「第一回アジア賢人会議」
―笹川平和財団主催―
アジアの賢人4名にお集り願い、アジアの現状と将来、そして世界に対するそれぞれの問題意識を開陳いただき、率直な意見交換をする機会が、3月23日〜24日の二日間にわたり椿山荘で開催された。
賢人の方々は以下の通りだが、インドのシャシ・タルール議員は急用のため欠席された。議論はイギリスのチャタムハウス方式を採用し、個人名よる発言は公表しないこととなっているため、筆者の冒頭の発言のみをここに掲載します。
<参加者>
●タイ:チュアン・リークパイ氏(元首相)
●インドネシア:ハッサン・ウィラユダ氏(元外相)
●バングラデシュ:ムハマッド・ユヌス氏(元暫定政府首席顧問、ノーベル平和賞受賞者)
●スリランカ:ハルシャ・クマラ・ナバラトネ氏(国際的なNGOセバランカ財団会長)
●インド:シャシ・タルール(国会議員) ※欠席
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アジア賢人会議の様子
おはようございます。賢人の皆さんに於かれては多忙な中訪日いただき感謝申し上げます。
初めに私の人生経験についてお話をしたいと思います。私が6歳の時、1945年3月9、10日の夜にたった2時間半で10.8万人が空襲で殺される壊滅的な被害を受ける中、私の町では、私と母の2人が奇跡的に生き残りました。町の至るところに死体が横たわり、焼夷弾によって一面が焼き尽くされておりました。数十万戸の家屋が、木造であったために完全に焼失してしまいました。そのような状況の中で食料もなく、大変お恥ずかしい話ではありますが、町に生えている草を茹でて塩をつけて食べ、何とか生き延びるという経験をいたしました。そうした幼少期の体験が、私の活動の原点となっております。
私はビロード革命をされたチェコのハヴェル大統領(当時)とともに、「このままでは世界がどうなるかわからない。賢者が集まり、共に議論を深める場が必要である」との考えのもと、17年間にわたり「フォーラム2000」という国際会議をプラハで開催してまいりました。なぜプラハであったのかと申しますと、ロンドンやパリ、ニューヨークといった都市から情報が発信される中で、ヨーロッパの交差点とも言われるプラハから発信することに意義があると考えたためです。本日私のお隣におられる白石隆先生や山崎正和先生、佐藤誠三郎先生にもご参加いただき、今振り返りますと大変懐かしい思いであります。
本来、このような場で特定の名前を挙げることは慎むべきかもしれませんが、あえて申し上げますと、当時はキッシンジャー元国務長官、クリントン元大統領をはじめ、中東和平に関わるペレス首相やPLOのアッバース議長、台湾の李登輝元総統、デクラーク南アフリカ元大統領などにもご参加いただき、膝を交えて議論を行ったことを大変懐かしく思い出します。当時、知識人の間では「20世紀は戦争の世紀であったが、21世紀は平和の世紀にしなければならない」という共通認識と結論が出されました。しかしながら、残念なことに、その期待は必ずしも実現されているとは言えません。
その後、私は中東問題にも関わり、ヨルダンのハッサン・ビン・タラール王子とともに、約5年間にわたり首都アンマンで対話を重ねてまいりました。当時の中東には、いわゆる市民社会が十分に形成されておりませんでした。ある時、私が紹介される際に「笹川財団の笹川さん」と言われたことがあり、正式には「笹川平和財団」である旨を申し上げましたところ、「それは承知している。しかし、現在の中東においては、安易に『平和』という言葉を使うこと自体が人々の信頼を裏切ることになる。ここではその言葉を軽々しく使うべきではない」と指摘され、大変衝撃を受けました。
こうした経験を踏まえ、本日このようにアジアの賢者の皆様にお集まりいただいた次第でございます。私は現在、西洋の合理主義や啓蒙思想について、アジアにおいて改めて見直す時期に来ているのではないかと考えております。そして、これからの時代をどのように生きていくべきか、そのために必要な力とは何かについて、ぜひアジアの賢者の皆様から率直なご意見を頂戴したいと考えております。その見直しは、多様性を尊重し、総合的な視点に立った新たな枠組みの中で進めていく必要があるのではないかと感じております。
今日、飢餓や貧困、失業といった問題を解決し得る資源や技術は、すでに各国に備わっていると私は考えております。しかし、それを実現するために不可欠な知恵、そして慈悲の精神が、今の世界には不足しているのではないでしょうか。西洋の価値観が個人の自己表現を重視するのに対し、アジアの価値観は他者を重んじ、自らを抑えることによって他者への敬意を示すという考え方に根ざしているのではないでしょうか。その根底には、他者への思いやりが存在しております。日本ではこれを「武士道」という言葉で表現してまいりました。武士道はしばしば軍事的に解釈されがちですが、本来はそうではなく、このような精神こそが、これからのアジアにおいて重要になるのではないかと考えております。
本日、賢者の皆様にお願い申し上げたいことは、日本に対する率直なご批判もぜひ頂戴したいものです。また、アジアの国々と日本が共に手を携え、アジアは勿論のこと、世界のために何ができるのか、何をなすべきかについても、忌憚のないご意見を賜りたく存じます。なお、本会議はチャタムハウスルールに基づいて運営されると伺っておりますので、ご発言が外部に特定されることはありません。どうか率直にご議論いただきたいと思います。
また、「継続は力なり」と申しますとおり、今後もアジアを取り巻く情勢は刻一刻と変化してまいります。日本はG7の一員であり、インドネシアはBRICSの中でも重要な役割を担うなど、各国の立場も変化していくことでしょう。私どもの財団は、こうした変化の中にあっても継続的な対話の重要性を信じております。本会議も一度限りで終わるものではなく、継続的に見直しを重ねながら、心を通わせ、アジアを中心として世界の中で我々がどのような役割を果たすべきかを模索し続けていきたいと考えております。ありがとうございました。