―ふるさと納税で支援強化を図れ―
産経新聞【正論】
2024年1月22日
能登半島地震は死者が230人を超え、厳しい寒さの中、新型コロナウイルスやインフルエンザ感染も広がりを見せている。
多数の家屋倒壊や200棟を超す店舗・住宅が焼けた輪島市での大火災で行方不明者の救出・捜索は難航し、道路、水道、電気など基幹インフラの崩壊が復旧作業の大きな妨げとなっている。
≪日本人が持つ「利他の精神」≫ 平成28年の熊本地震から、わずか8年弱。物理学者で随筆家の寺田寅彦は「天災は忘れた頃にやって来る」の警句を残した。しかし近年の日本は、温暖化に伴う豪雨災害を含め大災害に毎年襲われ、「忘れる間もなく災害がやって来る」時代を迎えている。
政府や自治体の防災強化は当然として、ひとたび災害が起きた場合、幅広い国民の協力が欠かせない。幸い、日本人の心には他人の利益、幸せを願う「利他」の精神がある。わが国の文化であり、この精神のさらなる広がり、強化を期すことが防災社会の確立にもつながる。
「利他の心」は京セラの創業者、故稲盛和夫氏が説いたことから、最近はビジネス書にもしばしば登場する。もともと大乗仏教の教えから来ており、近年のボランティア活動の広がりにも、こうした精神が色濃く投影されている。
注目される関連データとして、東日本大震災が発生した23年から3年後に文科省所管の統計数理研究所が20歳以上の国民6400人を対象に行った日本人の国民性に関する調査結果がある。調査では「利己と利他」について回答を寄せた3170人のうち45%が「他人の役に立とうとしている」と答え、「自分のことだけに気を配っている」の42%を上回った。
「利己と利他」に関する調査は、昭和53年以来5年ごとに行われ、「利他」が「利己」を上回ったのは、この時が初めてだった。研究所の担当者は当時、「東日本大震災で国内に広がった助け合いの影響が大きい」とコメントしている。
膨大な標本や資料を保管する国立科学博物館が昨年夏、広く資金を集めるクラウドファンディングで支援を呼び掛けた結果も注目される。3カ月間で約5万7千人から、目標の1億円を大きく上回る約9億2千万円の寄付金が寄せられたという。この背景にも利他の精神の広がりを実感する。
能登半島地震では、自衛隊や各地の自治体が派遣した消防関係者らが行方不明者の捜索・救助作業を進める中、多くの民間団体が被災地入りし、倒壊した建物の撤去から避難所の整備、物資の配布、炊き出しまで幅広い支援活動を展開している。
≪復旧費は大きく膨らむ≫ 政府は令和6年度予算案の予備費5000億円を1兆円に倍増して対策を手厚くする構えだ。しかし、山の多い半島の道路は至るところで寸断されており、豪雪など厳しい気象条件も加わり、作業は難航している。復旧費が大きく膨らむのは必至だ。
対策の一つとして近年、急速な広がりを見せるふるさと納税の活用を提案したい。居住する自治体に納める税金を任意の自治体に寄付するこの制度、4年度の実績は前年度比約20%増の約9654億円、5184万件に上っている。
全国の利用者は約746万人。返礼品が人気となり、使い切れないまま寄付を基金として積み立てている村もあると報じられている。
災害支援に向けた寄付のため原則として自治体からの返礼品はないが、税金の控除は受けられる。一人でも多くの人が被災地の自治体に向けふるさと納税を利用されるよう強く訴えたい。
国の予算にはさまざまな法律上の制約があり時間もかかる。これに対し、ふるさと納税は自治体が自由に使える新たな財源となる。苦しい財政事情の中、各自治体が被害に合わせ、きめ細かいサービスを行う手助けにもなる。
もちろん支援金などを利用して被災地を支援する手もある。日本財団も災害復興支援特別基金への協力を広く呼び掛けている。
地震発生翌日に担当職員や連携するNPOを被災地に派遣する一方で、海上輸送を利用してシャワーシステムや灯油、発電機を被災地に届けるなど多彩な支援活動を展開しており、寄せられた基金は全額をこれらの活動に迅速に活用させてもらう方針だ。
≪災害大国日本の宿命≫ 南海トラフ地震など巨大地震の発生が懸念されて久しい。政府の地震調査委員会が平成26年、首都直下型地震の発生確率を「今後30年で70%」と発表してから既に10年が経過し、一層の警戒、備えが欠かせない。
巨大災害の前に、いかなる対策も十分ということはあり得ない。そのためにも誰もが何時でも大災害に直面する可能性があることを常に自覚し、万一の事態に遭遇した場合には利他の精神で互いに助け合う決意を日ごろから持つことが何よりも必要と考える。
それが災害大国日本の宿命であり、防災を強化する道でもある。
(ささかわ ようへい)