「ウクライナ避難民支援」
―学生ボランティア募集―
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ロシアの侵攻に伴い国外に逃れたウクライナ国民は4月20日現在500万人を超え、国内避難民も700万人に上っている。一方、国連障害者の権利委員会は、約270万人の障害者のうち避難所や国境に到達できた人は極めて少なく、「大半の安否が不明」との声明を発表している。
そんな切迫した状況を受け、日本財団ではウクライナ避難民支援策第2弾として@ウクライナ国内に取り残された障害者の救出や医薬品の提供に取り組んでいる国際NGO「Access Israel(アクセス・イスラエル)」に約2億9000万円を助成し活動を支援するAポーランドなど隣国に避難した障害者支援のため日本人の学生ボランティア約100人を派遣するー方針を決め、4月26日、記者発表した。
うち学生ボランティアは、姉妹財団の日本財団ボランティアセンターと協力して希望者を募集し、5月末から15人ずつ各2週間、10月までに計7陣105人を避難民が多いポーランドのクラクフなどに派遣する計画で、関連費用として1億2000万円を予定している。日本の若者の内向き志向が指摘される中、記者発表では「支援活動を通じて若い人に、厳しい国際社会の現状を体感してもらいたい」と希望を述べた。
一方、Access Israelはイスラエルに本部を置き、ポーランドを中心に現地の状況を調べてきた樺沢一朗常務理事によると、メンバーは約120人。障害者の支援に取り組む同国でも有数の国際NGOで、ウクライナ国内にも豊富な情報ネットワークを持ち、活発な活動を展開中。障害者支援に大きな力を発揮すると期待している。
一方の3月末に発表した50億円規模の支援策第一弾。日本財団に設けたウクライナ避難民支援室には既に避難民や関係者から約1500件の問い合わせ寄せられており、5月上旬には避難した人に対する渡航費や生活費の支給、さらに避難民を支援するNPO団体などに対する助成を開始できる段取りとなっている。
ウクライナ情勢の先はなお流動的だ。日本財団ではこれまでも内外で1350億円に上る障害者支援を実施してきた。5月に予定されるWHO総会に出席した後、ポーランドを訪問し、現地の緊張した情勢を直に確認し、避難民支援を充実させたいと考えている。
下記は4月26日の共同通信社の記事と同日の記事会見での私の説明を記載しました。

ウクライナ避難民を支援する学生ボランティア派遣について記者会見する日本財団の笹川陽平会長
=26日午前、東京都港区
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日本財団は26日、ロシアの軍事侵攻を受け、隣国などに逃げたウクライナ避難民を支援する学生ボランティア約100人を派遣すると発表し、募集を始めた。ウクライナには多くの障害者が残っており、実績のある国際NGO「アクセス・イスラエル」と協力し、大規模な救助活動への支援にも乗り出す。
活動場所は隣国ポーランド南部のクラクフ、オーストリアの首都ウィーンなど避難民の多い地域。食料や医薬品を配布したり、ウクライナから救出された障害者の支援に当たったりする。
第1陣として5月30日から6月16日まで15人を派遣する予定。10月まで7回に分けて計105人を見込む。
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本日は、日本財団のウクライナ避難民支援の第二弾ということで発表致します。先般申し上げました通り、第一弾は50億円規模で来日するウクライナ避難民に対する人道支援で、内訳は渡航費や生活費に35.5億円、日本のNPO等への支援が15億円となっております。既に1500件を超える相談を日本財団にいただいております。皆様のご協力に改めて感謝申し上げます。
第二弾の支援は、ウクライナ隣国へ避難する障害者への支援です。ご承知の通り、先般国連総会においてウクライナの避難民に対する決議案が上程されました。日本財団と国連は良好な関係にあり、本決議文の中に障害者そして高齢者の避難の必要性も追加してもらいました。日本財団の障害者支援は、日本財団の活動の中でも一つの大きな柱であり、これまで国内外の障害者支援には約1350億円を提供して参りました。日本財団は、様々な障害をもった人たちも一般の社会の中で生活できるという仕組みを作りたいと考え活動しております。
樺沢一朗・日本財団常務理事は、既にポーランドに入って現地の状況を調査してきています。私自身も5月のWHO総会の後の25、26日にポーランドに入り、現場を訪問する予定です。我々の仲間としてマケドニアの難民経験者にも現地に先乗りいただいており、この後説明する学生ボランティアの受け入れについても、現場で問題点がないかの調整を進めております。
