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対中国追加関税第4弾のコストは誰が負担するのか? [2019年08月06日(Tue)]

対中国追加関税第4弾

米中対立が止まらない。

8月1日、 トランプ米国大統領は、つい一月前の大阪サミットで発動見送りを約束していたはずの対中関税第4弾を9月1日に発動すると表明した。

その報復として中国商務省は6日、米国からの農産品の購入を一時停止すると発表した。

表 米中の相互関税引き上げ措置
表1.png


対中関税による追加財政収入

トランプ米国大統領から見て、対中関税引き上げによる追加財政収入のメリットは小さくない。

表の対中関税対象金額に追加関税率をかけ合わせてみると、第1弾から第3弾の対中関税引き上げによって、トランプ大統領のポケットには年額にして推定300億ドル(約3兆1500億円)程度の追加財政収入が入ってきている計算になる。

第4弾が発動されれば、単純計算でさらに年額300億ドル程度、合計600億ドル(約6兆3000億円)程度の追加収入だ。

しかも、この追加関税は決して米国民が全て負担しているわけではない。実際、米国消費者物価は2%程度で安定的に推移してきている。

なぜ対中関税引き上げは米国消費者物価に影響しないのか?対中関税は輸入物価を押し上げ、米国経済を傷つけるのではないか?


対中国関税が輸入価格に転嫁されないメカニズム

対中関税引き上げが米国消費者物価に反映されない背景として、3つの相互に関係する要因を指摘できる。

一つ目は、これまでの対象物品が比較的対中依存度の低い物品だったことから、米国消費者物価全体への影響が限定的だった。

米国市場の対中依存度は、産業機械などが主な対象だった追加関税第1弾時点で6.2%、集積回路などの第2弾時点で12.5%、食料品や家具などの第3弾時点でも20.5%にとどまる(内閣府『世界経済の潮流』2019年)。

二つの目に、追加関税負担の多くを中国側輸出者が飲み込んできたと見られる。

対中関税引き上げ以降、米国消費者物価は安定的に推移している一方、中国生産者物価は伸びが落ちてきた。ここから見て取れるのは、中国企業が対米輸出価格を引き下げている可能性である。

三つ目は、人民元安の影響だ。

2018年3月に米国が、中国を含む多くの国を対象に鉄鋼およびアルミニウム製品の追加関税を発動した当時、人民元の対米ドルレートは6.26ドルであった。

しかし、その後すぐさま人民元は対ドルで下落に転じ、2019年8月7日には7元を超え、2018年3月比で約12%の人民元安となっている。

関税引き上げ第4弾は、携帯電話やノートパソコンなど、中国製品に代わる調達先を探しく、かつ米国消費者に直結しやすい対象品目に10%の追加関税が課されるが、その値上げ圧力は人民元安によって相殺されうる。


今後の展望

向こう1年程度の展望について、今回の米中貿易戦争がトランプ大統領の国内向け政治アピールという要素が強いという点から考えれば、中国がよほどの譲歩をしない限り、米国側が早々に決着を図ることは考えられない。

特に、上述したとおり、トランプ大統領のポケットには対中追加関税のおかげで推定300億ドル以上の追加財政収入がある。この追加財政収入で、大統領選に向けた支持獲得を狙ってバラマキ政策も可能になる。

実際、トランプ大統領は5月に、対中貿易戦争で不利益を受けている農家に補助金145億ドル(約1兆5200億円)を支給すると発表した。追加財政収入を使って、さらには中間所得者向けの減税やインフラ投資なども可能となろう。

この追加関税収入を手放してまで、年内早い段階で米中協議をまとめるインセンティブは、中国がよほどの譲歩をしない限り、トランプ大統領にとってはほとんどないと筆者は考える。

4月、5月ごろは、そのよほどの譲歩をする姿勢を中国側が一瞬見せたのだろうが、そんな譲歩は中国国内で理解が得られず流れたのだろう。

トランプ大統領としては、このまま対中強硬姿勢を維持し、選挙が近づく年明けの適当な時期に合意すればよいと考えているのではないかと想像される。対中貿易戦争の勝利を声高に主張することで、米国株式市場の値も上がり、大統領選への大きなアピール材料となるだろう。
ホルムズ海峡有志連合構想とTPPに見る国際秩序の変容 ーパックス・アミシティア(有志連合による秩序)の時代へー [2019年07月20日(Sat)]

国際秩序は誰が形成維持するのか?

国際政治学に覇権安定論という考えがある。国際秩序の形成維持を担う意思と能力を有する超大国(=覇権国)が、その責を担ってきたという考えである。

国際平和や自由貿易といった国際秩序は、その形成や維持には大きな政治的・経済的なコストがかかる。世界の多くの国は、そうした国際秩序から恩恵を受けるが、そのコストを進んで担う能力と意思を持たないため、フリーライダーであろうとする。

唯一、覇権国だけが、国際平和や自由貿易といった国際秩序の形成維持と自国の安定繁栄とを重ねて、自らコストを負担するというのである。

覇権国が相対的に力を落としたら、国際秩序はどうなるのか?

国際政治学の論壇で長らく議論されてきた命題だが、最終的な答えはでていない。国際秩序が覇権国によって維持されているとすれば、その力が相対的に落ちてくれば、国際秩序の形成維持は困難になろう。

しかし現実には、戦後の国際秩序の形成維持を担ってきたアメリカの経済力・軍事力の優位が1970年代以降長期にわたって相対的に低下してきたにもかかわらず、世界の安全保障や国際経済の秩序構造は基本的に変わらずにきたことから、一度形成された国際秩序にはそれ自体に持続性があると考える向きがある。

この点、筆者は、分野ごとの国際秩序維持コストの大小によって、覇権国衰退の影響も異なるだろうと考えている。

【自由貿易秩序の場合】

たとえば自由貿易にかかる国際秩序は、その維持にさほど大きなコストはかからないため、秩序形成に貢献した覇権国が衰退した後も、維持されやすいと考えらえる。

ただし、各国それぞれの立場の違いを抑え込んで新たなルールに合意を取り付けるには、反対者を黙らせるだけの政治・経済的な力が必要となるため、覇権国の力が落ちたら、さらなる新たなルール作りは進まない可能性が高い。

また、既存の自由貿易秩序が、覇権国の利益とあわなくなれば、覇権国自身がそれを否定することになるだろう。

戦後の自由貿易体制の構築をアメリカが主導したが、その相対的な力が落ちた後、WTOでの多国間交渉はいっこうに進展していない。

それでも過去に合意された自由貿易のルールは維持されてきたが、新興大国が自由貿易の下で台頭してきた現在、ついに覇権国たるアメリカの利益にそぐわない面が出てきた。今やアメリカは、かつて自分が形成した自由貿易の国際秩序を自ら否定しようとしている。

【安全保障秩序の場合】

一方、安全保障にかかる国際秩序は、その前提として軍事力の展開を必要とするため、その維持には経済コストがかかる。

加えて、他国のために自国の若者の血が流れかねないことを自国民に納得させねばならないという政治コストも小さくない。覇権国の力が落ちれば、そのコストの負担を重荷に感じることになるだろう。

アメリカには、もはや「世界の警察」のコストを自国だけで払う余裕はない。トランプ大統領がイランとの戦争を思いとどめ、日米安保条約に疑問を呈し、NATOに不満をぶちまけるのも当然である。

覇権国以外に誰が国際秩序のコストを払うのか?

覇権国が国際秩序の形成維持コストを負担をしなくなった場合、もはや他の国々はフリーライダーでいられない。

【有志連合による国際秩序】

国際秩序の形成維持を担う覇権は、必ずしも単一の国によって具備される必要はない。ある一国だけでは国際秩序の形成維持の任に十分な費用対効果を見出せない場合、複数の国がその意思と能力の範囲で集団的にコストを分担すればよい。有志国による集団覇権である。


【TPP:自由貿易の有志連合】


たとえば自由貿易について言えば、WTOでの多国間交渉に進展が見込めなくなった過去20年の間に、限定的なメンバーの間で何百もの二国間協定や地域協定が締結されてきた。

こうした二国間や地域の自由貿易協定は、限定された範囲でのみ国際秩序の形成維持を担いうる有志国による限定的覇権あるいは集団覇権の行使の結果と見ることができよう。

そうした地域協定の最たるものがTPPである。世界的な覇権国ではない日本も、アジア太平洋地域であれば大きな影響力を持つ。オーストラリアやニュージーランドなどの有志国とともに集団覇権を行使して、アメリカが交渉離脱した後のTPP11の締結を主導した。

【ホルムズ海峡:安全保障の有志連合】

安全保障分野で言えば、アメリカのホルムズ海峡有志連合構想は、かつてアメリカが一国で担ってきた同海域の秩序維持のコストを、有志国で集団的に負担することを提案しているものである。

パックス・アメリカーナからパックス・アミシティアへ

複数の有志国が集団的に覇権を行使することで秩序が形成されるならば、それは19世紀にイギリスが覇権国として築いたパックス・ブリタニカや20世紀にアメリカが築いたパックス・アメリカーナの秩序に続く、いわば21世紀の「パックス・アミシティア」(有志連合による秩序)と呼びうるものである。

