合意」)が成立し、北朝鮮は黒鉛減速炉による発電を中止した。

そのまま枠組み合意にそって進んでくれれば良かったのだが、事はそれほど単純でない。2003年の稼動開始を予定していた軽水炉は、韓国型軽水炉の導入に北朝鮮側が反発したことなどにより工期が大幅に遅れた。

そうした状況下で、2002年10月、訪朝したケリー米国国務次官補が核兵器開発につながるウラン濃縮を北朝鮮が行っていると指摘したことで、事態は暗転する。ケリー国務長官が訪朝初日に核開発疑惑を強く主張したことに対し、北朝鮮側は協議2日目に「われわれは高濃縮ウラン(HEU)計画を推進する権利があり、さらに強力な兵器も作ることができる」と強がりを見せたのである。

結局、米国側の非難に反発した北朝鮮はIAEA査察チームを国外退去させ、黒鉛減速炉による発電を再開して、IAEAから脱退してしまった。1994年に続く第2次北朝鮮核危機である。

「第2次核危機は米国が招いたと言っても過言ではない」と、中国の元駐北朝鮮武官は言う。02年時点で、米国は北朝鮮の核開発について100%の確証を握っていたわけではない。にもかかわらず、ケリー国務次官補は訪朝するなり「北朝鮮は核開発を行っている」と強く非難したことが事態を複雑化させた発端だったと、この元武官は分析する。

実際、北朝鮮は2002年10月25日に「米国は何の証拠もなくわが国がウラン濃縮による核兵器開発を推進していると言いがかりをつけている」との外務省代弁人談話を発表している。ボタンの掛け違いは、このあたりから始まったといえよう。

2005年2月には、北朝鮮政府は核拡散防止条約 (NPT) からの脱退し、核兵器保有宣言を行った。これを受けてKEDOは、11月に軽水炉建設事業を廃止することで合意したが、これが北朝鮮のさらなる反発を招いて、「ブッシュ政権はわが国に対する軽水炉提供を放棄した」と米国を非難、黒鉛減速炉と軽水炉の独自開発路線を打ち出した。

その後、2005年9月には、六カ国協議での交渉の末、北朝鮮が「すべての核兵器と核開発計画を放棄する」一方、米国は北朝鮮を攻撃する意思がないことを確認したことで、いったん事態が好転するのだが、それも束の間であった。この合意の裏側で米国がマカオの銀行バンコ・デルタ・アジアに北朝鮮が保有する資金を凍結したことで、六カ国協議は再び膠着局面に入る。

こうした米朝間の相互不信の積み重ねの結果、北朝鮮は2006年10月に核実験の断行へと踏み切り、今年5月25日には2度目の核実験まで断行するに至るのである。


2.北朝鮮の戦略変化
北朝鮮の外交にとって最も重要なのは、言うまでもなく、米朝関係である。もともと北朝鮮外交は、(1)米国との直接交渉により自国の安全を確保するとともに、(2)これによって国際社会への扉を開いて各国から支援を得ることを当面の目的にしていたと考えられる。

前出の元武官によれば、02年頃の北朝鮮は核開発について二つの選択肢の間で揺れていたという。一つは核保有による安全確保。歴史を振り返っても核保有国が攻め込まれたことはなく、北朝鮮は、イラク戦争でフセイン政権が転覆させられた過程を見て核保有の考えを強めたとされる。もう一つの選択肢は、核放棄による安全確保と支援確保だ。

この二つの選択肢について、当時、中国は「北朝鮮の持ちうる核兵器は米国にとって直接的な脅威とはならず、したがって核抑止による安全確保には役立たない」「むしろ核を持つことによって、危険国として米ロに攻撃の口実を与える」と北朝鮮に核保有を思いとどまるように説得したそうだ。

しかし、もともと金正日と軍は核保有に傾きがちであったなか、先に見たとおり02年10月以降米朝間の相互不信が急速に高まるにつれて、北朝鮮は核保有の方向へと自らを追い込んでいくことになる。

北朝鮮は、2006年の第一回核実験の頃には「朝鮮半島の非核化を実現」するために米国との直接交渉を望む声明を出し、まだ対立回避の姿勢を見せていた。しかし、今回の核実験に際しては、6月12日に「「制裁」には報復で、「対決」には全面対決で断固立ち向かうのがわれわれの先軍思想に基づいた対応方式である」と、米国との対立も辞さない姿勢を打ち出している。

すなわち、北朝鮮は、核開発をカードに米国を交渉のテーブルに座らせて自国の安全確保と経済封鎖の打破を図ろうとする戦略から、核兵器の抑止力により自国の安全を図ろという戦略へと変化させつつあるように見えるのである。それは、北朝鮮にとってもより危険な立場へと自らを追い込む道にも思えるが、周辺国とりわけ韓国と日本にとっては無視し得ない脅威が裏庭に出現する道でもある。


3.今後の展望
北朝鮮核開発問題の行方を予想するに当たっては、同国の国内要因を意識せざるを得ない。韓国の国家情報院は、金正日氏の後継として三男の金正雲氏が指名されたとの観測を明らかにした上で、今年に入って以来一連の核開発の急転は政権承継のために「慎重な検討」を経て決定されたものだと分析している。

