「学校大改革 品川の挑戦」若月秀夫編著 [2008年10月08日(Wed)]
学校選択制、小中一貫教育、外部評価制度など、次々と制度改革をすすめてきた品川区の教育長、若月秀夫氏の著書。
VCASI(東京財団仮想制度研究所)において、学校選択制の制度設計についての検討を進めることになり、手始めとして読んだ本。実際に教育行政と教育現場で、血のにじむような努力をして改革を進めた方なので、その意見には迫力がある。 学校選択制と言えば、それに対する反論として、「格差や序列化を発生させるのではないか」とか「地域と子どもの関係を破壊するのではないか」というものがすぐ出てくる。しかし、著者はそういった意見を「机上の空論」と切って捨てる。以下引用。 「その意味で、学校選択制は、「格差」や「序列化」を固定化するどころか、むしろそれらを是正するためのきっかけを学校に与えたものなのです。今まで見えなかったけれど、確実に存在する「格差」や「序列」が白日の下にさらけ出されたからです。学校選択制は将来、学校間格差を生み出す、などという後ろ向きで根拠の無い心配をする前に、品川区は今ある格差や厳しさに欠ける学校の体質に問題を持ち、それを解消したかったのです。」 実体験からしてみてもこの話には納得できる。個人的な話で恐縮だが、私は品川区立東海中学校という学校を卒業した。当時は指折りの“荒れた”学校で、近隣の評判も良くはなかったと思う。ところが、今や品川区でも人気校の一つになっているという。これなどは、学校選択制の大きな成果だろう。また、「私立」という抜け道が充実している東京では、学校選択制批判は特に当てはまらないかもしれない。 一方、江東区のように、学校選択制を廃止してしまった区もある。特に難しいのは、 A導入すること自体に問題があった B導入したがその制度設計や運用に問題があった ABどちらが原因なのか見極めになるだろう。また、各自治体住民が「学校」というものについて、どういった点に期待しているかということも重要だ。いずれにせよ実態はしっかりみていなければならない。 著者によると、教育改革を実効性のあるものにするには、抽象的な「教育論」だけでは不十分で、それを実現するための仕組みを作る「経営論」も同時に必要になるという。具体的には、「教員一人一人が好むと好まざるとにかかわらず、結果的に「そうせざるを得ない状況」を学校の中に意図的につくりだすこと」だが、これは制度設計によって教員の意識を変えさせ、行動を促す仕組みを造るということだ。 思想としての教育論と、それを実現する手段としての制度設計という両面から攻めていく必要があると感じた。 |