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「虚数の情緒 中学生からの全方位独学法」吉田武 [2008年12月30日(Tue)]
本年最後の本のご紹介になるが、ちょっと変わりダネを。先日本屋さんをブラブラしていたら、やたら分厚い本書が眼に飛び込んできた。手にとってみてみると、なんと全1000ページもある。どうやら中学生に数学を教えるための本のようだった。ペラペラめくってみると、数学の本のはずなのに「源氏物語」や「人類の誕生」の話も出てきており、一見して型破りの本であることがわかり、思わずその場で購入を決めてしまった。

私も数学は昔から苦手だった。それで特に今の仕事や生活に支障を来しているわけではないが、なんとなく数学に対する「うしろめたさ」があったのである。それを克服するつもりで読んでみると、非常に面白く、1000ページを読み切ってしまった。

本書は3部構成になっている。

第1部 独りで考える為に
第2部 叩け電卓!掴め数学!
第3部 振子の科学

これを見ただけで「普通ではない」感じを受ける方が多いと思う。第1部では、数学を学ぶ事の意義を、人類史から説き起こし100ページ以上もかけて中学生に説いている。読み物としても面白いし、なにより中学生を子供扱いせずに、真剣に語りかける著者の姿勢に非常に好感が持てる。

第2部では「虚数」というゴールにむけて、自然数、整数、有理数、無理数と「数」の範囲を徐々に拡張していく過程の解説がなされる。公式の導き方だけでなく歴史的経緯もあわせて書かれており、退屈しないようになっている。本当の基本からはじまって最後は「オイラーの公式」までたどり着いてしまう著者の話の展開のうまさには舌を巻く。そして第3部には「振り子」の話題を中心に、物理学の解説がはじまる。力学の基本から入って、最終的には今年ノーベル物理学賞を受賞した、南部陽一郎氏の「自発的対称性の破れ」の理論まで到達してしまうのである(ちなみに本書刊行はノーベル賞受賞前の2000年)。

相当高度な内容にも踏み込むのだが、知的好奇心にあふれる中学生であれば、本書も読了してしまうだろう。もちろん、大人が読んでも面白い。ページ数にひるまず、一人でも多くのかたが本書を取ってくれることを願う。