日本流国際支援に誇りと自信を
産経新聞【正論】
2016年12月2日
国際社会が大きく揺れ、日本外交も難しい局面を迎えている。その中で1991年から10年間、世界1位の座にあった日本の政府開発援助(ODA)は現在、世界5位に後退している。
しかし、覇権や反対給付を求めず相手国の目線に立って支援する日本の国際貢献に、途上国の評価、期待は逆に高まっている。
1千兆円を超す借金を抱え、少子高齢化の進行で経済が停滞する中で、日本が国際社会で安定した地位を確保していくためにも、引き続き質の高い支援を継続・発展させる必要がある。
≪高いアフリカ諸国の期待感≫ 政府主催の第6回アフリカ開発会議(TICAD)が8月、ケニアの首都ナイロビで開催され、日本は民間投資も含め総額300億ドルの援助を打ち出した。
中国が昨年の第6回中国アフリカ協力フォーラム(FOCAC)で打ち出した支援額の半分にとどまるが、産業や経済、公衆衛生分野などの人材育成を中心に「1千万人の人づくり」を柱に据え、インフラ重視の中国ODAとの差別化を図っている。
会議には70社に上る日本企業の経営幹部も参加、国際協力機構(JICA)や各企業の出展ブースも用意され、2日間で1万人を超す人が会場を訪れた。
TICADは93年以来、5年ごとに日本で開催されてきたが、アフリカ連合(AU、54カ国・地域)の強い要請で6回目の今回からアフリカと日本で3年ごとに開催することになった。大統領13人を含む各国の首脳も多数参加し、アフリカ諸国の対日期待感の高さをうかがわせた。
今年は、笹川アフリカ協会(SAA)の設立30周年にも当たり、期間中、同じ会場で記念シンポジウムを開催した。SAAは84年、エチオピアを中心にアフリカを襲った大飢饉(ききん)に対する食料援助をきっかけに、ジミー・カーター米元大統領や緑の革命でノーベル平和賞を受賞した故ノーマン・ボーローグ博士の協力を得て発足した。
食料支援は一時的に空腹を満たすことができるが、食料問題を解決するには農業増産こそ欠かせない。SAAでは「魚を与えるより釣り方を教えよ」の考えの下、計14カ国で約6千人の農業普及員を育成し、農業の普及に向け文字通り第一線で活躍している。
≪「最も信頼できる国」のトップ≫ 国の発展には道路や港湾などインフラの整備はもちろん欠かせない。しかし国の将来を切り開いていくのはやはり人である。われわれの取り組みに限らず、JICAの専門家研修や文部科学省の官費留学、青年海外協力隊など、日本が取り組む人材育成支援はアフリカでも高い評価を得ている。
仕事で世界各国を回るうち、日本の人材育成制度で学んだ経験を持つ大臣や高級官僚に出会う機会が増えた。日本での研修に誇りを持つ彼らの姿を見るにつけ、こうした人材ネットワークが日本外交の大きな力になると実感する。
成長著しい東南アジア諸国連合(ASEAN)各国のうち7カ国を対象に日本政府が2年前に行った世論調査では、90%の人が「日本政府の経済・技術協力が自国の発展に役立っている」と答え、これらの国に支援実績を持つ11カ国に対する評価でも、日本は「最も信頼できる国」のトップに挙げられている。
BBCが2005年から行っている「世界の貢献度調査」でも日本は計3回、肯定的な評価を受ける国のトップに選ばれており、今年9月には青年海外協力隊がアジアのノーベル賞といわれるラモン・マグサイサイ賞をフィリピンの財団から授与された。
≪国民の強い支持が不可欠だ≫ 少数民族の和解に向け、筆者が日本政府代表を務めるミャンマーでも経済や教育、医療、農業などあらゆる分野の人材育成、技術供与に協力する日本への期待は極めて大きい。
日本は貿易依存国であり、海外から資源や食料を安定的に確保するためにも、途上国との信頼関係は欠かせない。欧米先進国と違い、歴史的にも宗教的にも多くの途上国と中立の立場で付き合える強みもある。
問題はそうした国際貢献を国民がどこまで支えるかにかかる。各種調査によると、肯定的に評価する声は30〜40%台にとどまり、あまりの数字の低さに戸惑いさえ覚える。
かつて知日家の英国人陶芸家バーナード・リーチは「日本にはあらゆるものがあるが、日本がない。今、世界でもっとも反日なのは日本人だ」との言葉を残したと聞く。リーチの死後、30年以上たった現在も、この国は自己否定、自虐思想から抜け出せずにいることになる。国民の支持なしに外交は成り立たない。日本が引き続き国際社会に貢献していくためには国民の強い支持が不可欠だ。
世界はドナルド・トランプ米次期大統領の登場で間違いなく流動性を増す。国民の誇りと自信を背景に日本流の支援を強化・発展させることが、国際社会での日本のプレゼンスを確立する。
(ささかわ ようへい)