「”Don’t Forget” Hansen's Disease」その1
―インド、ネパールと開催―
1月末は「世界ハンセン病の日」です。
本来なら、ハンセン病の正しい知識の啓蒙活動のために世界中でイベントが開催され、私も海外活動が年中行事ですが、コロナ禍でともすれば忘れられそうなハンセン病の啓蒙活動をオンラインで行っています。
今回はインド、ネパールと行いました。
以下、その記録す。
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笹川制圧大使:
みなさん、日本時間では今晩は。世界の皆さん、こんにちは。WHOハンセン病制圧大使の笹川陽平です。本日はお忙しい中集まっていただきありがとうございます。特に本日はビロード・カティワダ・ネパール保健大臣からもメッセージをいただいており、感謝申し上げます。また、ご多忙の中、アンジュ・シェルマンさん、アニル・クマール博士、インドラ・ナピッド博士、ラビンドラ・バスコタ博士、ディネシュ・バスネットさん、ラオ・ペンマラジュ博士、にもご参加いただいていることに加え、ウェビナーに参加いただいた多くの方に心から御礼申し上げます。是非とも実りある会議にしたいと思います。このウェビナーはササカワ・レプロシー・イニシアティブの取組み中で、”Don’t Forget Leprosy”キャンペーンの一環として行われています。コロナの困難な時代ですので、なかなか現地でお互いに会合を開催することができません。ですから、ウェビナーを使って、多くの患者を探し、回復者の生活がどうなっているか、また何が問題なのかを、コロナの中でも休むことなく関係者が一致団結して仕事をしていこうと努力しております。また、私は2006年からグローバル・アピールというイベントを開催してきました。グローバル・アピールとは、政治やビジネス、宗教といった多くの分野の指導者から賛同をいただき、ハンセン病の正しい知識、そして偏見や差別が人権上の問題としてあってはならないと世界中に発信することを目的としています。これは、こうした現場で活動する我々の声をもっと大きくし世界中の皆さんに発信する必要があるという経験によるものです。第一回目のグローバル・アピールではノーベル平和賞の受賞者であるダライ・ラマ猊下やジミー・カーター元大統領、デズモンド・ツツ大司教などに賛同いただきました。その後もキリスト教、仏教、ヒンドゥー教、イスラム教などの宗教指導者、医学界、世界の有名大学の学長などの賛同を得てきました。今年は世界で社会活動をしている有名な財団のみなさんに賛同いただきました。グローバル・アピールは今年で17回目となりますが、世界中の人にハンセン病を理解してもらい、患者、回復者への差別をやめようと、世界的なリーダーに発言してもらうことで、ハンセン病の問題を世界的な問題にしたいという私の気持ちから続けてきました。本日はコロナという世界的な感染力の強い病気の発生の中にも関わらず現場で働いている方々の話を是非共有いただきたいと思っておりますし、私自身も皆さんの率直な現在の悩み或いは成功例等々をお聞かせいただきたいと思います。今回はインドとネパールでの経験が中心となりますが、これをアフリカ或いは南米、インドネシアと世界中に皆さんの活躍をお伝えし、また参考になる意見を伝えることで、世界中がコロナの中でもハンセン病の患者発見を継続し、また、彼らの生活の中にある差別からの解放を実現して参りましょう。私は、アフターコロナの時代は人々の多様性を認める時代になると確信しています。今日は皆さまの活動そして問題点について率直に話し合い、また世界に伝えることで、インドのモディ首相がおっしゃっている2030年までにハンセン病を無くそうという野心的目標を、インドのみならず世界で達成するのが大きな目的です。本日は宜しくお願い致します。
ネパールの有名なアナンダマン病院のナピッド博士の報告に対し
笹川制圧大使:
博士の説明で紹介された障害に対する高度の手術技術に感銘を受けました。以前私が博士の病院を訪問した際にリアクションの反応が出ている患者が多めだった印象がありますが、現在の状況はいかがですか。
ナピッド博士:
はい、まだリアクションのケースはあります。リアクション・マネージメントとして新しい試みをしており、第四ステージに入っています。それは新しい薬剤の臨床であり、リアクションを押さえる効果があるかを検証しているところです。
ネパールのラビンドラ博士の報告に対し
笹川制圧大使:
