社会福祉学者による、日本における貧困の分析。著者によると、貧困は絶対的な数値基準などで定義することが難しく、その時代時代によって「再発見」されるものだという。確かに、何を貧困ラインとするかでそこで現れる数値もかなり違ったものになるだろう。また、ホームレスや、宿を転々とする日雇い労働者など、そもそも実態把握が難しいという問題もある。
著者は貧困の問題のなかでも、「固定化」の問題を重視する。人生の一部分(たとえば学生時代)だけ貧しい期間があるというのはたいしたことではない。問題は、常に貧困ライン周辺以下で生活をせざるを得ない人たちである。
第3章では若年期から中年期にかけての女性を対象としたパネルデータを用い、貧困経験を4つに分類(持続貧困、慢性貧困、一時貧困、安定)し、それぞれの属性との関係を分析している。詳しくは本書を読んでいただきたいが、その結果から「結婚して子どもがなく、本人が常用で働き続けている場合が最も貧困経験から遠く、単身継続、離死別、子ども3人以上で貧困固定化の危険が大きくなっている。」と指摘し、「現代日本では、標準型からはずれた人生を選択した場合、貧困のリスクが高くなっているとも言える。」と述べている。
後半では、貧困の要因を多様な視点から解説する。たとえば同じ労働者でも、職場の提供する労働宿舎に生活拠点を置く者のほうがホームレスになってしまう可能性が高いという。そのほか、未婚のままでいることや離婚、離別、学歴が高くないこと、貯蓄の少ない者、転職者・離職者、などが、貧困の要因としてあげられる。
これらは、一つ一つを見れば、誰にでも起こりうることかも知れない。しかし著者は、これらの要因は相互に関連性があり、その重なり合いが「不利な人々」を貧困の中に閉じこめ、社会的な諸関係から排除するように機能しているという。
さらに、日本の制度が不利な人々をさらに不利にさせていることを批判する。特に、社会保障の考え方としての「保険主義」が強すぎると批判していることは傾聴に値する。著者も言うように、日本の社会保障制度は、基本的に終身雇用の正規雇用者家族が共通に抱える一定のリスクに答えるべく設計されたものだ。それと裏返しに「正規ルート」からはずれた人たちが貧困に閉じこめられる。
著者の提案は、貧困を一時的なものにとどめ、固定的なものにしない政策の徹底である。たとえば、働ける年齢層には、失業扶助と職業訓練と住宅手当をセットにして支援することなどが考えられる。私もこれには賛成で、このような「トランポリン」を社会のあらゆる場所にしくんでいく必要があるだろう。イメージだけで語られがちな貧困問題を考えるのに必須の一冊だ。