「新聞報道から」その88
―村田諒太の見習い日記―
若者から学ぶこと 先日、日本財団さんの企画で、サッカーの中田英寿さん、フェンシングの宮脇花輪さん、アナウンサーの中井美穂さんと中高生向けのオンライン講演会に参加させていただきました。
多くの若者たちが、「将来なにがしたいか分からない」「不安がある」「なかなか一歩が踏み出せない」という不安を抱えていることが分かりました。
中田さんの回答は痛烈で「不安を感じたりするのは暇だからだよ」とおっしゃっており、確かに自分が大学職員時代に職員、コーチ、選手と三足の草鞋(わらじ)を履いていた頃は不安を覚える暇もなかった気がします。
こうやってある程度、時間と生活に余裕が出てきた今の方が不安が多くなるというのも皮肉なものです。
そこで問題になることは、今の子供たちはなにもかも与えられていて、またインターネットなどの普及により、浅い知識で知ったつもりになれることなども影響し、興味や不思議に思うことが少なくなってきてしまっているのではないかということです。
実体験の伴わない知識ほどあてにならない、説得力のないものはないのに、それを疑似体験できてしまうような便利な世の中や、選択肢の多さが、かえってこういった不安を生んでいるのではないかと思いました。
お金持ちになった人が幸せを感じる時は、お金持ちになっていく最中だと聞いたことがあります。それでいうと、なんでも最初から持っているということは、案外幸せではないのかもしれません。
これは自分が子供を育てていく上でも常に思うことで、スタートから裕福な家庭だと、子供の幸せはどのようにして育まれていくのか。こういった時代だからこそ、少し厳しく、あえて大変な状況を若いうちに体験させて、のし上がっていく、そういった精神を鍛えていきたいな思います。
ほとんどの物事がそうかもしれません。
有名になりたいとボクシングを始め、有名になるまでが一生懸命で幸せで、手にしてしまうと煩わしくすらなる。こういったエンドレスな不満足を生まないためにも、なにかに挑戦する、自分は未熟である、本来成長させるべきは自分の内面であり、そこを育てなければいけないと、自戒をくれたオンライン講義となりました。
若い子たちには教えているようで教えられることばかりです。
(ボクシングWBA世界ミドル級チャンピオン)
※2020年11月5日付「東京新聞」です。