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発達障害者が働き続けるために必要な「ライフキャリア教育」(文京学院大学より)[2014年11月29日(Sat)]
来春に迎える「発達障害者支援法」施行10周年を契機に考える

文京学院大学 オピニオンレター Vol.2
提言者:松爲 信雄 (人間学部教授 専門:職業リハビリテーション学 )
[職業研究所(現日本労働研究研修機構)研究員、障害者職業総合センター主任研究員、神奈川県立保健福祉大学などを経て、文京学院大学教授。障害者の職業リハビリテーションに長年携わる。厚生労働省労働政策審議会障害者雇用分科会委員、文部科学省特別支援教育総合研究所運営理事・外部評価委員長などを歴任。著書に「発達障害の子どもと生きる」「職業リハビリテーション学」「就業支援ハンドブック」など多数。]

〜一部抜粋〜

■ そもそも発達障害とは

本題に入る前に、まずは発達障害について整理しておきます。

私は、発達障害は、生まれながらの「脳の情報処理機能の障害」ととらえています。その中には自閉症やアスペルガー症候群、学習障害などが含まれます。これらの障害の特徴は、多面的な能力のそれぞれの発達過程やレベルに不均衡があり、そのことがさまざまな障害をもたらしているということです。

そのため、「書くことはできるが、読むことが苦手」「人との会話は苦手だが、記憶力は優れている」といったように、人によって障害の表れ方が大きく違うという特徴があります。個人差はありますが、苦手な分野でなければ、私たちと変わらない能力だったり、時には、思いも及ばない能力を発揮したりします。

発達障害の人がどの程度存在するかという統計は、実ははっきりしません。発達障害の定義自体がはっきりしていないため、専用の障害者手帳がなく、実数を正確に把握することはできないのです。

目安としては、一般的に5歳児検診時点でおよそ6〜9%と言われています。最近は発達障害の人が増えた、と言われていますが、少なくとも統計上の根拠はありません。

さらに、そもそもの診断自体もあいまいで、年齢とともに診断結果が変わることもしばしば起こります。

■ 発達障害特有の難しさ

身体障害や知的障害は、乳幼児期にはっきりとした診断が下されやすく、その対処の方法も発達の早い時期から決めることができます。特別支援教育を受けさせて障害者雇用率制度の枠組みの中で働く、という進路や職業選択の明確な見通しが立てやすいのです。

一方、発達障害のある人の進路の選択は、障害のない人とまったく変わらない場合から障害に十分に配慮した場合まで、非常に個人差があります。障害の特徴と「個性」との境目が極めて分かりにくいため、問題が発見されにくく、学習上のつまずきも本人の性格や努力不足、あるいは保護者のしつけの問題とされがちです。

また、就労に際しての本人や保護者の考えも、成育歴や職歴、診断時期、二次的な障害等による違いや、障害そのものや障害者手帳の取得に対する考え方などの面で、大きく違っています。

■ ライフキャリアを考える

こうした能力発達の不均衡さが、発達障害のある人にとって、毎日のあるいは人生においての「生きづらさ」を強いています。そこで重要になるのが、「ライフキャリア」を踏まえた教育です。

「ライフキャリア」という言葉は耳慣れないかもしれませんが、キャリアには、狭義と広義の二つの意味があります。狭義には、「職務内容や経歴、職業上の地位や役割など、長期にわたる職業生活における歩み」の意味で使われ、これを「ワークキャリア」と呼びます。対して、広義には「生涯に出会うさまざまな役割の相互作用であり、その人の人生や生き方の全体」を指し、これを「ライフキャリア」と呼びます。

ドナルド・E・スーパーは「ライフキャリアの虹」というものを提唱しています。これは、人の生涯は「成長」「探索」「確立」「維持」「衰退」の過程をたどるなかで、「子ども」「学生」「余暇人」「市民」「職業人」「家庭人」などのさまざまな役割(ライフロール)を担って生きてゆくことを示しています。

これらのどの役割に自分が価値を置きながら生きるかが、ライフキャリアの重要な視点です。それは、一つの正解があるわけではありません。「職業人として全てを充実させる」でも、「職業人と家庭人を両立させる」でも、どちらを重視するかが本人の生き方そのものということです。

■ 「仕事を続ける」から逆算

発達障害のある人が生きるということは、こうしたさまざまな役割を遂行できるということです。そのためには、それに必要な能力を幼少時・学齢期を通じて育成しなければなりません。

学校時代の数倍もの時間を大人の社会人として過ごすための準備としてのキャリア教育は、そうしたことからも大切なのです。学齢期の全体を通して、自分の興味や関心、得意分野や不得意なことなどへの自己理解を深めながら、自分の能力を伸ばしてほしいのです。

特に、社会生活では「職業人」が多くの人にとって重要な役割となります。そのため、高校や大学時代におけるキャリア教育の目指す方向は、「仕事に就いてそれを継続するには、今、何をすることが望ましいのか」に焦点を当てることが必要でしょう。そうでなければ、仮に就職しても職場になじめなかったり能力と合わない仕事だったりして、離転職を繰り返す可能性が高まるからです。

〜一部抜粋〜

■ 働くための準備をする

まず、先ほどの「ライフキャリアの虹」にもあるように、将来、大人になってから要求されるさまざまな場面での役割を遂行できるように、小さい頃から系統的な学習や訓練をすることです。学童期には、読み書き等の学習能力、家事などの日常生活能力、健康や衛生面の自己管理などを学びます。それを基盤として、青年期前期からは、職業の理解、職場の基本的ルールやコミュニケーション能力などの職業生活の基盤となることを学び、青年後期には、職務を遂行するうえで直接的に必要となる知識や技術の習得に向かいます。

次に、「自己肯定感」を持たせることです。どんな小さなことでも、自分は他者の役に立ち、社会が受け入れる有益な存在であるという実感、あるいは、自分自身に誇りと自信を持たせる経験を積ませてほしいのです。発達障害のある人は、その成長の過程で、例えば、苦手な分野で失敗して周囲の冷たい視線を受ける経験が重なると、失敗を恐れて積極的な活動を控えるようになり、そのことが将来への展望が持てなかったり、自己否定的な考え方に陥ったりしてしまいがちです。

さらに、学習することの喜びを持たせることです。努力して学ぶことの結果として、達成感や他の人の称賛を受けるという経験を積ませてほしいのです。学校生活を通してこの体験があれば、就職してから企業の行うOJTにも率直に対応できるでしょう。

特に、2018年4月からの障害者雇用促進法の改正を見越した場合、自分の得意・不得意な能力を自覚してそれを体験的に理解できていること、不得意な能力への対処の仕方を身につけていること、得意・不得意な能力の特徴と対処の仕方について他者に説明できるとともに、必要に応じて援助を要請できること、どんな状況でストレスを受けるのかを自覚してその逃し方や対処方法のセルフコントロールができること、などが求められます。

最近は、「大人の発達障害」が話題になっています。生活するうえでのさまざまな「生きづらさ」を抱えた発達障害の人は、障害者雇用施策の最前線の課題でもあります。発達障害があったとしても、「ライフキャリアの虹」にあるさまざまな役割を主体的に選択して「QOL(人生の質)」を高めていけるか。その鍵は、今後のライフキャリア教育の充実にかかっていると言えるでしょう。

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