現在ウクライナには、障害をお持ちで国外に避難したいという方、体力的に難しいことから国内に留まりたいが医薬品などの物資の欠乏という問題を抱えている方といった2通りの方がいらっしゃいます。この度日本財団は、障害者支援を行っているイスラエルの「アクセス・イスラエル」という国際NGOと共に、ウクライナ隣国へ避難する障害者への支援を実施致します。既に、2.9億円の資金を同団体に送金済みで、特に車両が必要であるという現場の報告から、車両の提供を進めております。また、救出した人の支援と同時に、自宅から出られない人への医薬品や衣料品等の物資供与ということについてもしっかりやっていきたいと考えています。
ポーランドのクラクフには、ヤゲロニア大学という由緒正しい大学があります。日本財団は35年間、同大学での修士・博士課程の奨学金制度を支援しています。創立650年ということもあり、ヤゲロニア大学が所蔵している世界地図にはアメリカ大陸がありません。こうした歴史のある大学に加え、アクセス・イスラエルやマケドニアの難民経験者など、日本財団の持つ国際ネットワークが機能を駆使して今回の支援が効果のあるものになることを期待しています。アクセス・イスラエルはユダヤ人との強いネットワークを持っております。ウクライナのゼレンスキー大統領はユダヤ人であり、ウクライナ国内にも数多くのユダヤ人がいるので、大きな役割を果たしてくれると考えておりますが、勿論我々の支援はユダヤ人だけを対象としているわけではなく、ウクライナ国民すべてを対象としています。
具体的な避難場所についてはクラクフを中心に考えておりますが、場合によってはオーストリアのウィーンまで含めることも検討しています。時々刻々と状況は変化していますので、変化に対応できるように柔軟に対処していきたいと思います。現状の避難民支援については、健康な女性、子どもが中心ですので、我々がそこに障害者の方々も同様に避難できるよう支援致します。これは、日本財団の創立以来の国際的な人道支援活動の一環として実施するものであります。私自身、現地に入れば多くの国際NGOとの連携も可能となっていくと考えております。日本財団、そして私の行動哲学は「現場には問題点と答えがある」というもので、冷暖房のきいた快適な事務所で支援を考えるのではなく、現場を見て対処すべきこと見つけ実施していくということを重視しております。
今回は、アクセス・イスラエルやヤゲロニア大学などの協力をいただいておりますが、更に日本の大学生を中心に100人規模で現地に行っていただき、支援活動、具体的には、国境線上で救出された方々へのサポート、或いは既に届いている食料品や物資の整理などの仕事に従事してもらいたいとも考えています。活動場所については、外務省の渡航制限があるのでウクライナに入ることはありませんが、クラクフを中心に国境付近の現場となります。現地では配布する医療品の地域別の分類、配送への梱包等様々な仕事があります。臨機応変に対応できるように学生を指導しつつ、危険のないように仕事をしていただきます。
こうした学生の派遣を行う背景には、国際社会のNGOが集まっている中で、日本の学生に現場を知って欲しいという想いがあるからです。ともすれば、日本ではグローバリゼーションの中で内向き志向になっているという若者が増えているという特徴があります。今や日本あっての世界ではなく世界あっての日本という時代ですから、内向き志向の若者に国際社会の現状を救援活動を通じて知ってもらうことは、日本の将来にとって非常に重要なことであると考えています。
学生の派遣方法については、15人を1つのグループとして、2週間程度順番に現地に入っていただくことを想定しています。時期としては、5月30日から6月16日を第一陣とし、10月ごろまで7回程度派遣していく予定です。勿論ボランティアですので賃金の支払いはありませんが、学生の渡航に係る航空運賃や宿泊費用は日本財団が負担し、予算としては約1.2億円程度を計上しています。募集については、日本財団の姉妹財団である日本財団ボランティア・サポート・センターが募集を行う予定です。募集要件として、当然活動場所が外国ですので、英語の能力があることが一つの大きな要件となります。
皆様方のお力をいただきまして、より多くの学生が応募してくれることを期待しています。現場の状況は流動的ですので、日本としても民間レベルでの難民支援を積極的に行い、また諸外国のNGOとの連携、情報交換も積極的に進めていかなければなりません。その中で、我々がやらなければならない仕事があれば、日本として積極的に人道支援活動を実際に現場で実施するということが重要ではないでしょうか。ありがとうございました。