「第二回アフリカ賢人会議」
―日光で開催―
昨年の箱根に続き、第二回アフリカ賢人会議を6月24日から25日にかけて栃木県日光市で開催し、以下5名の賢人にご参加いただきました。参加者のほとんどがイスラム教徒であったため、会場となった名門・金谷ホテルは、ハラール対応のフランス料理を見事に提供してくださいました。
写真左から
• イブラヒム・ハッサン・マヤキ 元ニジェール首相
• アキンウミ・アヨデジ・アデシナ 前アフリカ開発銀行総裁
• スレイマヌ・ンデネ・ンジャイ 元セネガル首相
• メディ・ジョマ 元チュニジア首相
• アミーナ・グリブーファキム 元モーリシャス大統領
以下、会議冒頭での私の挨拶(原文英語)です。
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閣下並びにご列席の皆様、おはようございます。昨年に続き、第二回アフリカ賢人会議を開催できますことを、大変嬉しく思っております。遠路日本までお越しいただいた皆様に、心より感謝申し上げます。特に私が嬉しく思うのは、この会合を一度限りで終わらせることなく、再び皆様をお迎えし、議論の場を設けられるということです。
昨年の会合では、アフリカの持続可能な発展、とりわけブルーエコノミーと食料安全保障について、大変率直かつ有意義な議論を行うことができました。皆様からいただいたご提言は政策提言として取りまとめ、日本政府にも提出するとともに、TICAD9の機会にも共有させていただきました。
しかしながら、私はこのアフリカ賢人会議の価値は提言や成果だけにあるとは考えておりません。アフリカの発展も、アフリカと日本の協力も、一度の会議や一つの提言によって実現するものではありません。異なる国や立場を代表する皆様が率直に意見を交わし、相互理解を深め、信頼関係を築き、それを維持しながらさらに発展させていくことが何よりも重要であると考えています。信頼関係は一度築けば終わりではありません。継続的に顔を合わせ、率直な議論を重ねることで初めて深まっていくものです。だからこそ、私はこの会合を一過性のものではなく、長期的な取り組みとして育てていきたいと考えております。
私はこれまで長年にわたりアフリカの皆様と共に活動してまいりました。特に、1984年のエチオピアの飢饉をうけ、カーター元大統領、そして「緑の革命」でノーベル平和賞を受賞したノーマン・ボーローグ博士と共に、貧しい小規模農家に近代的農業を指導して今年で40年になります。その中で常に大切にしてきたのは、「現場には問題点と答えがある」という考え方です。そして、アフリカの未来を最もよく理解しているのは、実際にそれぞれの国や地域で課題と向き合い、指導的役割を果たしてこられた皆様であると考えています。だからこそ本日も、豊かな海洋資源と若い世代の力に恵まれたアフリカにおいて、ブルーエコノミーを通じた発展のために何が必要なのか、また日本を含む国際社会がどのような役割を果たすべきなのかについて、皆様の率直なご意見を伺えることを楽しみにしております。
ありがとうございました。
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また、二日間にわたる熱心な議論の結果は、笹川平和財団の小林正典氏が徹夜で整理し、出席者からの意見聴取を踏まえて若干の修正を加えたうえで、以下の通り取りまとめられました。
アフリカにおける持続可能なブルーエコノミーと
食料安全保障に関する賢人会議 声明文
豊かな天然資源に恵まれたアフリカは、急速に増加する人口とともに力強い経済成長を続けている。広大な海洋に囲まれた同大陸は、持続可能なブルーエコノミーの恩恵を享受し、食料安全保障の向上および持続可能な開発の推進に大きな可能性を有している。一方で、社会経済的な格差や不平等が課題として残っており、この潜在力を実現するためには、複雑かつ相互に関連する課題に取り組む必要がある。したがって、持続可能なブルーエコノミーの推進、食料安全保障の向上、そして特に日本とアフリカとの国際連携の強化に向け、以下の行動を推進することが提言される。
1.現在および将来世代のための海洋・沿岸生態系の保全海洋は地球表面の約71%を覆い、海底は11,000メートルを超える深さに達する。世界の海底のうち最新基準で測量されているのは28.7%にとどまっている。海洋は生物多様性と人々の生計を支える生命支持系として機能しているが、特に深海を中心にその多くは未解明である。現在および将来世代のために、海洋および沿岸の生物多様性と生態系を保全しつつ、海洋資源の持続可能な利用を促進するための行動が不可欠である。また、昆明・モントリオール生物多様性枠組や国家管轄権外区域の生物多様性に関する協定(BBNJ協定)などの国際的政策枠組に沿った政策の推進が重要である。
2.持続可能なブルーエコノミーにおける共便益の推進共便益アプローチは、持続可能なブルーエコノミーの推進における重要な要素である。複数の政策目標を相乗的に実施することにより、トレードオフを最適化しつつ政策全体の効果を高めることができる。マルチステークホルダー間の対話と協働、分野横断的な連携、並びに社会的包摂、技術活用、資金動員、国際協力といった多様な側面でのイノベーションの促進が重要である。
3.沿岸・海洋生態系の自然資本としての適切な評価沿岸および海洋生態系を自然資本として適切に評価することが不可欠である。自然資本の過小評価は、資源の保全および持続可能な利用、さらには利益の公正な分配を阻害する。カーボンクレジット制度は重要な手段であるが、その便益は地域社会や関係主体にとって中心的なものとされなければならない。