今後は、アメリカであろうと中国であろうと、一国だけでは国際政治経済秩序を主導しうる超大国たりえない可能性も高い。

その場合、国際政治経済秩序は、貿易、金融、安全保障といった分野ごとに、秩序の形成と維持をする意思と能力を持った有志国が集まり、集団的に国際秩序の形成維持を担うようになるだろう。

米中貿易戦争ーメイド・イン・チャイナは誰を苦しめたのか? [2018年11月09日(Fri)]
米中貿易戦争の背景ー比較劣位産業の憂き目
2018年7月6日、米国が中国の知的財産権侵害への対抗措置という名目で818品目の輸入品に340億ドル規模の制裁関税を発動し、中国も同規模の報復関税を発動。さらに8月23日には第2弾、9月24日には第3弾の相互関税引き上げへと発展し、対立はエスカレートしてきている。

経済相互依存の深化した二国間では、相手国からの輸入品との競争に敗れた比較劣位産業の関係者が、選挙などを通じて、自国政府を相手国への強硬姿勢へと動かすという事が考えられる。

国際経済学の標準的な貿易理論では、デービッド・リカード以来、各国が比較優位のある産業に特化し、自由貿易をすれば互いに利益を得ることができると考えられている。

この理論では、労働力や資本などの生産要素が比較劣位の産業から比較優位の産業へと速やかに移動することが前提となっている。

しかし現実には、労働力の移動はそれほど容易ではない。たとえば、長年農業に従事してきた者が、外国からの安価な輸入品との競争に負けて廃業寸前になったからといって、すぐさま金融業界へ転職することは難しいし、また、住み慣れた町を離れて家族とともに遠く離れた場所に引っ越すのも転職の障害となる。

労働力の移動は、標準的な貿易理論が想定するほどスムーズではなく、多くは自由貿易の結果として収入減、失業、廃業といった憂き目を見ることになる。

それでも、標準的な貿易理論では、国全体の経済で見れば自由貿易による利益が損失を上回ることが強調されるが、政治的には、むしろ自由貿易によって憂き目を見ることになった比較劣位産業関係者の存在こそ重要である。

彼らは、選挙やロビーイングなどを通じて、自分たちに憂き目を遭わせた相手国への報復を主張することができる。また、そうした元労働者の票を期待する政治家の側が、報復的な政策を自らアピールすることもあろう。

こうして、相手国からの輸入品との競争に敗れた比較劣位産業の関係者は、選挙などを通じて、自国政府を相手国への強硬姿勢へと動かすというシナリオが予想される。

メイド・イン・チャイナに敗れた人たち
デイビッド・オーターらの研究「The China Syndrome: Local Labor Market Effects of Import Competition in the United States」(Autor, Dorn & Hanson, 2013)によれば、米国では、中国からの輸入品との競争に晒された地域において、失業率の上昇、労働参加率の低下、賃金の低下、障害者手当等の受給率上昇といった影響が確認されている。

彼らの推計によれば、1990年から2007年までの間に、中国との貿易競争によって米国の製造業では、大卒者、非大卒者あわせて150万人以上の雇用が失われた。

そうした労働者はほとんど他の街に移り住むことはなく、大半が地元にとどまり、その約4分の1が失業者として街にあふれるとともに、残りの約4分の3は職探しすらしなくなった。

さらに、製造業の衰退した地域では、非製造業でも雇用が減少することになり、特に物流、建設、小売りなどの非製造業分野に従事していた非大卒者を中心に職を失った。

その結果、1990年から2007年の間にアメリカでは、主に中国からの輸入が労働者一人当たり1000ドル増えると、その地域の就業率が大卒者で0.42%ポイント、非大卒者で1.11%ポイント減少するという影響が観察された。

こうした中国からの輸入増に起因する米国の就業率の低下は、幅広い年齢層で見られ、壮年層(50-64歳)では失業者の84%、中年層(35-49歳)では71%、若年層(16-34歳)でも失業者の68%が中国からの輸入増が原因で職を失ったと推計されている。

自由貿易が国家間対立を生む

相手国からの輸入品との競争に敗れた比較劣位産業の関係者が自国政府を相手国への強硬姿勢へと動かすという考え方は、国際政治学における従来の相互依存研究ではあまり指摘されてこなかった説であるが、現状の米中貿易戦争の背景として説得力を持ちうる。

トランプ氏は、大統領選挙中から、中国に対する膨大な貿易赤字を問題視してきた。2018年に入ってからの度重なる対中制裁関税の発動は、中国製輸入品との競争によって不利益を被ったと考える人々の支持を狙っての事だろう。

支持を決めかねる低中所得層
ただし、対中制裁関税が本当に中国製輸入品との競争によって不利益を被ったと考える人々の支持につながるかは、まだ分からない。

海外市場調査会社Syno Japanが米国の一般消費者(18〜79歳)1036人を対象として2018年10月に行ったインターネット調査(Syno Japan, 2018)によれば、対中制裁関税に対する支持率は高所得層ほど高く、年収15万ドル以上の層では過半数の支持を得ている一方で、実際に中国製輸入品の増加で不利益を被ったと見られる低中所得層では未だ2〜3割の支持しか得られていない。

回答者全体の4分の1ほどは、いまだ対中制裁関税に対する態度を決めかねているとしており、こうした態度未定の人々が今後トランプ大統領の対中関税制裁の支持に回るかどうかが、米中貿易摩擦の行方を左右する一つの鍵となろう。

中間選挙後の米国―米中関係の行方 [2018年11月09日(Fri)]
米中対立の背景
周知のとおり、米中間の貿易は不均衡な関係にある。米国の中国に対する貿易赤字は拡大を続けており、2017年には3,757億ドルに達した。これは、米国の貿易赤字全体の46.3%を占める額である。

ただし、いまや米国にとって中国は最大の貿易相手国である(2017年時点で、第2位はカナダ、第3位はメキシコ、第4位は日本)。2017年には米国貿易全体の16.3%を中国が占めるに至っている。中国にとっても米国は最大の貿易相手国である。

なぜ米国と中国は、経済相互依存を深めながらも、対立を増しているのであろうか?

国際政治学では従来、多くの実証的な研究が経済相互依存の紛争対立抑止効果を肯定する結果を出してきた。

経済相互依存は紛争対立を抑止するのか、あるいは助長するのかは、自由な貿易投資を推進している現在の国際社会にとって、非常に重要な命題である。

経済相互依存と国家間の紛争対立との関係は、国際政治学における主要な論点の一つであり、従来、主に二つの立場から対立する見方が提示されてきた。一つは、かつてモンテスキューが述べたとおり「経済的な相互依存の進展は政治的な協力関係を育む」(Viner 1951ほか多数)という見方。この見方は、ヨーロッパの統合、米中の接近、米ソのデタントなどを正当化する考えとして、多くの人間に支持されてきた。一方で、こうした相互依存の協調促進効果を批判する見方も根強く存在してきており、中には「経済的相互依存の進展は、協調を促進するどころか、むしろ政治的な対立を作り出す」(Gilpin 1981など)と主張する者もいる。

経済相互依存下で対立が深まる因果関係については、先行研究および筆者自身の研究から、以下の5つの仮説が得られる。

1.経済相互依存は既存大国と新興大国との覇権争いを必ずしも抑止しえない(Papayoanou1 1996)
2.経済相互依存が対立抑止効果を持つのは民主主義体制においてのみである(Gelpi & Grieco 2000)
3.相互依存は対等な関係ではなく、より依存の低い国は、より依存の高い相手国に対して高圧的になる(Gilpin 1981など)
4.経済相互依存が抑止しうるのは軍事衝突。相互依存にある国同士では、政策決定者が互いに「対立が軍事衝突には発展しない」と予測し合うからこそ、外交的対立が増加する(Gartzke 1998)
5.相手国との貿易によって不利益を受けた比較劣位産業の関係者が、自国政府を強硬姿勢へと動かす(関山2018)

これら5つの仮説は、客観的な状況証拠から見て、いずれも一定の説得力がある。

恐らく現実には、これら全ての因果関係が(その他の因果関係とともに)多かれ少なかれ作用して、結果としてトランプ政権を中国との貿易戦争へと駆り立てたのだと筆者は考える。

では、これら5つの因果関係が正しいとすれば、米中貿易戦争は今後どのように展開していくと考えられるのか、予測してみたい。

直近1〜2年:米中貿易戦争の現状維持
この点、まず直近1、2年の展開を考えるにあたっては、第5の仮説が手掛かりになろう。

つまり、対中関税制裁が、トランプ共和党政権にとっては選挙の支持目当てという事であれば、中間選挙を終えれば、差し当たって現状以上にエスカレートさせる理由はなくなる。

特に、各種の世論調査では、必ずしも対中関税政策が広範な支持を得られていない由であるから、なおさら今後の出方は慎重になろう。

ただし、この貿易戦争によって米国が受ける負の影響が顕在化するには時間がかかる。

むしろ米国では、追加関税を払わされる米国企業・国民(特に中国製部材を扱う企業関係者)にとっては不利益だが、米国政府にとっては追加的な関税収入(単純計算で約300億ドル)という成果が期待しうる。

