「仏マクロン大統領へ遺憾の書簡」
―ハンセン病に対する差別発言―
私は、仏マクロン大統領および伊サルビーニ大臣の発言に対し、世界保健機関(WHO)のハンセン病制圧大使、日本政府ハンセン病人権啓発大使を務める立場上、マクロン大統領によるナショナリズムをハンセン病になぞらえた発言およびサルビーニ大臣のハンセン病比喩表現を用いた反論に遺憾の書簡を送付しました。
報道によると、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は6月21日、「最も重い表現を使って言わせてもらう。欧州を憎悪する人は大勢いるが、それは今に始まったことではない。われわれは今、彼ら(ナショナリスト)の台頭を目撃している。ハンセン病のように、欧州の至る所で、二度と現れることはないだろうと思っていた国々でもだ」と発言しました。
また、それに対してイタリアのマッテオ・サルビーニ内務大臣は、「われわれはハンセン病のポピュリスト(大衆主義者)かもしれないが」という表現を用いつつ反論しました。
私は、このような表現はハンセン病に対する誤解を助長し、否定的な固定観念を深く根付かせ、ハンセン病の患者、回復者、そしてその家族に対する差別を助長する恐れがあることを指摘しました。
「国を代表するリーダーの言葉は影響力が大きく、言葉の選択には注意を払っていただきたい。」
完治する病であるにもかかわらず、世界の一部の地域では今なお、ハンセン病患者、回復者とその家族がスティグマ(社会的烙印)と差別に苦しんでいます。
患者、回復者の人権を守るため、2010年12月には、国連総会が、ハンセン病患者、回復者とその家族に対する差別撤廃の原則とガイドラインを承認する決議を、フランスおよびイタリアを含めた全会一致で採択しました。
私は、「今回の発言を契機に、マクロン大統領およびサルビーニ内務大臣には、ハンセン病患者、回復者がおかれている状況を理解し、この国連決議の意義を広めるためにご協力を要請したい」と述べました。
以下は、マクロン大統領及びイタリアのサルビーニ内務大臣へ送付した書簡の日本語訳です。
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閣下
日本からご挨拶申し上げます。世界保健機関(WHO)のハンセン病制圧大使、日本政府ハンセン病人権啓発大使としてこのお手紙を記しています。
閣下がナショナリズムの台頭をハンセン病と結びつけてお話しされたことを最近の報道で知りました。これは、ハンセン病に対する誤解を助長し、否定的な固定観念を深く根付かせ、ハンセン病の患者、回復者、そしてその家族に対する差別を助長するだけであり、最も嘆かわしい比喩であります。
この病気に対するスティグマを強めたり、ハンセン病回復者に苦痛を与えたりすることが閣下の意図でないことは、疑う余地はありません。しかし、今回の場合、結果的にそうなってしまったと言わざるを得ません。閣下のお言葉は広く多くの方に伝わり、影響力がありますゆえ、言葉の選択において細心の注意を払っていただくよう、強くお願い申し上げます。
完治する病であるにもかかわらず、世界の一部の地域では今なお、ハンセン病患者、回復者とその家族がスティグマ(社会的烙印)と差別に苦しんでいます。患者、回復者の人権を守るため、2010 年 12 月には、国連総会が、ハンセン病患者、回復者とその家族に対する差別撤廃の原則とガイドラインを承認する決議を、フランス(イタリア)を含めた全会一致で採択しました。
今回のことを契機に、閣下には、ハンセン病患者、回復者がおかれている状況をご理解いただき、この国連決議の意義を広めるためにご協力を賜りたく存じます。
敬具