マングローブ、海草藻場、塩性湿地などのブルーカーボン生態系がもたらす炭素吸収、生物多様性、社会経済的価値は、さらに活用・検討されるべきである。日本のJ-ブルークレジットは、炭素量の定量化および認証クレジットを通じた金融取引を可能にする制度であり、生態系価値の評価および協働の促進に資する有益な示唆を提供する。
4.持続可能な商業養殖業の拡大持続可能な養殖業の推進には、商業的観点から見ても未開発の大きな潜在力が存在する。国内の水産物供給を拡大するため、特に養殖業やブルーエコノミー分野における起業家支援に重点を置きながら、商業養殖システムの拡大に向けた取り組みを加速することが重要である。また、各地における実証事業や経験の共有を通じて、その可能性や実現可能性を評価するとともに、適用可能で持続可能かつ経済的に採算の取れる養殖手法を検討・導入していくことが求められる。
5.違法・無報告・無規制漁業の撲滅違法・無報告・無規制(IUU)漁業の撲滅は優先的に取り組むべき課題である。IUU漁業は水産資源の持続可能な管理を損ない、正規の漁業者や国家に経済的損失をもたらすだけでなく、犯罪や違法活動とも関連している。
衛星データ、航空・海上監視、ドローンの活用、寄港国措置協定(PSMA)、漁獲証明制度、トレーサビリティ認証等の有効活用を推進する必要がある。これらの対策は、強制労働、人権侵害、人身・薬物密輸、組織犯罪、不法移民といったリスクの低減にも寄与する。地域・準地域レベルでの協力を強化し、地域漁業管理機関(RFMO)等の枠組みの下で協働を深めることが重要である。また、資金動員や制度強化のため、IUU漁業インデックス債の可能性も検討され得る。
6.防災力の強化と気候レジリエントな社会の構築沿岸・島嶼地域は、持続可能なブルーエコノミーの恩恵を受ける可能性が高い一方で、災害や気候変動の影響に脆弱である。早期警戒システムを含む防災力の強化が不可欠である。異常気象、海面上昇、沿岸侵食等に対応するレジリエントな開発の推進も重要であり、自然・生態系を活用した解決策が中核となるべきである。日本の知見や経験はアフリカと共有されるべきである。
7.地域・準地域枠組の活用アフリカ連合は「アフリカ・ブルーエコノミー戦略(2019)」等を通じて重要な政策枠組を提供している。アフリカ開発銀行はその実施を資金面で支援している。
能力開発や海上回廊、越境生態系管理などの分野では、西アフリカ経済共同体(ECOWAS)、南部アフリカ開発共同体(SADC)、政府間開発機構(IGAD)、インド洋委員会、ギニア湾委員会、サブリージョナル漁業委員会(SRFC)等との連携が重要である。
8.人材・リーダーシップ・起業家育成実務的な知識と技能の習得を通じた人材育成が不可欠である。これは雇用創出や所得向上、とりわけ若者の機会拡大に寄与する。職業訓練の強化が必要である。
また、リーダーシップおよび起業家育成を目的とした実践的・学際的プログラムとともに、スタートアップや中小企業を支援する資金メカニズムの構築が重要である。
9.科学技術の推進持続可能なブルーエコノミーは科学的知見に基づいて推進されるべきであり、地域社会の参画が不可欠である。教育・研究交流は能力構築および国際連携を促進する。日・アフリカの連携基盤として「ブルーエコノミー・アカデミー」の設立も検討され得る。
10.資金動員アフリカ開発銀行は持続可能な開発のための重要な地域資金供与機関である。同銀行は、多様な資金スキームを通じブルーエコノミー支援を増大、多角化していくことは重要である。また、「若手起業家・イノベーション多援助機関信託基金」、「イノベーション・起業家支援室」、「アフリカ教育・科学・技術イノベーション基金」、この他ベンチャー投資と操業初期資金提供などを拡充していくことが重要である。アフリカが有する膨大なブルーエコノミー資産の価値を引き出し、機関投資家の資金を動員するためには、各国が主権に基づくブルーエコノミー資産担保証券を開発し、それらを国内および地域の資本市場に上場することが重要である。また、アフリカの若者が営む事業への資金供給を加速するため、若者向け起業家投資銀行の取り組みをアフリカ全域で拡大し、資金調達へのアクセスを促進することも重要な鍵となる。アフリカブルーイノベーション基金の拡充や日・アフリカ・ブルーエコノミー基金の設立の方式を検討することも提案し、日本政府や連携機関がそうした検討する行うことを奨励する。
11.TICADの有効性向上TICADは日本とアフリカの協力を促進する重要なプラットフォームである。第10回TICADの主要テーマとしてブルーエコノミーを位置付けるべきである。会場を日本とアフリカで交互に開催する方式は有効であり、実地経験の共有は連携促進に寄与する。アフリカ側関係者の日本での実践的学習、日本側企業のアフリカでの活動参加の双方が重要である。
12.今後の展開日本とアフリカの政府、民間、関係機関の連携を通じ、具体的行動の実施が求められる。笹川平和財団海洋政策研究所は、日本財団を含む連携団体の支援と共に、研究、政策対話、有料事例共有、リーダー・起業家育成に向けた試行的取り組み、その他持続可能なブルーエコノミーの推進に資する活動を継続すべきである。また、その成果は2027年の第3回会合等で報告されることが期待される。
2026年6月25日 日本・日光にて採択
アミーナ・グリブ=ファキーム 元モーリシャス大統領
スレイマン・ンデネ・ンディアイ 元セネガル首相
イブラヒム・ハッサネ・マヤキ 元ニジェール首相
メディ・ジョマア 元チュニジア首相
アキンウミ・アデシナ アフリカ開発銀行前総裁
笹川 陽平 日本財団・笹川平和財団名誉会長
角南 篤 笹川平和財団理事長
鈴木 周一 ササカワ・アフリカ財団理事長