この追加関税収入で、中間所得者向けの減税(5000万人に年額600ドル減税可能)やインフラ投資(メキシコ国境の壁は総額200億ドル)などを積極的に行うことで、大統領選に向けた支持獲得を狙うことが可能になる。

中間選挙の結果、連邦議会が上下院でねじれたので、向こう2年間は中間層向けの追加減税や予算措置を伴うインフラ整備といったトランプ政権の政策は、議会を通らなくなるだろう。

しかし、恐らくトランプ大統領にとっては、そんなことはお見通しで、「米国民の利益になる政策を実施しようとしているのに、民主党が邪魔をして実現できない」と、全部、民主党のせいにして、大統領選へ突き進むのだろう。

結局、むこう1、2年は、より大きく依存している中国側が何らかの妥協を示さない限り、しばらくは相互に引き上げた関税の維持が続くと予想される。


向こう5年前後:米国の対中経済攻撃継続
さらに、向こう5年くらいの米中関係を考えると、米国が中国に貿易戦争を仕掛けるインセンティブは続きそうに思う。

まず、10年、20年という長い目で見ると、第3の仮説で述べた米中経済相互依存関係の非対称性(つまり、米国の対中貿易赤字)は徐々に解消されていくと予想される。

それはなぜかと言えば、中国自身や他の新興国の成長に伴い、中国製品の米国市場依存は低下していくだろうし、そもそも中国も、人件費の高騰などのために、世界の製造拠点としての地位を他国に譲っていくことになるからである。

米中間の貿易摩擦が長引けば、こうした流れを加速させることになろう。

逆に言えば、米国が経済相互依存関係の非対称性をテコに中国に外交的圧力をかけるとすれば、今が一番のチャンスであると言える。

その意味では、やはり向こう数年は、米国が貿易摩擦を中国に仕掛けるインセンティブが維持されるかもしれない。

10年後〜:主導権争い不可避だが、全面紛争はない
その後の10年、20年の展望をするのは難しいが、第1の仮説のとおり、既存大国である米国が、自らの利益に沿って構築してきた国際レジームの現状維持を望む一方で、台頭する新興大国である中国が、それを自国に有利な形へ変更しようとする結果、それぞれの立場を巡って摩擦が起こるということは、恐らく避けようがない。

まして、第2の仮説として指摘したように、中国が共産党一党独裁の下で今後も言論統制や宗教弾圧を続けるとなれば、その対立に油を注ぐことになろう。

しかし、仮説4で述べたとおり、米中両国は互いに今や最大の貿易相手という深い経済相互依存で結ばれ、共に核兵器保有国という安全保障の相互依存関係にもあることを忘れてはならない。

昨今の米中関係を指して「新冷戦」と呼ぶ向きもあるが、米中関係は米ソ関係とは異なる。米ソは、経済的な結びつきは乏しく、安全保障での対立のみが先鋭化した。

しかし米中は、一つの国際経済秩序に共に属する世界第一と第二の経済大国であり、それだけに貿易、投資、金融、技術など様々な国際経済問題をめぐって主導権争いが繰り広げられることになるだろうが、一つの国際経済秩序を維持共有していくことには、共通の利益を有する。

つまり米中は、安全保障面での緊張だけが先鋭化していくという関係にはないのである。

もしも両国が、「トゥキディデスの罠」に陥り、全面的な紛争へと対立を深めると事となれば、それは各々に耐えがたい犠牲を強いる。

そうであればこそ、ワシントンも北京も、両国の対立は軍事衝突以上へとエスカレートする前に妥協を図りあえると互いに予想し、かえって政府高官演説や政策文書で互いに非難し合ったり、経済摩擦を起こしたりといった対立は今後も頻繁に起こるだろうが、世界を二分するような全面的な紛争を米中が繰り広げることはないと筆者は考える。
米中関係―なぜ経済相互依存の米中が対立するのか― [2018年11月09日(Fri)]
米中はなぜ対立するのか
2018年7月6日、米国が中国の知的財産権侵害への対抗措置という名目で818品目の輸入品に340億ドル規模の制裁関税を発動し、中国も同規模の報復関税を発動。さらに8月23日には第2弾、9月24日には第3弾の相互関税引き上げへと発展し、対立はエスカレートしてきている(表1参照)。

表1 米中の相互関税引き上げ措置
表1.png

周知のとおり、米中間の貿易は不均衡な関係にある。米国の中国に対する貿易赤字は拡大を続けており、2017年には3,757億ドルに達した。これは、米国の貿易赤字全体の46.3%を占める額である。

ただし、いまや米国にとって中国は最大の貿易相手国である(2017年時点で、第2位はカナダ、第3位はメキシコ、第4位は日本)。2017年には米国貿易全体の16.3%を中国が占めるに至っている(図1参照)。中国にとっても米国は最大の貿易相手国である。

図1 米中貿易額の推移
US_China_Trade.png
(データ出所)米国商務省

つまり、米中は深い経済相互依存関係で結ばれている状態。

この点、国際政治学では従来、多くの実証的な研究が、経済相互依存の紛争対立抑止効果を肯定する結果を出してきた。

それにも関わらず、なぜ米国と中国は、経済相互依存を深めながらも、対立を増しているのか?

そもそも、自由な貿易投資の進展によって、世界全体で経済相互依存が進むなかで、その経済相互依存が紛争対立を抑止するのか、あるいは助長するのかは、非常に重要な命題である。

なかんずく、いまや世界一位、二位のGDPを誇る米国と中国の間で、経済相互依存が本当に対立抑止に効果を持たないのかどうかは、今後の国際社会の行く末に大きな影響があるテーマである。

経済相互依存下の対立に関する5つの仮説
経済相互依存下で対立が深まる因果関係については、先行研究および私自身の研究から、5つの仮説が得られる。

1.経済相互依存は既存大国と新興大国との覇権争いを必ずしも抑止しえない(Papayoanou1 1996)
2.経済相互依存が対立抑止効果を持つのは民主主義体制においてのみである(Gelpi & Grieco 2000)
3.相互依存は対等な関係ではなく、より依存の低い国は、より依存の高い相手国に対して高圧的になる(Gilpin 1981など)
4.経済相互依存が抑止しうるのは軍事衝突。相互依存にある国同士では、政策決定者が互いに「対立が軍事衝突には発展しない」と予測し合うからこそ、外交的対立が増加する(Gartzke 1998)
5.相手国との貿易によって不利益を受けた比較劣位産業の関係者が、自国政府を強硬姿勢へと動かす(関山2018)

仮説@ トゥキディデスの罠
第一の仮説は、既存大国と新興大国とは不可避的に覇権争いをするものであり、その覇権争いは経済相互依存も抑止しえないという、いわゆる「トゥキディデスの罠」という説。

ハーバード大学のアリソン名誉教授によれば、過去500年間の覇権争い16事例のうち、20世紀初頭の英米関係や冷戦など4事例を除き、12事例は戦争に発展した。

もし、この仮説が正しいならば、このたびの貿易戦争は、今後続く米中間の覇権争いの序章に過ぎないことになる。

今次の貿易戦争は、中国の知財侵害を名目に発動されたものだが、実際、電気通信やITといった分野の特許申請数では、中国が米国を抜き、世界一位になっている。今後のAIを中心とする第四次産業革命での覇権争い、中国の優位に対する米国の焦りといったものが、今回の貿易摩擦の背景の一つという事は言えるかもしれない。

実際、トランプ政権下において、クリントン政権以来オバマ政権に至るまでの対中融和姿勢は明らかに変化してきている。

ただし、現下の米中関係が、過去500年間の覇権争いで新旧大国が妥協した4事例に続くのか、戦争まで発展した12事例に倣うのかは、現時点で判断できず、10年後、30年後、50年後に歴史を振り返って検証せざるを得ない。

仮説A 民主体制 vs. 非民主体制
第二の仮説は、経済相互依存が対立抑止効果を持つのは民主主義体制においてのみであるという考えだ。

これは、民主主義が確立された国同士では,他の体制を採用する国との関係に比して戦争が起こりにくいとする、いわゆるデモクラティック・ピース論と深く関わる。

マイケル・ドイル(Doyle, 1983)やブルース・ラセット(Russet, 1993)らによれば、民主主義国の間では、

(1)平和的解決を好む規範が共有されていること、
(2)議会での政策決定過程の透明度が高く、海外からも理解しやすいため、相互不信が高まりにくいこと、
(3)同じ価値観を共有する民主主義国は攻撃の大義名分を作りにくいこと、

などを理由に、民主主義国同士では戦争などの全面対立は生じにくいとされる。

一方、このデモクラティック・ピース論の裏を返すと、非民主主義国たる中国に対して、米国は、

(1)平和的解決を好む規範を共有しておらず、
(2)中国の政策決定過程は不透明で不信が残り、
(3)人権問題などで攻撃の大義名分を見出しやすい、

という事になる。

思うに、このような異質な中国に対する米国の敵視というのは、もちろん昨今の米中対立をもたらした直接的要因とは言えないが、少なくとも対立を助長する要因ではあると言えよう。

