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「検証中小企業金融」渡辺務、植杉威一郎 [2008年12月08日(Mon)]
中小企業金融について、たとえば「ゾンビ企業を延命する、非効率な貸出が行われている」といったような“通説”をデータに基づいて検証した本。用いられるデータはCRD(クレジット・リスク・データベース)という、中小企業の決算書データベースだ。CRDは年間約56万社もの膨大な企業データで、これまでブラックボックスであった中小企業の財務のデータ分析がようやくできる環境が整った。

本書で初めて明らかになる中小企業金融の実態は、それぞれが興味深いものだが、注目は第六章、政府による特別信用保証の検討だ。1998年頃、日本では、未曾有の信用収縮が起こり、いわゆる「貸し渋り」「貸しはがし」が横行していた。政府はそれへの対策として1998年10月から2001年3月まで、中小企業向け貸出に対する特別の信用保証制度を実施した。

信用保証の枠は当初20兆円、99年にはさらに10兆円が追加されて合計30兆円という大規模なものであった。融資に際しての審査はネガティブリスト方式(大幅な債務超過により事業継続が危ぶまれる等の理由がない限り、原則として信用保証の提供を承諾する)を採用し、他の信用保証制度と比較してかなり緩やかなものだった。また、担保や個人保証も強くは求めなかった。

結局30兆円のうち28.9兆円分の信用保証が実際に中小企業に提供された。私も2000年に通商産業省(翌年1月から経済産業省)に入省し中小企業庁に配属されたのでわかるが、当時からこの制度については「モラルハザードが起こってしまう」「金融機関は既存の融資を特別保証融資に振り替えるだけなので貸し渋りを防ぐことはできない」といった批判が多かった。当時の私の率直な感想としては、「貸し渋りの現状を考えればやむを得ないだろう」とは思ってはいたが、明確な根拠はなかった。

本書によれば、特別保証制度の利用企業では、長期借入金総資産比率が大きく増加しており、貸し渋りは明らかに緩和されているとのことだった。また、2005年度末時点での代位弁済率(中小企業の代わりに信用保証協会が弁済した分)は8.1%、金額にして2.3兆円である。これは制度実施にあたって国が想定していた範囲であった。また、本書の第一章によると、パフォーマンスが低い企業が市場から退出するという「自然な淘汰」のプロセスも機能しているとのことだ。おおむね政策立案者が意図した通りの結果になったようだ。

一方で、保証料率の設定や担保の提供などについて、制度の改善余地もあったことが明かになっている。今後年末、年度末で中小企業の倒産が増加すると思われるが、「新型特別保証制度」もその対策として検討の余地があるのではないか。
Posted by 佐藤孝弘 at 13:13 | 経済 | この記事のURL