「日本の浅海域の地図作成」
―早速能登地震で成果―
日本財団では、日本水路協会と協力し、日本全土の陸地からおよそ200メートルの範囲にある浅海域の詳細な地図作成を進めている。かつて江戸時代には、千葉県の伊能忠敬氏が徒歩で測量した日本地図が、その正確さにおいて世界を驚かせた。私たちが取り組む水深0〜20メートルの浅海域の地形調査も、海難事故の防止や津波対策、漁場の保全などに資するものとして、その作成には関係者から大きな期待が寄せられている。
このプロジェクトは、完成までに6〜7年を要する計画だが、今回の能登地震においては、幸いにも当該地域の測量がすでに完了していたため、迅速な分析が可能となった。その結果、輪島市の猿山岬付近で5.2メートルの隆起が確認され、曽々木海岸から中田浜周辺にかけては、最大で4.3メートル水平方向に沖へ移動していたことが明らかとなった。また、海底の起伏や地形の変化により堆積物が移動し、砂地だった場所に広大な岩礁が現れたことが確認され、能登半島全域で計4.56平方キロメートルが陸地化した。
以下は、本事業に密着取材してくれた富山テレビ・松田一真記者による2月14日付の報告です。
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輪島市では5.2mの海底隆起も 全国で進む「海の地図」づくり
浅海調査のフライトに密着!
いま、全国の沿岸域の海底地形を解明し、「海の地図」を作ろうという壮大なプロジェクトが進められ ています。防災対策やマリンレジャーの安全対策、漁業などへの活用が期待される取り組みの最新動向を取材しました。
*日本水路協会 加藤茂理事長
「今回明らかになった最新の海底地形情報が沿岸漁業や地域の復興に寄与すると期待している」
都内で開かれた記者会見。
日本財団と日本水路協会でつくる 「海の地図」 プロジェクトチームが能登半島地震による海底地形の変化について、最新の調査結果を報告しました。
*日本財団 海野光行 常務理事
「能登半島沿岸では、輪島市の猿山岬付近で隆起量は5.2m、水深16m付近で観測された」
2022年10月に始動した「海の地図プロジェクト」は、水深20mまでの海底地形の調査を、 空から進めるというもの。その狙いは、これまで船による立ち入り・測量が困難だった、浅い沿岸部の地形の解明です。
去年元日の能登半島地震の後、輪島市や珠洲市上空では緊急調査を実施。2022年の調査結果との比較から、地震後に海の中で起きていた地形変化の実態が浮かび上がりました。
*日本財団 海野光行 常務理事
「北西方向へ最大3.01m移動した。一見分かりづらい水平方向の移動も調査で分かった」
「(海底の)堆積物が沖合に移動し、(砂地だった所に)岩礁が創出されている」
去年5月、航空測量の専用機に同乗し、その現場を取材しました。
* 松田一真記者リポート
「能登半島上空、およそ500mの場所に到着しました。フライトはこれから海岸線に沿っておよそ5時間続きます」
1回のフライトは、およそ5時間。機体に搭載されたセンサーで海面・海底それぞれの高さを測定する2つのレーザーを放ち、地形データの元となる座標を収集します。
*松田一真記者リポート
「海岸線に沿ってほぼすべての場所が、 白く縁どられています。 それだけ海底が隆起したのだと、上空から見るとよくわかります...」
地震による隆起で海底が陸地化した場所は4.56平方キロメートルに上りました。
神奈川県川崎市にあるアジア航測の本社。収集したデータは約100人がかりで精査します。
*データ解析の担当者
「地図上の黄色い枠を断面にしたのが右の図。明らかに地盤より下を示した『エラー点』を取り除く」
上空の雲や海の泡にレーザーが反応した「ノイズデータ」を取り除く作業や、 航空写真と照らし合わせて高さを強調する色付け作業などを経て、海の地図をつくります。
「沿岸部の地形解明は今後の災害対策や水産業に役立つ」と専門家も期待を寄せています。
*わじま海藻ラボ(輪島市で藻場保全を支援) 石川 竜子代表
「漁業者の頭の中に海底地形の地図があったが、隆起と破壊でリセットされてしまった。 新しい漁場を探すうえで細かい地図があれば、生物がどこにいるか、海女さんには見える。海女さんたちにとって『宝の地図』になる」
*神戸大学 海洋底探査センター 巽好幸客員教授
「海底地形が津波の高さ・速度に与える影響は非常に大きい。こういうデータを積み重ねることで、シミュレーションの精度向上・防災減災につながる」
能登半島上空での航空測量に同行した、災害地質学が専門の富山大学・立石良准教授。
「海の地図」は、富山でも地震や津波の研究に役立つ重要なデータになるといいます。
*富山大学 都市デザイン学部 立石良 准教授
「断層を想定した津波シミュレーションに海底地形データが必要だが、今回のような精緻なデータを入力できれば、より正確なシミュレーションに繋がる 重要な結果。 陸域から海域にのびていそうな呉羽山断層などの活断層が、陸と海の境界で連続しているのか?そういった調査にも陸と海の境界の浅い海のデータが活用できる」
3年間の調査で明らかになったのは、日本の海岸線のおよそ4分の1の地形。2032年度の完成を目標に10年がかりで進む「海の地図」づくり...
日本の海で、世界初の挑戦が続いています。