仮説B 非対称な相互依存関係
第三に、相互依存関係にある二国において、より依存の小さい国は、より依存の大きい国に対して高圧的になるとの考えがある。

つまり、相互依存で結ばれた国家同士であっても、依存の程度には国家間で大きな違いがありうるし、またその程度は変化もする。もし、A国がB国との貿易に大きく依存している一方、B国にとってはA国との貿易への依存度が相対的に小さいとすれば、B国はA国に対して「自分との関係が大事だと思うなら、こちらの言う事を聞け」と強要するインセンティブが働きうる。

南シナ海をめぐる中国とベトナムやフィリピンとの対立などは、その典型例。

では、米中関係はどうかと言うと、やはり中国の方がより大きく米国に依存している。2017年時点で、中国の貿易依存度(貿易総額/名目GDP)は34.2%であるのに対し、米国は20.3%である。米中は、互いに最大の貿易相手国であるとは言え、そもそもの貿易依存度に差がある。

さらに、相手市場への依存度(相手国への輸出額/名目GDP)という点でも、米国が僅か0.7%であるのに対して、中国は4.2%に上る。

今回の貿易摩擦は、米国側がそうした米中相互依存関係の非対称性を見透かして発動したものとも考えられる。

仮説C 相互依存の外交的対立助長効果
第四に、相互依存にある国同士では、政策決定者が互いに「対立が軍事衝突には発展しない」と予測し合うからこそ、外交的対立が増加するという説がある。

先に検証してきた3つの仮説以上に、この4つ目の仮説が、昨今の米中対立の背景をよく説明するものと筆者は考える。

一口に国家間の対立と言っても、その程度には差がある。経済相互依存関係にある国同士でも、互いに口頭や文書で非難し合うことはあるし、それが時には軍艦の移動などの武力誇示や経済関係の一部制限などの経済制裁を伴う場合もある。

しかし、その対立が軍事衝突まで至れば、それは自国民の生命身体を危険に晒すことになるばかりでなく、経済的にも不可逆的な犠牲が生じることになるため、相互依存が深ければ深いほど、互いに対立を軍事衝突以上へとエスカレートさせないように妥協を図ると予想される。

そして、互いに低次の対立が高次の対立へとエスカレートしないと予想しあうのであれば、かえって外交上の非難・威嚇や経済制裁といった低次の対立を回避するインセンティブは低下することなる。

2010年前後から日中間では、以前にも増して対立が目立つようになってきたが、その背景にも、こうした相互依存の外交的対立助長効果を見てとれるように思う。

ひるがえって米中関係について見れば、両者は互いに今や最大の貿易相手国であり、深い経済相互依存関係で結ばれている。

もしも両国が、第一の仮説として述べたとおり、アリソン教授の言う「トゥキディデスの罠」に陥り、全面的な紛争へと対立を深めると事となれば、それは軍事的ばかりにだけでなく、経済的にも各々に耐えがたい犠牲を強いるものとなる。

だからこそ、ワシントンも北京も、両国の対立は軍事衝突以上へとエスカレートする前に妥協を図りあえると互いに予想していると考えられる。そして、そうであればこそ、政府高官演説や政策文書で互いに非難し合ったり、追加関税措置を相互に発動したりといった、比較的低次の対立はかえって回避されにくくなることも理解できる。米中関係の現状は、まさにこうした状況にあるものと筆者は考える。

仮説D 比較劣位産業からの突き上げ
最後にもう一つ、経済相互依存の深化した二国間では、相手国からの輸入品との競争に敗れた比較劣位産業の関係者が、選挙などを通じて、自国政府を相手国への強硬姿勢へと動かすという事も考えられる。

国際経済学の標準的な貿易理論では、デービッド・リカード以来、各国が比較優位のある産業に特化し、自由貿易をすれば互いに利益を得ることができると考えられている。この理論の大前提は、労働力や資本などの生産要素が比較劣位の産業から比較優位の産業へと速やかに移動するということ。

しかし現実には、労働力の移動はそれほど容易ではない。たとえば、長年農業に従事してきた者が、外国からの安価な輸入品との競争に負けて廃業寸前になったからといって、すぐさま金融業界へ転職することは難しいし、また、住み慣れた町を離れて家族とともに遠く離れた場所に引っ越すのも転職の障害となる。労働力の移動は、標準的な貿易理論が想定するほどスムーズではなく、多くは自由貿易の結果として収入減、失業、廃業といった憂き目を見ることになる。

それでも、標準的な経済理論では、国全体の経済で見れば自由貿易による利益が損失を上回ることが強調されるが、政治的には、むしろ自由貿易によって憂き目を見ることになった比較劣位産業関係者の存在こそ重要である。

彼らは、選挙やロビーイングなどを通じて、自分たちに憂き目を遭わせた相手国への報復を主張することができる。また、そうした元労働者の票を期待する政治家の側が、報復的な政策を自らアピールすることもあろう。

この点、米国では、中国からの輸入品との競争に晒された地域で、失業率の上昇、労働参加率の低下、賃金の低下、障害者手当等の受給率上昇といった影響が確認されている。

相手国からの輸入品との競争に敗れた比較劣位産業の関係者が、自国政府を相手国への強硬姿勢へと動かすという考え方は、この場におられる皆様には当たり前に聞こえるかもしれないが、実は国際政治学における従来の相互依存研究では、あまり指摘されてこなかった説である。ただし、現状の米中貿易戦争の背景としては、説得力を持ちうる。

まとめ
なぜ米国は、今や深い経済相互依存関係で結ばれた中国に対して、制裁関税を発動し、強硬な姿勢で対立しているのか。

その真の理由は、米国の政策決定背景に通じた人々へのインタビューなどで明らかにせざるを得ないが、本稿で検証した5つの仮説は、客観的な状況証拠から見て、いずれも一定の説得力がある。

恐らく現実には、これら全ての因果関係が(その他の因果関係とともに)多かれ少なかれ作用して、結果としてトランプ政権を中国との貿易戦争へと駆り立てたのだと筆者は考える。
米中貿易戦争―米国は何を得るのか― [2018年11月07日(Wed)]
米中貿易戦争

2018年3月23日以来、米中間の貿易摩擦が、まさに「戦争」と呼ぶに値する激しさを伴っている。米国は、中国を含む多くの国を対象に、通商拡大法232条に基づき鉄鋼およびアルミニウム製品に追加関税措置を発動し、これに対する報復として中国商務部は、中国へ輸出される米国製品128品目に約30億ドルの追加関税をかける計画を発表した。

2018年7月6日には、米国が中国の知的財産権侵害への対抗措置という名目で818品目の輸入品に340億ドル規模の制裁関税を発動し、中国も同規模の報復関税を発動。さらに8月23日には第2弾、9月24日には第3弾の相互関税引き上げへと発展し、対立はエスカレートしてきている(表1参照)。

表1 米中の相互関税引き上げ措置
表1.png

米中の非対称な相互依存関係
相互依存関係にある二国において、より依存の小さい国は、より依存の大きい国に対して高圧的になるとの考えがある。

つまり、相互依存で結ばれた国家同士であっても、依存の程度には国家間で大きな違いがありうるし、またその程度は変化もする。もし、A国がB国との貿易に大きく依存している一方、B国にとってはA国との貿易への依存度が相対的に小さいとすれば、B国はA国に対して「自分との関係が大事だと思うなら、こちらの言う事を聞け」と強要するインセンティブが働きうる。

南シナ海をめぐる中国とベトナムやフィリピンとの対立などは、その典型例。

では、米中関係はどうかと言うと、やはり中国の方がより大きく米国に依存している。2017年時点で、中国の貿易依存度(貿易総額/名目GDP)は34.2%であるのに対し、米国は20.3%である。米中は、互いに最大の貿易相手国であるとは言え、そもそもの貿易依存度に差がある。

さらに、相手市場への依存度(相手国への輸出額/名目GDP)という点でも、米国が僅か0.7%であるのに対して、中国は4.2%に上る。

IMFはじめ多くの組織が試算しているとおり、米中間の貿易が滞った場合、それが経済全体に与える影響は、米国よりも中国の方が大きくなると予想されよう。

今回の貿易摩擦は、米国側がそうした米中相互依存関係の非対称性を見透かして発動したものとも考えられる。

追加関税収入による減税・インフラ投資?
この貿易摩擦の結果、中国には得るものがほとんどない。

一方、米国政府にとっては追加的な関税収入(単純計算で約300億ドル)という成果が期待しうる。

もちろん、追加関税を払わされる米国企業・国民(特に中国製部材を扱う企業関係者)にとっては不利益だが、この追加関税収入で、中間所得者向けの減税(5000万人に年額600ドル減税可能)を行うことで、その不満を解消することもできる。

また、インフラ投資(メキシコ国境の壁は総額200億ドル)などを積極的に行うことで、大統領選に向けた支持獲得を狙うことも可能になる。

この点、中間選挙の結果、連邦議会が上下院でねじれたので、向こう2年間は中間層向けの追加減税や予算措置を伴うインフラ整備といったトランプ政権の政策は、議会を通らなくなるだろう・

