「ジョージア再訪」
―ジョ−ジア州ではありません―
10年振りのジョージア再訪となった。
ソ連時代は「グルジア」と称していた。10年前の2007年、首都トビリシでジョージア戦略国際研究所と笹川平和財団の共催で南コーカサス安全保障会議を開催したとき以来、二度目の訪問である。い
コーカサス山脈のチェチェン、イングーシ、北オセチア、ダゲスタン、それにアゼルバイジャン、アルメニア、ジョージア等が参加して民族性豊かな国際会議であったと記憶している。
ジョージアは古来、数多くの民族が行き交うシルクロードの中継地で、68種類の言語と共に世界文化のクロスロードとも呼ばれている。ジョージアの中央部ゴリは、旧ソビエト連邦の最高指導者ヨシフ・スターリンの出身地で、市役所前には巨大なスターリン像が鎮座していた。スターリン博物館にはたいした展示物はなかったが、彼専用の薄汚れた客車が展示されており、この客車の中で数多くの強制移住や殺害が命令されたことを思い、怨念のようなものを感じたものである。
今回の訪問は黒海、カスピ海に関する国際会議であった。日本財団は30年前から各国の海洋専門家の人材養成を行ってきており、国連海洋法部、マルタにある海洋法研究所、スウェーデンにある世界海事大学等を卒業した笹川奨学生が自主的に国際会議を発案し、ジョージア政府が開催してくれた。
日本財団が養成した海洋、海事の専門家は140カ国、1,200人以上になる。今回はアゼルバイジャン、アメリカ、ブルガリア、イラン、ルーマニア、ウクライナ、トルコ、トルクメニスタン、カザフスタン、ジプチ、スウェーデンの11カ国の笹川同窓生が集まっての会議で、積極的で情熱に溢れていた。何よりも嬉しかったのは、同窓生の手配で、1日で大統領、首相、内務大臣、経済大臣の個別会談が実現したことである。
クヴィリカシュヴィリ首相
マルグヴェラシヴィリ大統領
私の最大の喜びは、このように世界各国で活躍する成長した笹川奨学生に出会うことである。閉会式のアトラクションは、歌あり踊りありの賑やかなもので、温暖な気候を利用したジョージアワインは私の好みにぴったり。旅の疲れも忘れ、心地よいひと時を過ごさせていただいた。
有名なフォークソングとダンスのチームが夕食会を盛り上げてくれた
ワインはジョージアが発祥の地ともいわれ、11月13日のアメリカ科学アカデミーの紀要で、ジョージアで8000年前の世界最古のワイン醸造の痕跡が発見されたと発表した。
以下は会議でのスピーチです。
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2017年10月23日
於:ジョージア・トビリシ
本日ジョージア政府主催による日本財団人材育成プログラムの同窓会に参加できましたことを心より嬉しく思います。私がジョージアを訪問するのは2007年10月以来2度目になります。その際は、ジョージア戦略国際研究所を私どもが支援し、ここトビリシで初めて開催された南コーカサス安全保障会議に参加しました。今般の会議は、ジョージア政府、そして日本財団の奨学生によるアイデア、イニシアティブの下開催されるということもあり、喜びもひとしおです。
日本財団は、海の人材を育成するためのプログラムを、国連、国際機関、大学、研究所や政府などの多様なパートナーと30年以上にわたり展開し、今では1,200名以上の同窓生が140カ国近くの国で、日夜、私たちの海を守るための努力を続けています。そして、私たちの人材育成プログラムは、国籍や年齢、立場を問わず数ヶ月以上寝食を共にする=“同じ釜の飯を食う”ことで、海に対する共通の意識や課題を醸成することを可能にするという特徴があります。今日、ここにお集まりいただいたみなさんも正にそうですが、海に対する共通の想いを持ち合わせた同窓生が、各国において、行政官、外交官、科学者、研究者や立法者など、海の専門家としてさまざまな分野で活躍されているのです。
私が繰り返すまでもなく、海は本当に危機的な状況に陥っています。海の存在なくして人類は生存していけません。にもかかわらず、気候変動は、海水面の上昇や海洋の酸性化を引き起こし、水産資源をはじめとする生態系の変化や減衰をグローバルスケールで進行させるなど、海洋に多大な影響を及ぼしています。また、私たちが日々大量に発生させ投棄しているプラスチックなどのごみが海に流れこむことにより、これまでの自然界の食物連鎖のバランスを崩し、生態系そのものを壊してしまうため、国際的にも大きな課題となっています。ここ黒海及びカスピ海地域においても違法操業による水産資源の減衰や海洋環境の変化に対する統合的な海洋管理が大きな課題であると伺っています。海を持続可能な形で発展・利用するための取組みが、国連などを中心に盛んに行われていますが、海の存在の大きさや海の問題の複雑さを考えると、50年や100年先の未来ではなく、500年、1000年先のビジョンを描く必要があるのではないかと私は考えています。
これらの複雑で多岐にわたる海の問題に対峙する時、分野や組織、国を越えた連携が不可欠であることは周知のことですが、国際的な海の問題を効果的に解決するための分野横断的な連携や取組みは、未だ不十分であると言わざるを得ません。こうした連携を推進するのは、学際的なマインドを有し、類稀な行動力をもって人や組織をつなぐ“人材”であることに他なりません。
日本もそうですが、隣接国とは領海問題などの政治的な問題を抱えており、それらの利害を協議するために集まることさえも難しいことが往々にしてあります。だからこそ“同じ釜の飯を食べ”海に対する共通の想いをいただいてきた同窓生が今回の試みに賛同いただき、今回の会合が実現できたのではないかと思います。この試みをジョージアの奨学生自らが発案、ジョージア政府と共に実現してくださったことが何よりも意義あることであり、改めて賞賛させていただければと思います。日本財団は、私たちの同窓生による革新的なアイデアや企画を常にサポートすることを惜しみません。
今回の会合を、同窓生によるネットワークを強化して行動につなげていくためのプラットフォームだとお考えください。本日ここには、日本財団の人材育成プログラムのうち、UN DOALOS (United Nations, Division of the Ocean Affairs and the Law of the Sea), IMLI(International Maritime Law Institute), ITLOS(International Tribunal for the Law of the Sea), WMU(World Maritime University)とともに実施する4つの人材育成プログラムの垣根を越えて、同窓生が一同に会してくれました。今日から2日間、黒海及びカスピ海における海の問題に関するニーズや課題を抽出し、それに対して何ができるのかを一緒に語り合うことができるのを心より楽しみにしています。
今日を契機に、みなさんのネットワークや連携がより強化され、更に他国や他の地域の同窓生との世界的な協力へと深まることで、みなさんが国際的な海の問題の解決に向けた先導者として国際社会をリードしてくれることを期待します!
日本財団はいつもみなさんを見守っています。
私たちと美しい海を次世代に引き継ぐために共に歩みましょう!