ネパールのタライ地区はインドのビハール州やウッタル・プラデッシュ州と接する地域で患者も多くいらっしゃいましたが、病院の施設も素晴らしく、インドの訪問ヘルス・ワーカーであるアーシャとは制度が違うようですが、家庭訪問をして積極的に患者探しをしている女性たちと話す機会もありました。モチベーション高く、プライドをもって仕事をしており、心強く素晴らしい印象をもった記憶があります。皆さんの活動に感謝申し上げます。
ラビンドラ博士:
ありがとうございます。
インドのラオ博士の報告に対し
笹川制圧大使:
多くのインドの患者がネパールの病院に入院しているのも拝見しています。国境を越えてきた患者に対してもネパールの人と同様に治療されているのを見ており、素晴らしい対応であると思っています。今日のウェビナーで皆さんの報告を伺って、コロナのパンデミックの中で、皆さんの活動が相当制約されているのではないかと勝手に思っておりましたが、困難な中でも特にフロントランナーであるヘルス・ワーカーの皆さんが献身的にお働きになっているという報告を受け、感動をしている次第です。早期発見・早期治療の為には、やはり各家庭を回って発見することが最も重要な作業だと思っています。そういう点で、フロントランナーでいらっしゃるヘルス・ワーカーの働きに敬意と感謝を申し上げたいと思います。
ラオ博士:
反対にネパールからインドに来る患者もいるので、両国のナショナル・オフィサーに感謝したいと思います。病院では専門の先生による素晴らしい治療を提供してもらっていますが、このように国境を越えたところに素晴らしい専門医師がいると分かると国境を渡って治療を受けに行ってしまうことも多々あります。また、患者が国境を超える理由の一つには、自分の国で治療を受けるのはスティグマになってしまうからということもあります。国境を越えた治療の背景には様々な理由がありますが、国境を越えた患者に対しても医者がしっかり治療を提供していることを嬉しく思います。
(パネルディスカッションQ&Aに移行)
「草の根レベルの医療従事者の役割として期待すること、業務の質を上げる為に必要なこと、そしてこれらの改善に必要な支援策は何か」という質問に対して
クマール博士:
インドでは草の根レベルの医療従事者はアーシャと呼ばれ必要不可欠な存在です。彼女たちの活動に対しては笹川保健財団からも多くの支援を頂いています。私たちはアーシャに対しても啓発を行い、ハンセン病制圧、そしてハンセン病ゼロの世界を目指した活動を支えています。彼女たちは、自分たちが何かできるということを考え、ハンセン病患者、回復者の為に仕事をしなければならないという使命をもっています。地域社会の中で仕事をするアーシャは、笹川保健財団からいただいたハンセン病患者発見の手順を記載した紙芝居といったツールを貰って仕事をすることができ、感謝しています。こうしたアーシャの活動を認め、表彰することも必要だと考えています。例えばギフトを提供するなどです。認められるのは本当に大切なことであり、認めることで周りの人も彼女たちの活躍を知ることになります。また、彼女たちの活動にインセンティブを与えることも重要です。今後ともこの点について協議していきたいと考えています。アーシャを認め表彰すること、活動にインセンティブを与えること、この2つを全国的なレベルで考える必要があると思っています。
ラビンドラ博士:
私たちがどのような形で草の根レベルの医療従事者をサポートできるのかについてですが、彼らは村などでハンセン病患者発見の検査や治療支援などに従事しています。クマール博士の提案にありました、認めること、そしてインセンティブを与えることは重要だと思料します。そしてネパールの状況を考えると、もう一つ必要な取り組みがあります。それは現在ヘルス・ワーカーに対して十分な研修を設けていないという課題に対しての取組みです。既に多くのシニア・ヘルス・ワーカーが定年で現場を離れていることも関係しています。是非ともシニア・ヘルス・ワーカーの力なども借りて、若い人たちにトレーニングを提供していく必要があると思います。
「ハンセン病の差別やスティグマを無くしていくにあたり、草の根レベルで医療従事者に協力ができるか」という質問に対して
笹川制圧大使:
私は世界中を回っていますが、ヘルス・ワーカーは情熱をもった意識の高い方々が働いている姿は特にインドネ、パールで拝見しています。ご提案のあった研修の中に、単にハンセン病の病気の早期発見・早期治療に関することに加え、人権についても説明できるパンフレットを提供できるようにすることも大事かと思います。パンフレットの作成は笹川保健財団に協力いただき、内容としては容易に理解できるものをアーシャ達に配る必要があると思います。また、研修制度の更なる充実を通じて、ヘルス・ワーカーのプライドを向上させることができるでしょう。勿論プライドの向上には色々な施策がありますから、インセンティブをどうするかというクマール博士の問題提起も真剣に考えていきたいと思いますので、是非アイデアを出していただきたいと思います。今日のようなウェビナーの会議は、アフリカや南米でも行いますが、この時に話す素晴らしい材料を皆さんから頂戴しました。心から感謝を申し上げます。