しかし、恐らくトランプ大統領にとっては、そんなことはお見通しであろう。「米国民の利益になる政策を提案しているのに、民主党が邪魔して実現できない」と言って、全部、民主党のせいにして、大統領選へ突き進むのだろう。

米中貿易戦争 負の影響?
米中貿易摩擦が、両国や世界各国の経済に与える影響については、さまざまな試算がなされている。

しかし、そうした試算の多くは「もし、米中間の貿易が大きく減少したら、経済全体にどのような影響があるか」を試算したものである。

この点、これまでの3段にわたる米中相互関税引き上げ措置の中身を見てみると、対象物品を慎重に選んでおり、米中間の貿易に深刻な影響が出ることはないのではないかとの印象を受ける。

米国は、中国からの輸入額の50%に相当する物品に制裁関税を課している。しかし、その対象の中には、中国の対米輸出の2大物品であるスマート・フォンとパソコンは含まれていない。この2品だけで、中国の対米輸出額の約18%ほどを占めるのみならず、その製造の裏側には多くの米国企業、台湾企業、日本企業などが関わっている。

もし、中国製のスマート・フォンとパソコンが制裁関税の対象に含まれていたら、多くの米国企業、台湾企業、日本企業に影響が及ぶところだろうが、米国は貿易摩擦の影響が大きく広がらないよう、慎重に対象物品を取捨選別しているのだ。

中国側も、米国からの輸入額のおよそ90%に既に報復関税を発動済みであるが、米国からの最大の輸出品目である航空機は、対象外としている。こうした中国側の選択にも、この貿易摩擦の経済的、政治的影響を出来る限り小さくしようという中国側の意図が見て取れる。

なお、中国側の報復関税の影響については、中国側の消費者が価格上昇(特に米国製完成車や大豆)の影響を少し受けるかもしれないが、米国側への影響は限定的だろう。

中国による報復関税で、対中輸出に関わる米国企業・国民(特に大豆農家など)が不利益を被る可能性はあるが、中国が代替輸入先を開拓するにもかなりの時間がかかるからである。

図1 米中の貿易構造
図3.png
(出展)三井住友銀行「米中貿易摩擦の動向」2018年9月
日中関係改善の見通し―首脳会談実現の可能性 [2014年08月27日(Wed)]
日中関係改善?
7月末に福田康夫・元総理と習近平・中国国家主席が北京で極秘会談したとの報道以来、にわかに日中関係改善を期待させる動きが続いている。

8月9日には、ASEAN関連外相会議(於:ミャンマー・ネピドー)に際し、2012年9月以来2年ぶりとなる日中外相会談が行われ、日本の岸田文雄外相と中国の王毅外相が両国関係改善に向けて意見交換した(朝日新聞2014年8月10日)。

さらに8月18日には、李源潮・中国国家副主席が日本からの超党派若手政治家訪中団と会見し、「歴史を鑑とし、未来へ向かう精神で両国関係を発展させたい」と述べている(新華網日本語版2014年8月19日)。

首脳会談の可能性
こうした昨今の動きが本格的な日中関係改善につながるかどうか。中国側が日本との関係改善に本気で動き出すかどうか。その試金石は、やはり11月のAPEC首脳会議(於:中国・北京)開催時における日中首脳会談の実現とその内容であろう。

この日中首脳会談実現の可能性について、筆者は、せいぜい50%程度と今のところ見ている。

鍵となるのは、習主席が本当に安部総理との会談について、デメリットを上回るメリットを感じるかどうかだ。

中国歩み寄りの背景
習主席の態度に変化の兆しが見えてきた背景として、日本の対中国投資の大幅減少を指摘できる。2014年上半期、日本の対中国直接投資は、前年同期比48.8%減の24億ドルにとどまった。

日本の対中国投資減少は、中国の人件費上昇が主な原因と見られるが、昨今の日中関係の悪化により企業が投資を手控えている面もあろう。中国にとって日本は、いまでも主たる投資提供者である。その日本からの投資が、これだけ大幅に減少すれば、中国経済にとって痛手であろう。特に、日本企業の進出に期待している中国の地方経済にとっては、死活問題ともなりうる。

このため中国は、日本の対中国投資大幅減少が明らかになってきた今年夏前頃から、経済交流面に限っては、日本に対する態度を少し変化させてきていた。たとえば、米倉・前経団連会長が5月に訪中した際、李源潮国家副主席が面談に応じ、投資をためらう日本企業の不安を払拭しようとした事は、こうした中国側の変化を象徴する動きと見て取れる。

しかし、今のところ日本の対中国投資に回復の兆しは見えない。習主席が、日中関係改善の意欲を見せ始めたのは、こうした日本企業の委縮姿勢に変化を起こしたいからだと筆者は考える。

習主席の損得計算
ただし、中国の指導者にとって、日本に対する融和姿勢は政治上の命取りになりうる。習主席としても、腐敗の取締りや既得権益の打破により、国内で政敵の恨みを買いやすい状況にある状況下、尖閣諸島問題や歴史認識問題などで対立が深まっている安部総理に対して、安易な歩み寄りをすることは、政治的な危険を伴う。

11月までには、まだまだ時間がある。いずれにせよ安部総理はAPEC出席のため北京を訪れるのだから、習主席は直前まで日中首脳会談の開催について態度を明らかにすることなく是非を検討することが可能だ。

その間、習主席としては、安部総理など日本側の出方に注目しながら、中国国内からの反発の可能性も考慮に入れて、日中首脳会談の損得について思案を続けることになるだろう。
蜜月の米中関係 低い防空識別圏問題の優先度 [2013年12月26日(Thu)]
12月12日、アジア歴訪を終えたバイデン米国副大統領は、安倍総理との電話会談で中韓訪問の報告を行った。

日本では、特に中国に対してバイデン氏が防空識別圏(ADIZ)の撤回を強く求めるか期待されていたが、バイデン氏の報告は「ADIZ設定の(筆者注:一方的な)発表を認めない」と中国側に伝えただけというものであった。

もとよりバイデン日中韓歴訪にあたっては、中国のADIZ問題ばかりに日本国内の注目が集まった。

たしかにADIZは、バイデン氏と習近平中国国家主席との会談でも話題の一つになったが、あくまで話題の一つに過ぎない。

「G2」などと煽るつもりはないが、実際、世界第1、第2のGDP規模を有し、ともに国連安保理常任理事国でもある米中両国政府にとって、関心を共有する問題は数多い。

4時間以上にわたるバイデン・習会談では、中国経済の展望、台湾問題、チベット問題、米中経済関係、北朝鮮問題、イラク問題、シリア問題など、幅広く意見交換された。むしろADIZは、会談後の記者会見で両氏の口から触れられる事すらなかった。

そもそも米国政府は、12月4日のヘーゲル国防長官記者会見から明らかなとおり、中国がADIZ設定を「一方的かつ突然」に発表した点と、通過する「全ての航空機」に飛行計画の提出を求める点が、地域の不安定化要因となることを懸念しているにとどまる。

ADIZ撤回を求めて中国との関係をこじらせるつもりは毛頭なさそうであり、まして、この問題で日中間の対立に巻き込まれることは米国の利益に沿わない。

近年、米中関係は、大きな懸案のない中、経済面を中心に良好な関係が続いている。

安倍総理と習主席との首脳会談が未だに実現しないなか、オバマ米国大統領と習主席とは今年すでに2度の会談を行い、協力関係を確認し合った。

米国との間で共通利益に基づく協調的な「新しい大国関係」の構築を目指す習主席と、アジア重視のオバマ大統領とは、方向性が一致している。バイデン訪中時にも、気候変動問題、エネルギー問題、食品薬物安全問題などでの協力が合意された。

米中間では、最近まで台湾問題が最も利害の一致しにくい問題とされ、かつてケ小平は台湾問題を「中米関係の主たる障害」と呼んだ。

しかし、2008年に台湾で親中的な国民党が政権復帰して以来、中台関係は安定している。目下、台湾が米中関係の発展を損ねる状況にはない。

一方、日中間では東シナ海をめぐって対立が深まっている。日本政府が米国に中国への共同圧力を求める度、中国との協調関係構築を目指す米国政府は難しい立場に置かれる。極論すれば、台湾にかわって日本が、米中関係発展の新たな「主たる障害」になりかねない。

今後米中間では、衝突を予想する一部の懸念をよそに、経済関係の更なる深化が見込まれる。特に、現在交渉中の投資協定が締結されれば、両国間の直接投資が一層活発化するだろう。

また、中国指導部の国際経済ブレーンとされる政府系シンクタンク幹部によれば、米中投資協定の次には、TPPへの中国参加も視野に入ってくるという。実際、サンチェス米国商務次官は、今年5月の訪日時に中国のTPP参加を歓迎する意向を示しており、中国商務部の沈丹陽報道官も「参加の可能性を分析していく」と述べている。

