「伊藤隆先生ご逝去」
―日本近現代政治史の第一人者―
8月17日、メディアは伊藤隆先生のご逝去を一斉に報道した。90歳で自転車に乗っておられたと仄聞していたのに、突然のご逝去に謹んで哀悼の意を表します。
先生は日本近現代政治史の第一人者であると同時に、オーラルヒストリー(記録にないエピソードをインタビューから掘り起こす)の発案者でもあられた。政治関係の著名な方が亡くなると時間をおいて、関係書類を戴きに行くことに躊躇されなかった。確か宮澤喜一元首相のお宅にも参上し、関係書類を段ボール箱に入れて、国会図書館に運ばれた。元関東軍参謀で、中曽根康弘元首相の知恵袋といわれた瀬島龍三氏が全ての書類を密かに焼却したことに、温厚な先生が珍しく激怒されたこともあった。
中曽根康弘元首相には、若かりし頃の青雲塾からはじまって、首相時代は勿論、膨大な関係書類が存在しており、後世の政治家や政治学者のために、整理の上出版すべきと、かつて京橋にあったホテル西洋の地下の「吉兆」で読売新聞の渡辺恒雄社長(当時)、中曾根康弘先生、それに私の三人で合意に達した。伊藤先生は大いに喜ばれると共に、「この整理には長い時間と大きな費用が必要だなぁ」と嘆息されたものである。この話は残念ながら中曽根家のご家族の反対で実現しなかった。今も膨大な資料が日の目を見ず眠っていることでしょう。
伊藤先生は、約6年間かけて笹川良一の書類を整理され、下記合計7冊を中央公論社より出版された。また、オーラルヒストリーとして私の話を整理され「ソーシャル・チェンジ」として出版して下さった。誠に有難い光栄に浴しました。
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1. 『笹川良一 巣鴨日記』(渡辺明共編、中央公論社、1997年)
こんな連中が国を滅ぼした!“日本のドン”が祖国の復興を念じスガモ・プリズンで綴った真摯で辛辣、かつユーモラスな記録。吉田首相やトルーマン大統領、マッカーサー元帥等宛の手紙百余通を付す。(※「紀伊国屋書店」内容説明より抜粋)
2. 『笹川良一と東京裁判 (全3巻+別巻)』(中央公論新社、2007-2008年、別巻2010年)
この著書は、終戦という事態に遭遇した日本人が、何を思い、どんな期待を抱いていたのかを知るには格好の書であり、また当時の日本のありようを知る貴重な資料である。笹川という人物を通して、戦後の日本人のありようがうかがえるのである。また、現在、いかに日本人に人材が払底しているかを痛感する良書である。そして、新たな傑物の誕生を望むことになる一冊である。(※「リベラルタイム」書評より抜粋)
3.『評伝 笹川良一』(中央公論新社、2011年)
国粋大衆党の党首、衆議院議員、A級戦犯の容疑者、「戦犯者」の援護、日本最大の社会貢献団体のトップ…。毀誉褒貶をものともせず、わが道を貫いた「大きな男」笹川良一の生涯を描く(※「本の総合カタログ Books 出版書誌データベース」内容紹介より抜粋)。
4.『ソーシャル・チェンジ――笹川陽平、日本財団と生き方を語る』(中央公論新社、2019年)
陽平の父、笹川良一の評伝も手掛けた伊藤氏によるオーラルヒストリー30回分を凝縮し、陽平がいかにして父の仕事を継承し、父の「うさんくささ」を払拭し、事業を拡大したかをまとめ、日本財団を牽引する笹川陽平の哲学と人生を伝える。正妻の子ではない、それも三男の陽平が継ぐこととなった理由、良一の後継者をめぐる官庁の介入や曽野綾子氏第2代会長就任、日本船舶振興会から日本財団への改名の経緯、アルベルト・フジモリをめぐる真相なども興味深い。日本財団の事業はおおもとの競艇から、ハンセン病制圧、ミャンマーの少数民族和解等々多岐にわたるが、災害支援に限ってみても、これからの社会貢献(笹川は「社会貢献は慈善事業ではない」と言う)、お金の使い方から、組織の作り方、後継者教育のあり方など、参考となる範囲は予想外に広い(※「紀伊国屋書店」内容説明より抜粋)
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また、関連書籍として佐藤誠三郎・東大名誉教授による笹川良一に関係する書籍も以下の通りご紹介いたします。
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1.『笹川良一研究――異次元からの使者』(中央公論社、1998年)
「世のため人のために年中無休、無給で働く」存在であり続けた稀有な精神への評価に、なぜこれほど大きな落差が生まれたのか。その謎を余すところなく解明した出色の人間分析。(※「Google Books」より抜粋)
2.『正翼の男――戦前の笹川良一語録』(中央公論新社、1999年)
笹川良一はどのようにして莫大な資産を蓄積したのか?そして、戦前・戦後を通じて見事に首尾一貫した姿勢。前著「笹川良一研究」で解明できなかった謎に取り組み、更に未刊行だった「平民心書」をはじめとする戦前の笹川の語録、帝国議会における質疑応答などの資料を併載する。(※「Amazon」内容、「紀伊国屋書店」内容説明より抜粋)