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製造業派遣2009年問題と第二、第三の派遣村 [2009年01月14日(Wed)]
正月からの「派遣村」騒動がいったんおさまり、政治やマスメディアの関心は二次補正と定額給付金に戻ったように思います。しかし、2月末にはまた極めて深刻な雇用問題がクローズアップされることでしょう。

俗に「派遣2009年問題」と呼ばれていた問題があります。簡単に言えば、製造業における派遣労働者の契約のかなりの部分が2009年の2月28日に一斉に終わってしまうことです。

労働者派遣法は従来、特定業務にのみ派遣を認めるポジティブリスト方式を取っていました。それを1999年の改正で、一定の業務については禁止、その他は認められるというネガティブリスト方式に転換しました。2004年には、製造業への労働者派遣が解禁されました。これは2005年の3月に施行され、多くの製造業が派遣労働者を選びました。

さらに2007年、法改正によりこれまで1年だった製造業の派遣受け入れ可能期間が3年に延長になったわけです。これにより、もともと2007年2月末に契約が切れる予定だった製造業の派遣労働者が2年分延長されました。このような経緯で、2009年2月末に大量の派遣労働者の契約期間が終了することになりました。

3年の期間が経過すると、法律上企業はその労働者を正社員として直用するか、契約を終了しなければなりません。ただし、3か月のクーリング期間を置けばふたたび雇用することができます。

今般の景気悪化以前はこの2009年問題は、2月末に契約が切れてからの3ヶ月間をどうしのぐかという問題意識で論じられていました。経営者は不足する労働力をどう補うかに悩んでいたのです。請負の形式をまた復活させようという議論もありました。

それが、景気が一挙に悪化したことで、雇用危機の問題に転換されました。雇用調整したい経営者にとっては、この2月末が「チャンス」になってしまいます。つまり、2月末をもって契約を終了し、再契約しない、いわゆる「雇い止め」です。

日本の労働法では期間の定めのある労働契約についてその締結・更新を原則として自由としています。それを裁判所が「雇い止め法理」によって悪質なものは事後的に救済するという形をとっています。これは、期間の定めの契約であっても、業務の客観的内容や当事者の主観的な態様から、契約が実施的に期間の定めのない契約と同様であった場合は解雇権濫用法理が類推適用されるというものです。

このように、事後的な労働法上の救済の可能性はあるものの、それが適用されるのは一部の方でしょうし、そもそも裁判などやる余裕のある方は少ないでしょう。

当然、2月末の期限をもって全員が職を失うわけではありません。しかし、製造業の派遣労働者は40万人はいるわけですから、少なくとも数万人単位の失業者が一挙に出ることも考えられるわけです。全国に数百の「派遣村」ができるかもしれませんが、そのときすべてに対し正月のような対応をするのでしょうか、舛添厚生労働大臣、大村副大臣にはその覚悟があるのでしょうか。

こうしたことを麻生総理が認識しているかどうかが本当に心配です。ここでまた派遣村のとき同じような右往左往を続けるようであれば、本当に政権が終わる時でしょう。

追記:このエントリーを書いた後、厚生労働省の調査を知りました。これによると、派遣、契約、請負の各形態をあわせて、昨年10月から3月までで雇い止めが8万5012人とあります。月別の雇止めの予定数をみると11月〜1月が一番多く、2月3月は少し減っていますので、これまで一般に懸念されていた上記のような認識とすこしズレます(それでも数が多いことには変わりありませんが)。
また、調査の方法が聞き取りなので、どのくらい把握できているかも不明ですが、ひとまずこの数字を議論の出発点とするほかなさそうです。
Posted by 佐藤孝弘 at 10:06 | 経済 | この記事のURL