投資協定もTPPも平坦な道ではないが、米中は大きな流れとして経済を中心に関係を深めていくだろう。日本が米国を頼りに中国との対立を深めるなら、いつか日米の利害は一致しなくなる。日本政府のバランス外交に期待したい。
中国環境政策の特徴 ー廃棄物リサイクルの日中比較― [2013年12月25日(Wed)]
中国は、循環経済の構築を目指し、中国版家電リサイクル法ともいうべき廃棄電器電子製品回収処理管理条例(Regulation on the Disposal of Waste Electrical and Electronic Equipment)を制定するなど、日本などの先進国と比較しても遜色のない内容の廃棄物リサイクルの法規制整備を進めているように表面上は見える。

その意味において、中国では廃棄物リサイクル規制の国際的な調和が見られるとも言える。

中国における廃棄物リサイクル規制の国際的調和が事実ならば、多くのリサイクル技術を有する日本や他の先進国にとっては、一層のビジネスチャンスや国際協力の可能性をもたすことになろう。

そのため、中国のリサイクル政策の現状については国際的な関心が寄せられており、ここ数年少なからぬ研究が蓄積されてきている(神鋼リサーチ、2003;メタル経済研究所、2004;イー・アンド・ソリューションズ、2005;アジア経済研究所、2007;JFEテクノリサーチ、2009;高偉俊、高永志、2011;小島、2012など)。その多くは、中国における廃棄物リサイクルの目覚ましい進展を報告するものである。

しかし、一人当たりGDPの水準で見れば中進国の水準にやっと追い付いてきたばかりの中国において、本当に先進国並みの廃棄物リサイクル規制が進んできているのであろうか。経済社会の発展段階という点から見た場合、我々は中国の廃棄物リサイクル規制の現状をどのように評価しうるのであろうか。

本稿では、こうした問題意識を背景に、中国の廃棄物リサイクル規制の現状を日本の経験と比較することを通じて、その評価を行うことにしたい。

以下では、まず第1節において、日本と中国について、経済社会の発展と廃棄物リサイクルの進展の相関関係について検討する。

その結果、「中国は、経済社会の発展水準が十分でないことから、廃棄物排出量の増大による環境負荷への対策が日本などに比べれば進んでいないのではないか」との仮説が直観的に得られる。

続く第2節から第4節においては、この仮説を検証するべく、日中の廃棄物リサイクル規制の展開を確認したうえで、その比較から中国の廃棄物リサイクル規制の特徴を探る。

中国の廃棄物リサイクル規制は、未だ包括性や総合性という点で不十分な面を残しており、日本などの先進国並みの規制となっているとは必ずしも言えない。

また、中国の廃棄物リサイクルは、廃棄物排出量のリデュースによる環境負荷の低減を第一の目的とするものではなく、むしろ経済発展のための資源の有効利用を目指したリユースやリサイクルが中心である。

中国には、日本の廃棄物リサイクルの歴史と関連技術に学ぶことを期待する。また、日本には、中国の廃棄物リサイクルの発展を官民連携して助けることで、国際貢献と経済利益の両立を実現してもらいたい。

第1節 日中の経済発展と廃棄物リサイクル

(1)環境クズネッツ曲線

先進国と発展途上国の環境負荷を比較する際にしばしば用いられる考え方に、環境クズネッツ曲線仮説というのがある。

環境クズネッツ曲線とは、縦軸に何らかの環境負荷指標、横軸に国民所得水準をとったとき、ある所得水準までは右上がりの関係が認められるが、ある転換点を超えると右下がりの関係になるというものである(Selden and Song, 1994; Grossman and Krueger, 1995; Cole et al., 1997)。

環境クズネッツ曲線は、SO2排出量などに関する実証的な研究から経験的に得られた仮説であり、そもそもその存在に疑問を抱く経済学者もいる(Arrow et al, 1995など)。また、なぜそのような曲線を描くのかも十分には解明されてはいない。

ただし、先行研究では、所得水準の向上に伴い上級財である環境に対する需要が高まることや、環境保全のための投資を促すような制度が構築されることなどが、環境クズネッツ曲線仮説を支持する背景要因として指摘されている(Andreoni,J.and A.Levinson, 2001など)。

廃棄物排出量については、国民所得水準の向上に伴い増大する傾向が一般的に見られるため、環境クズネッツ曲線仮説は成り立たないようにも思える。しかし、各国で廃棄物リサイクルが進んできている状況を考えると、環境負荷として問題なのは廃棄物全体の量では必ずしもなく、むしろ再利用されずに処理される廃棄物の量だろう。

(2)日中の一人あたり不再利用産業廃棄物排出量

ここでは、経済社会の発展と廃棄物リサイクルの進展について日中比較を行うために、再利用されずに処理される産業廃棄物の一人当たり排出量と一人当たりGDP(購買力平価ベース)との相関関係について検討する。

一般廃棄物ではなく、産業廃棄物を検討対象とするのは、日本と中国の双方において、産業廃棄物の方が比較的長期の統計が利用可能だからである。

経済社会の発展に伴う所得水準の向上を比較する指標としては、購買力平価ベースのGDPを用いた。また、排出量やGDPについて、人口規模が大きく異なる日中間で国際比較を行うために、総量ではなく一人当たり値で比較する。

再利用されずに処理される産業廃棄物の一人当たり排出量を縦軸に、一人当たりGDP(購買力平価ベース)を横軸にとってみる。

日本では1990年以前の産業廃棄物排出量について入手可能な統計がないため図では完全な逆U字カーブとはならないが、一人当たりGDPが約2万5000ドルに達したあたりから明らかな右下がりへと転じている。時期的に言えば、日本がこの転換点を経験したのは1990年代中頃のことである。

 一方、一人当たりGDP(購買力平価ベース)が未だ1万ドルに満たない中国では、経済社会の発展に伴い急速に一人当たり不再利用産業廃棄物排出量が増大しており、図のとおり反転の気配は見られない。

(3)仮説

この事からは、日本と中国の廃棄物リサイクル規制について、二つの仮説が直観的に得られよう。

まず日本については、経済社会の発展に伴い、廃棄物排出量の増大による環境負荷への懸念が高まり、その対策が進められた結果、一人当たり不再利用廃棄物排出量が減少してきているのではないかという仮説である。

一方、中国については、経済社会の発展水準が十分でないことから、廃棄物排出量の増大による環境負荷への対策が日本など先進国に比べれば進んでいないのではないかという仮説である。
 

以下では、この二つの仮説を検証すべく、日本と中国における廃棄物リサイクル規制の実際の進展状況を確認することにしたい。

第2節 日本の廃棄物リサイクル規制の展開

日本では、1960年代になると、経済の高度成長に伴う人口の都市集中と産業活動の発展によって、廃棄物の質の多様化と量の加速度的な増加が生じた。こうした状況において、1970年に制定されたのが廃棄物処理法(Waste Management and Public Cleansing Law)である。

同法は、廃棄物の排出抑制や適正処理などを通じて、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的としており、そのために国民、事業者、国、地方公共団体が負うべき責務や、廃棄物処理のルール等について定めたものである。

その後も1970年代から1980年代を通じて、経済活動のさらなる活発化や国民のライフスタイルの変化などに伴い、廃棄物の発生量は増加を続け、その種類も多様化していった。

一方で、廃棄物処理施設の確保はますます困難となり、また、廃棄物の増大が環境を損なうおそれについても広く認識されるようになり、廃棄物の不法投棄等の不適正な処理が大きな社会問題となるようにもなった。

このような状況に対応するため、1990年代以降、日本では、環境への負荷の低減のため、廃棄物のrecycleと再生資源の回収・利用を促進する動きが政策面で見られるようになった。

たとえば、1991年には、廃棄物の減量化や再生の推進、廃棄物の適正処理の確保などを主な目的として、廃棄物処理法が改正された。その後も廃棄物処理法は、廃棄物の種類や関連する問題の多様化に伴い、頻繁に改正が積み重ねられ、現在に至っている。

また、同じく1991年には、資源の有効活用、廃棄物の発生抑制および環境の保全を図るために、再生資源利用促進法(Law for the Promotion of Utilization of Recycled Resources)が制定された。

同法は、主に企業におけるリサイクルの促進を目的としており、企業に対してその製品の設計段階から再生利用を考えて製品づくりを促すとともに、製造工程での再生資源の利用促進を求めるものであった。また、廃棄物の再生利用を促進するためには、アルミやスチールなど材質ごとの分別回収が必要となるため、再生資源利用促進法では、分別回収を容易にするために、材質表示のルールについても定められた。

こうした流れを受けて、1990年代には、容器包装リサイクル法(Law for the Promotion of Sorted Collection and Recycling Containers and Packaging)および家電リサイクル法(Law for the Recycling of Specified Kinds of Home Appliances)が制定され、recycle対策の法整備が進んだ。

容器包装リサイクル法(1995年制定)は、分別回収されたガラス瓶やペットボトルなどの容器包装廃棄物を原材料や製品として再商品化することにより、廃棄物の減量と資源の有効利用を図るものである。また、家電リサイクル法(1998年)とは、一般家庭や事務所から排出された家電製品(エアコン、テレビ、 冷蔵庫、洗濯機など)から、有用な部分や材料をリサイクルし、廃棄物を減量するとともに、資源の有効利用を推進するための法律である。