国内での権力掌握のために強硬な対外政策が必要になるとすれば、北朝鮮が事態をエスカレートさせてくる可能性は高い。逆に言えば、北朝鮮が核開発の中止ないし放棄の引き換えに提示する条件は、かなりハードルが高くなるだろう。軽水炉の提供、米国との国交正常化に加え、韓国に対する「核の傘」も取り払うよう要求することが予想される。

これに対して日米韓は、北朝鮮の核開発を阻止するため、国連安保理が6月12日に採択した新制裁決議を厳格に履行し、関連禁輸物資に関する貨物検査や開発資金に関する金融制裁などを実施することになっている。

こうした経済制裁は、たしかに北朝鮮の核開発を遅らせることには効果があるかもしれないが、これだけでは北朝鮮に核開発を断念させることは難しいように思う。

では、米国がミサイルによって北朝鮮の核開発施設を破壊すればよいかと言えば、事はそれほど単純ではない。もし北朝鮮の核開発施設を破壊するとすれば、北朝鮮は日本や韓国にミサイル攻撃などで報復する可能性がある。すなわち、北朝鮮の抑止力は米国には遠く届かないとしても、米国の同盟国たる日本や韓国は人質に取られている状況にあると言える。

この点、日本や韓国の国内世論は、北朝鮮の報復リスクを甘受してでも北朝鮮の核開発施設を破壊することを望む状況にはなく、米国にとっても経済危機とイラク問題への対応に忙しいなか極東を混乱に陥れるような手段を取る合理的理由は持ち合わせていない。

また、北朝鮮に対して天然ガスなどのライフラインを供給している中国が、同国に核開発断念を迫るべく制裁を強めるべきとする向きもあるが、実際には、中国に大きな期待をかけることは現実的でない。

確かに北朝鮮の核開発は、暴発すれば中国東北部にも影響が及ぶ上、これに刺激されて北東アジアで核軍拡が進む恐れもあることから、中国にとっても大きな懸案ではある。しかしながら、北朝鮮に本気で制裁を加えて体制崩壊させれば、大量の難民が中国に流れ込むなど、その混乱の影響は深刻に中国へ跳ね返る。両者のリスクと比較考量すれば、中国にとって、北朝鮮の息の根を止めることも辞さないほどの強い働きかけは合理的選択肢ではなかろう。

北朝鮮にしてみれば、米中ともに最後のカードを切る勇気を持ち合わせていない状況を見越して、核開発を急いでいるのだと考えられる。


4.結語
では、日本にとって深刻な脅威である北朝鮮の核開発を、我々は指をくわえて見ているしかないのであろうか。

ここで、北朝鮮の外交目的を今一度思い起こしてみたい。北朝鮮にとって核開発は、06年当時から現在にかけて使い方が変化しつつあるとはいえ、自国の安全を米国に約束させつつ、国際社会への扉を開いて支援を得るための外交ツールであることに変わりはない。

しかしながら、この外交目的は今なお達成されておらず、それは仮に核保有に成功したとしても自動的に達成されるものではない。北朝鮮の外交目的が達成されるのは、米国が北朝鮮の威嚇外交に屈するか、北朝鮮が自らエスカレーションの階段を下りてくるか、どちらかのシナリオしかないのだ。

したがって、残念ながら北朝鮮に今すぐ核開発を断念させる決め手がないのが現実である以上、日米サイドとしては、決して北朝鮮の威嚇外交に屈して妥協することなく、その強硬路線が功を奏しないというメッセージを有形無形に発し続け、北朝鮮国内情勢の変化のような事態冷却化のきっかけを待つほかないように思える。
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コメント
『北朝鮮と台湾の関係』 核廃棄物

核開発などで何かと話題に上る北朝鮮と台湾の以外な関係をまとめてみましたので
ご参考まで。

 http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2004/00241/contents/500.htm

 http://72.14.203.104/search?q=cache:Dgo-61n9W8sJ:nippon.zaidan.info/seikabutsu/2004/00241/contents/500.htm+%E6%A0%B8%E5%BB%83%E6%A3%84%E7%89%A9%E3%80%80%E5%8F%B0%E6%B9%BE%E3%80%80%E6%9D%8E%E7%99%BB%E8%BC%9D&hl=ja&gl=jp&ct=clnk&cd=2
 
  日本財団 図書館
  1997/06/10 世界週報

  必ずしも足並みがそろわぬ米側の対応

  加えて、四月一二日、李登輝総統は、イギリスの賓客との会見の中で、
  北朝鮮問題とそれに関する台湾の対応策に言及したといわれる。
  だが、かねてから話題となっていた台湾の核廃棄物を北朝鮮で処理する問題については、
  既述のギングリッチ米下院議長ですら李登輝総統との会見で抑制を促したもようである。

 http://ritouki-aichi.sblo.jp/article/31540733.html?reload=2009-08-27T15:15:16
  愛知李登輝友の会ブログ
   2009年08月23日
    のコメント欄をご覧ください
Posted by:おなか一杯  at 2009年09月09日(Wed) 16:55
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