「草の根レベルでの医療従事者とハンセン病回復者の協力についてどうみているか」という質問に対して
ラビンドラ博士:
ハンセン病の医療サービスを考えた場合、回復者を交えて、回復者が前面に立って進めていくことが重要だと考えます。なぜなら、回復者はこうしたプログラムのチャンピオンだからです。ハンセン病プログラムを計画する段階、実施する段階、いずれの段階においても回復者が関わってくれるのは貴重なことです。回復者の皆さんは重要な役割を担っており、彼らの協力があることでプログラムも効果的になっていきます。
クマール博士:
2016年にハンセン病患者発見キャンペーンを開始しましたが、州から国レベルの政策的意思決定や計画する段階において、回復者団体を招かれるようになりました。例えば、APAL(インドハンセン病回復者全国団体)の方が計画や意思決定に携わっているのがその好例です。ハンセン病患者発見キャンペーンにおいて、草の根レベルの活動はもちろん重要ですから、そうした活動に携わる人へのサポートも必要です。彼ら自身を啓発し、より良いことがあれば彼らが判断し取り入れること、そして、そうした活動を表彰することが大事と感じています。また、ハンセン病による障害の程度がG2となるケースは減少しており、それは早期発見の賜物と言えます。回復者の方と共にどのようにしたら生活向上に努めていけるかを考えなければ、インドが目指す2030年にハンセン病のないインドの実現を見ることは難しいでしょう。
「最後に一言」という質問に対して
笹川制圧大使:
ハンセン病の回復者の皆さんにはハンセン病をゼロにするためのアクターになって欲しいと協力を世界中でお願いしています。既に素晴らしい回復者団体に成長しているところもあります。回復者の皆さんのネットワーク、団体、そして活動に我々は明確な指針を示すと同時に、ハンセン病ゼロの為に協力を要請していくことが重要な仕事のひとつだと考えています。回復者を孤独にしてはなりません。10人よりも100人、100人よりも1000人が集まればそれだけで強力になり、社会的にも存在を認められることになりますので、こうした世界的な回復者の組織化も我々に与えられた使命であると考えています。
クマール博士:
本日のウェビナーは素晴らしいものでした。コロナ禍でも集えることを嬉しく思いましたし、また勇気づけられました。インドではこれまでも正しいアクションを取り続けてきました。他国においてもハンセン病ゼロをどうしたら実現できるか共に積極的に取り組んでいって欲しいと思います。
ラビンドラ博士:
非常に重要なウェビナーに参加できたことを嬉しく思います。インドでのハンセン病対策におけるコミュニティ・レベルのヘルス・ワーカーの活動などを知ることが出来たことは大きな成果でした。ヘルス・ワーカーの活動には勇気づけられるものがあり、彼女たちの献身的な活動に感謝を申し上げます。ネパールの人がインドの病院に行っていますし、その逆も発生していますから、今後もお互いの理解を深め、差別をなくし、スティグマを感じなくて良い社会を実現していければと思います。その為には、疫学的な観点も重要になってきます。また、どうしたら回復者を啓発し積極的な役割を担ってもらうのかも重要な取り組みです。ハンセン病ゼロを達成するためには依然と長い道のりが待っていますが、協力していきたいと考えています。
笹川制圧大使:
コロナでウェビナーが発達してきたことは、情報共有を積極的に出来る新しいツールを手に入れたということでもあります。これをさらに積極的に活用し、皆さんの建設的な意見を頂きながら、世界的には遅れている地域もありますので、先進的な取り組みを世界中に広めることで、同じレベルにもっていくことも我々の仕事です。これからもウェビナーを活用し、積極的に”Don’t Forget Leprosy”のキャンペーンの活動を続けていきます。これからも皆さんのご指導と積極的な協力をお願いします。本日は情熱的な話を頂き大変参考になりましたし、我々が責任を負わなければいけない仕事が沢山あることが明らかになったので反省しつつ、ハンセン病ゼロに向かって共に協力して参りましょう。