このように日本の廃棄物リサイクルは、経済活動やライフスタイルの変化に伴い、1990年代までは廃棄物処理法などの個別の法律によって規制されてきた。

しかし、個別法による場当たり的な対策では廃棄物の発生量増大を食い止めることができず、廃棄物の最終処分場の確保が年々困難になっていった。また、不法投棄の増大などによる環境負荷の問題も複雑化していった。

そこで日本政府は、このような廃棄物リサイクル問題の解決のため、従来のrecycle対策の更なる強化に加え、2000年代に入る頃からは、廃棄物のreduceおよびreuse対策を本格的に実施するようになった。

すなわち、(1) 製品の省資源化・長寿命化等による廃棄物の発生抑制(リデュース)対策、 (2) 回収した製品からの部品の再利用(リユース)対策、(3)事業者による製品の回収・リサイクルの実施などリサイクル対策の強化、という“3R”(=reduce、reuse、recycle)を総合的に講じようというものである。

まず2000年には、廃棄物リサイクル対策の基本的な法的枠組みを形成するものとして、循環型社会形成推進基本法(The Basic Law for Establishing the Recycling-based Society)を新たに制定した。

同法は、廃棄物リサイクルに関する個別の法律に対して上位に位置する法律であり、(1)3R実施の法制化、(2)拡大生産者責任(Extended Producer Responsibilities)の規定、(3) 政府による循環型社会形成推進基本計画の策定などについて定めている。

この基本法の制定とともに、個別の廃棄物リサイクル関連法が一体的に整備された。まず2000年には、再生資源利用促進法が抜本的に改正され、資源有効利用促進法(Law for Promotion of Effective Utilization of Resources)へと名称も変更された。

同法においては、廃棄物等の発生抑制(reduce)の観点から、(1)製品(自動車、家電製品、パソコン、ガス・石油機器等)の製造に使用される原材料の削減、(2)耐久性の向上を図る設計、(3)部品の統一化・共通化、(4)修理等による長期間の利用の促進などを事業者に義務付けた。また、リサイクル促進の観点からは、(1)工場等で発生する副産物(スラグ、汚泥等)の利用促進に計画的に取り組むことを事業者に義務付けた。

そのほか、個別の廃棄物リサイクルについても、従来の容器包装や家電に加え、建設リサイクル法(Construction Material Recycling Law)(2000年)、食品リサイクル法(Law for Promotion of Recycling and Related Activities for Treatment of Cyclical Food Resources)(2000年)、自動車リサイクル法(Law for the Recycling of End-of-Life Vehicles)(2002年)などが相次いで整備されてきている。

第3節 中国の廃棄物リサイクル規制の展開  

中国では、廃棄物全般に関する基本法として、1995年に、工業廃棄物、生活ごみ、危険廃棄物の処理に関する規則を定めた固体廃棄物汚染環境防治法(Law on the Prevention and Control of Environmental Pollution by Solid Waste)が制定されている。

同法は、2004年に改正され、製品の生産者が廃棄物から発生する汚染を防止する義務を負うことが明文化されることになった。

 また、2002年に制定された清潔生産促進法(Cleaner Production Law)は、企業に対して、汚染物質の排出が少ない生産過程の採用とともに、production life cycleにおいて回収、リサイクル、リユースしやすい製品の生産を求めている。

また、2008年に制定された循環経済促進法では、廃棄物リサイクルに関する拡大生産者責任を規定しており、工業廃棄物の総合利用、リユースと再生資源のリサイクルなどについて定めている。

こうした基本法の下で、中国では、特に発生量の増大が見込まれ、かつリサイクルによって得られる経済利益の大きな自動車廃棄物や電子廃棄物について、個別のリサイクル規制が進んできている。

自動車のリサイクルについては、2001年に廃自動車回収管理弁法(Regulation on the Disposal of End-of-Life Vehicles)が制定されている 。

中国では、違法な廃自動車の転売や劣化部品の再利用によって交通安全上の問題が発生している。このため同法では、政府の監督下で自動車やオートバイなどの回収および再生利用を行うことが規定されている。

具体的には、主要部品(エンジン、方向指示器、変速器、サスペンション、フレーム)についてはリユースが禁止されており、解体企業はこれらの部品を鉄くずとしてリサイクルしなければならないとされている。

電子廃棄物に関しては、2004年に条例案が公表されてパブリックコメントに付された後、紆余曲折を経て、2009年に廃棄電器電子製品回収処理管理条例(Regulation on the Disposal of Waste Electrical and Electronic Equipment)が公布された。いわゆる中国版家電リサイクル法である。

同条例は、洗濯機、冷蔵庫、テレビ、エアコン、パソコンの5品目を対象とし、これら家電廃棄物について、(1)家電販売店等に回収の義務があること、(2)生産者から基金を集め、解体企業に費用助成すること、(3)解体企業は許可制とすること、などが規定されている。

また、2007年から施行されている電子情報製品汚染防治管理弁法(Regulation on the Restriction of the Use of Certain Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment)は、EUのRoHSと同様に、広範な電子・電器製品を対象とし、製品中の鉛や水銀などの有毒物質の含有量を安全基準以下に低減させることを企業に求めている。

第4節 廃棄物リサイクル規制の日中比較

以上見てきたとおり、日本では、第2次世界大戦後から今日に至るまで、経済社会情勢の変化及びそれに伴う廃棄物の質および量の変化に応じて、様々な廃棄物リサイクル規制が講じられてきた。

一方、中国においても、2000年代から資源の有効活用や環境の保全に対する意識が高まるようになり、廃棄物リサイクルに関する法規制の整備も進んできている。

こうした日中の廃棄物リサイクル規制の展開を比較してみると、以下の相違点を指摘できる。

(1)規制の対象品目

 まず、第一に、規制の対象となる品目の相違である。

日本の廃棄物処理法や中国の固体廃棄物汚染環境防治法は、いずれも廃棄物全般を対象としている基本法であり、この限りにおいては日中の間で規制対象品目の相違はないように見える。

しかし、こうした基本法の下で具体的な廃棄物リサイクルについて定める個別法において、その規制対象品目が日中の間で異なるのである。

日本では、1990年代に容器包装リサイクル法および家電リサイクル法が制定され、分別収集されたガラス瓶やペットボトルなどの容器包装廃棄物および家電製品(エアコン、テレビ、 冷蔵庫、洗濯機など)のrecycle対策の法整備が始まった。さらに2000年代になると、廃棄物リサイクル関連法の整備が一層進み、その規制対象品目は、従来の容器包装や家電に加えて、建築廃棄物(コンクリート、アスファルト、木材など)、食品廃棄物、廃棄自動車などに広がっている。

一方、中国では、特に発生量の増大が見込まれ、かつリサイクルによって得られる経済利益の大きな自動車廃棄物や電子廃棄物(洗濯機、冷蔵庫、テレビ、エアコン、パソコン)については個別のリサイクル規制がなされているものの、日本のような容器包装、建築廃棄物、食品廃棄物のリサイクル規制は未整備のままである。

(2)規制の包括性

また、日中の間では、廃棄物リサイクル規制の包括性についても相違がある。

日本では、1990年代以降、環境への負荷の低減のため、廃棄物のrecycleと再生資源の回収・利用を促進する動きが政策面で見られるようになった。

特に2000年代に入る頃からは、循環型社会形成推進基本法の制定に見られるとおり、廃棄物発生量増大を食い止めるために、従来のrecycle対策の更なる強化に加えて、廃棄物のreduceおよびreuse対策という“3R”を総合的に講じることを重視するようになっていった。

一方、中国でも、再生資源の有効活用という意識は普及しており、清潔生産促進法や循環経済促進法に見られるとおり、廃棄物のリユースやリサイクルなどについてはルール作りが進んできている。

しかし、廃棄物発生量のリデュースによる環境負荷の低減という意識は未だ十分には普及しておらず、日本の“3R”ように廃棄物のreduce、reuse、recycle対策を総合的に講じるような包括性は未だ有していない。

結論

中国は、日本などの先進国と比較しても遜色のない内容の廃棄物リサイクルの法規制整備が進んできているように表面上は見える。

しかし、一人当たりGDPの水準で見れば中進国の水準にやっと追い付いてきたばかりの中国において、果たして本当に先進国並みの廃棄物リサイクル規制が進んできているのであろうか。

第1節で明らかにしたとおり、日本では、一人当たりGDP(購買力平価ベース)が2万ドルを超えた1990年代中頃から、再利用されない産業廃棄物(不再利用産業廃棄物)の一人当たり排出量が減少に転じ、現在に至っている。

一方、一人当たりGDP(購買力平価ベース)が未だ1万ドルに満たない中国では、経済社会の発展に伴い急速に一人当たり不再利用産業廃棄物排出量が増大しており、反転の気配は見られない。
 
この調査結果から二つの仮説が直観的に得られよう。

まず日本については、経済社会の発展に伴い、廃棄物排出量の増大による環境負荷への懸念が高まり、その対策が進められた結果、一人当たり不再利用廃棄物排出量が減少してきているのではないかという仮説である。

一方、中国については、経済社会の発展水準が十分でないことから、廃棄物排出量の増大による環境負荷への対策が日本など先進国に比べれば進んでいないのではないかという仮説である。

