「造船・海運についてのインタビュー」
―東洋経済―
東洋経済の山田俊浩、伊藤嘉孝両記者より、造船・海運について取材を受けました。以下に、同誌2月13日付記事を掲載します。
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日本の造船・海運は「技術による安全保障」を追求せよ、民間主導によるイノベーションを実現することが海洋立国としての日本の生き残り戦略だ

日本財団の笹川陽平名誉会長がこれまでに会った大統領・首相・国家元首の人数は500人近くにのぼるという。現在も精力的に海外を訪問している
(撮影:梅谷秀司)
高市早苗政権が17の重点投資分野の1つに挙げた「造船」が注目されている。戦後間も無くから海洋立国を目指して、日本の海運・造船業を支援してきたのが日本財団だ。同財団の笹川陽平名誉会長は、政府が進める「造船復興政策」をどうみているのだろうか。
――高市政権が掲げる「重点投資対象17分野」の1つに造船が入っています。これをどう評価しますか。日本の海運・造船は、第2次世界大戦で壊滅的な打撃を受けた。海運・造船を復興させることなくしてわが国の復興はない、という思いこそが、日本財団(旧・日本船舶振興会)の原点。今回、政府が重点投資項目に造船を据えたことは、遅まきながらではあるが高く評価すべきことだと思う。
――遅まきながら、ですか。日本の造船業が置かれている状況は、極めて厳しいと言わざるをえない。かつては世界シェアの50%を占めた造船王国も、今や三菱重工業、三井造船(現三井E&S)、川崎重工業といったリーディングカンパニーが次々と商船事業から撤退、あるいは売却して転業してしまった。
現在、日本の造船を支えているのは、今治造船などの中手(ちゅうて)。彼らは専業事業者であり、ほかに転業できる分野を持たないため、まさに命懸けで努力しているが、ドンガラ(船体)の受注生産は中韓との価格競争が厳しく、将来を楽観できる状況ではない。
日本の美徳が足かせに
――昨秋、日米が造船分野における協力の覚書を結びました。アメリカの造船業は相当な苦境です。この動きをどう見ますか。アメリカの造船業は、年間わずか4隻程度、世界シェアで言えば1%程度しか造っていない。そのアメリカが同盟国である日本や韓国の力を借りたいと申し出てきた。このチャンスを生かせるかどうかは、政府や企業のスピード感とリーダーシップに懸かっている。
韓国の産業界は意思決定が極めて早く、日本がもたもたしていれば、アメリカの需要も韓国に奪われてしまうだろう 。日本には聖徳太子以来の「和を以て貴しとなす」というすばらしい文化があるが、ことイノベーションに関しては、この日本の美徳が足かせになり、突き抜けた変化を起こしにくい。
ただ、アメリカが望んでいるのが商船の建造であれば、自国のドックの利用と、自国の労働者の雇用を絶対条件にするはずだ。日本の専業造船会社の規模では、その要請に応えていくことは容易ではないだろう。
仮に潜水艦や護衛艦の建造や修繕を望んでいるのであれば、三菱重工など大手の出番になる。日本製鉄による米USスチールの買収問題にも通じる難しさがあるだろうが、政府は相手が求めているタイミングを見極めて、積極的な外交を展開するべきだ。
――造船拠点は地方にあり、人手不足が深刻化しています。外国人なしには現場は回らない状況をどうみますか。今回の造船強化の動きは、地方経済浮揚につながりますか。人手不足が深刻なのは事実だが、外国人材の活用がうまく進んでいる。現在、造船業で働く約7万7000人のうち、外国人材は約1万5000人と2割弱を占めている。
彼らは単純労働者ではない。溶接など、高度な技術・技能を持つ「技術・技能者」として、日本の産業を支えている。祭りにも積極的に参加するなど地元に密着しており、そこは大都市の労働環境とは異なっている。彼らが地域社会に溶け込み、定着していることは、日本が直面する人口減少問題に対する1つの解といえるのではないか。
造船業は、子供たちにも夢を与える存在にする必要がある 。進水式に地元の子供たちを招き、巨大な船が海に滑り出す姿を見せて感動を共有する。そうした地道な活動が、将来の担い手を育てることにつながる。
笹川陽平(ささかわ・ようへい)/1939年1月東京生まれ。明治大学経済学部卒。1989年に日本船舶振興会(現日本財団)理事長、2005年7月会長、25年6月から名誉会長を務める
(撮影:梅谷秀司)
――今後の海運業が取るべき進路とは?日本は無資源国であり、海運が命綱だ。もし船が止まれば、食料自給率が極めて低い日本の国民は1年も持たずに餓死してしまうだろう。日本財団は、1962年から2024年まで、造船・海運業界を支えるために、貸し付けだけで約2.4兆円、助成金として累計で約4700億円を拠出してきた。直近の24年度実績でも、貸し付けで約391億円、助成金で約131億円を支援している。いわば国に代わって日本の命綱を守り続けてきたという自負がある。
しかし、日本の安全保障という観点から見ると課題だらけだ。かつては強固だった全日本海員組合も、今や日本人の現役船員は1000人を切るほどに激減してしまった。日本企業が所有する船であっても、実際に乗っているのは外国人ばかりだ。
平時はそれでも回るが、ひとたび有事となれば、外国人の船員が日本のために危険を冒してまで船を動かしてくれる保証はない。第2次世界大戦では民間の輸送船が重要な役割を果たしたが、現代において同様の機能が果たせるのか、非常に心もとない状況だ。
自衛隊の人員不足も深刻で、50年には現役世代が半減するという試算もある。こうした「人がいない」という現実を直視し、もう一段高い次元で、安全保障上の海運・造船のあり方を議論すべきだろう。
目指すべきは「技術による安全保障」
――解決策はありますか?日本が目指すべきは「技術による安全保障」だ。日本財団はすでに陸上から遠隔操作できる無人運航船やクリーンエネルギーの水素エンジンによる運航にも成功している。政府と民間が一体となってイノベーションを実現することこそが、海洋立国としての日本の生き残り戦略となる。