 こうした仮説を検証するべく、第2節から第4節においては、日本と中国における廃棄物リサイクル規制の実際の進展状況を比較してきた。

その結果、中国の廃棄物リサイクル規制には、以下の二つの特徴が浮かび上がった。

第一に、中国では、自動車廃棄物や電子廃棄物については個別のリサイクル規制がなされているものの、日本のように広範な廃棄物のリサイクル規制は未整備のままである。

第二に、中国の廃棄物リサイクル規制は、廃棄物のリユースやリサイクルなどについてはルール作りが進んできているものの、日本の“3R”のように廃棄物発生量のリデュースによる環境負荷の低減という点では対策が進んでいない。

 これら二つの特徴から言えることは、まず、中国の廃棄物リサイクル規制は、未だ包括性や総合性という点で不十分な面を残しており、日本などの先進国並みの規制となっているとは必ずしも言えないという事である。

また、中国の廃棄物リサイクルは、廃棄物排出量のリデュースによる環境負荷の低減を第一の目的とするものではなく、むしろ経済発展のための資源の有効利用を目指したリユースやリサイクルが中心だという事である。

中国では、廃棄物処理に積極的に取り組む姿勢を政府が見せてはいるものの、いまだ一人当たり国民所得が購買力平価ベースでも1万ドルに満たない状況において、現実には経済発展が優先されているものと考えられる。

中国では、人口の都市集中と産業活動の発展によって廃棄物の量も増え、2005年には都市ごみの量が世界一となった。人口増が進む北京市では都市ごみの量も一日約1.8万トンに達し、現在も年8%の割合で増加しているとされる(環境省2011)。しかも、これらの都市ごみの多くは埋立処理されているため、埋立場の不足も懸念されている。

しかし、こうした天然資源の大量消費と廃棄物の大量排出によって成り立つ「一方通行」型の社会経済システムは、将来に亘って環境に悪影響を与える。一方通行型の社会から生じる環境負荷の低減を図り、持続可能な社会を実現するためには、日本のように廃棄物のReduce、Reuse、Recycleの3Rを総合的に進める必要がある。

この点、日本は、本稿で述べたとおり、経済発展の段階に応じて、さまざまな廃棄物問題を経験し、解決してきた歴史がある。

また、こうした歴史を前提に、日本の静脈産業には、必要最低限の技術から高水準の技術まで、多様な技術の蓄積がある。

中国も、日本の歴史に学び、技術を取り入れることで、より包括的な廃棄物リサイクルを行い、真の循環型社会の構築を目指してもらいたい。また、日本も、循環型社会の構築に向けた法整備等のシステムに係る国際協力を中国に続け、日本の静脈産業の中国進出を積極的に支援することで、国際貢献と経済利益の両立を実現してもらいたい。


※ 本稿の内容は、Western Economic Association InternationalのThe 10th Biennial Pacific Rim Conference(Tokyo, March 15, 2013)において口頭発表されたものである。
※ 本稿は、大幅な加筆修正と英訳の後、Takashi Sekiyama (2013), “A Paradox in China’s Environmental Management: An argument from a comparative study on waste recycling policies between China and Japan,” Chinese Business Review, Vol. 12, No.6, PP. 425-434として発表されている。



参考文献
<日本語文献>
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環境ビジネス(2010)「DOWA・住友商事 中国企業と連携し,天津市で家電リサイクル事業を展開」2010年3月26日(http://www.kankyo-business.jp/ news2010/20100326a.html)。
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JFEテクノリサーチ株式会社(2009)『平成20年度資源循環推進調査委託費 国際循環システム対策費−中国上海市における循環型経済の発展に向けた政策・循環型経済実施区モデルの状況調査報告書』経済産業省産業技術環境局リサイクル推進課。
神鋼リサーチ株式会社(2003)『平成14年度廃棄物等処理再資源化推進(循環ビジネスシステム調査)中国のリサイクル関連の法制度及び産業の実態調査』経済産業省産業技術環境局リサイクル推進課。
日本家電製品協会(各年版)『家電リサイクル年次報告』(平成16〜21年度版)。
高偉俊・高永志(2011)「中国都市部における家電廃棄物リサイクルの現状および排気量の予測に関する研究」、『東アジアへの視点』、2011年9月。
環境省『環境白書』各年版。 

<中国語文献>
国家統計局(各年版)『中国統計年鑑』中国統計出版社。

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対中国援助の今昔 [2013年12月25日(Wed)]
2013年末、北京空港に降り立つ。晴れているのに、空が灰色にくすみ、太陽がかすんで見える。この1年、中国の大気汚染の深刻さは日本でも広く知られるところとなった。

中国の環境政策には、ある共通した「矛盾」を指摘できる。関連する法制度の整備や中央政府の政策方針の見栄えが良い割には、環境保護の実が上がらないのである。気候変動対策しかり、廃棄物リサイクルしかりである。

実は、これら「一見すると環境対策に見える政策」において、中国政府は必ずしも環境保護を第一の目的とはせず、むしろ効率的な資源利用による経済成長を優先してきた。深刻な大気汚染も、環境を蔑に経済成長に邁進してきたツケが回ってきたものと言えよう。

その経済成長に、日本も一役買ってきた。中国の改革開放政策の開始に伴い1979年から始まった日本の対中国援助は、これまでの累計で3兆6000億円を超える。

日本の援助によって中国では、多くのインフラ整備が進められた。1980年から1995年の間に中国で整備された鉄道電化総延長の41%、総発電能力の11%、光ファイバーケーブルの16%、化学肥料生産能力の56%が、日本の援助によるものである(関山2008)。

こうした対中国援助は、日本自身にも裨益してきた。二度の石油危機を経験した1970年代末の日本にとって、エネルギー輸入元の多角化が重点課題であった。

かかる背景を反映して、1980年代の対中国円借款対象プロジェクトも、エネルギーの開発と輸送に関するものが大半を占めていた。例えば第一次円借款の対象プロジェクトのうち、石臼所港は、三井石炭鉱業など6社が共同開発する炭鉱からの石炭輸出に使われ、秦皇島港も日中が共同開発する大同地域等からの石炭の輸出のために使用される港であった。同時に、これら港と炭鉱地域を結ぶ鉄道も整備して、石炭の対日輸出を促したのである。

また、政府の対中国援助を足がかりに少なからぬ日本企業が中国に進出し、発展する中国経済から少なからぬ恩恵を受けてきた。

いまや中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、2013年上半期の時点で輸出の17.6%、輸入の21.4%を占める(JETRO2013)。日本の援助によってインフラ整備された沿海部には多くの日本企業が進出し、その数は2011年末時点で22,790社を数える(中国統計局2012)。

一方で、中国の経済成長が残したツケについても、日本は無縁でいられない。中国の大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、温室効果ガス排出などは、いずれも直接あるいは間接に日本にも影響が及ぶものである。

そう思いを巡らしてくると、日本は中国への援助について今再び考え直してみてもよいのかもしれないと思う。

2000年代に入る頃から、日本では「中国脅威論」が高まり、対中国援助も激しい批判に晒された。その中心的存在であった円借款は2007年12月に人目を忍ぶようにひっそりと新規供与を終了し、無償資金協力や技術協力も10年ほど前に比べると随分減少している。

もちろん、いまや世界第2位の経済規模を有するようになった中国に、大規模インフラ整備のための資金を提供すべき必要性はもはや低い。

また、援助はあくまで日本の利益のために行う外交政策である以上、災害援助のような人道支援でもない限り、単に「中国の地方や貧困地域には、まだ困っている人が大勢いるから」という理由だけで援助すべきものでもない。

今、日中両国間の国民感情は史上最悪の状況にある。言論NPOの世論調査によれば、日中両国それぞれ9割以上の国民が相手国に対して良くない印象を抱いているという。

しかし、もしも「日本は中国に対して30年以上にわたり多大な援助をしてきたのに、対日感情は悪化するばかりだから」とか、「多くの日本国民が対中嫌悪感を覚えているなか、中国に対する援助はできないから」という理由で対中国援助の是非を考えるのなら、それは間違いだろう。

援助は、感謝されるためにするのではない。まして、相手の利益のためだけにするのでもない。日本にとって利益があるかどうかが重要だ。

かつて対中国援助は、中国経済成長のボトルネック解消が日本経済に裨益することを狙って始められ、実際に大きな効果を挙げてきた。

今、発展を遂げた中国が直面する環境破壊、公害、感染症などの問題について、日本が技術協力などを通じて解決を助けることは、何も中国のためだけではない。

日本への直接・間接の越境被害を予防・解消するためにも、また、中国の持続的発展から日本が裨益し続けるためにも、継続の意義があるように思う。

両国間の国民感情が悪化している中、政府まで活動を縮小すれば、民間の経済活動や交流活動まで委縮しかねない。むしろ、国民感情が悪化している時だからこそ、政府に積極的な対応を望みたい。

【参考文献】
関山健(2008)「日中の経済関係はこう変わったー対中国円借款30年の軌跡」高文研
JETRO(2013)「ドル建て貿易概要2013年9月」
中国国家統計局(2012)「中国貿易外経統計年鑑2012」

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