「再犯防止について」
―職親プロジェクト―
犯罪者の再犯問題が報道されるようになって久しいが、2013年の再犯者率は46.7%と過去最悪を記録した。
日本財団では、福田英夫部長を中心に再犯防止のための研究会を立ち上げ、実践を積み重ねてきた。
課題解決のための官民による勉強会も開催。当時の谷垣禎一法務大臣も大いに関心を示され、勉強会にも出席いただいた。法務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省、総務省、民間側からも協力雇用主、自助グループ、NPO、学識者、元受刑者等々が参加し、10回にわたり熱のこもった勉強会が開催された。
第1回再犯防止を考える官民合同勉強会には
谷垣大臣も出席してくださった
日本財団には、この勉強会以前から推進、注目されてきたプロジェクトがある。この分野で実績のあるお好み焼き専門店『千房』の中井政嗣社長の協力を得て実施している『職親プロジェクト』である。
単に『再犯防止』のお題目を唱えても問題解決にならない。職親プロジェクトは、中小企業の経営者が親代わりになり、孤独な出所者を雇用して更生させるプロジェクトである。現在20社の中小企業経営者が参加。中には昔、少年院の世話になった人もおり、全員が社会のために多少でもお役に立ちたいとの志を持つ。
日本財団と企業が協力した『職親プロジェクト』は、少年院、刑務所で求人活動を行い、企業が職場を提供する。2013年2月の立ち上げ以降、この2年間で157人の応募者に対し、27人が雇用を前提に就労した。しかし、6カ月の就労体験(日本財団が毎月8万円の支援)を経て職場に定着したのは、わずか3人にとどまる。
しかし、我々はこの結果を悲観してはいない。2年間の体験から更生・支援の難しさを実感し、手探りの中から、さらなる挑戦への糸口が見えてきたからである。
雇用主が行う1〜2回の短時間の面接では受刑者の本音や性格を正しく判断することが難しく、仕事内容と本人の希望が必ずしも一致しなかった。また、受刑者は社会性に乏しく金銭感覚もない。勤務先で嘘をついたり、些細な失敗で逃げ出し、昔の悪い仲間のところに戻るケースも多かった。
その要因として考えられるものは
*基礎教育の不足。(加減乗除の計算ができない者もいる)
*働くことに対する意識の欠如。
*少年院、刑務所の中の社会復帰プログラムが不十分で、今でもクリーニング、木工、建設現場の作業等、実社会とかけ離れた指導が行われている。
*社会の多様性の中で、本来教育刑である少年院、刑務所での社会復帰プログラムが未整備である。
これらの解決には、官民が互いに知恵を出し合い、情報交換を緊密にし、『就労』『教育』『住居』『仲間作り』の4つの課題解決の重要性が見えてきた。
幸いにも上川法務大臣をはじめ、法務省は全面的に協力の意思を示して下さっており、日本財団が企業に拠出していた1人月8万円の支援金も、新たに予算措置に組み込んでいただいた。
この2年間の反省をもとに、少年院、刑務所における新たな取り組みとして
1. さまざまな企業説明会。
2. 企業経営者の講話や職場見学会の実施。
3. 専門家によるメンタルサポートや基礎学力の学習の実施等。
出所直前に受刑者を指導するのではなく、入所直後からこれらのプログラムを実施することが理想である。特に昔の悪友との連絡を断ち自助グループや支援団体との連携のためにも住居の提供も必要と考えている。
雇用主である志のある経営者の好意に報いるためにも、法務省と連携し、具体的成果を確保することで、この社会課題の解決に向け大きく前進したいと職員一同気持ちを新たにしている。
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5月27日、下記のような要望書を上川陽子法務大臣に直接手渡した。
今後の法務省のご指導を期待したい。
上川大臣に要望書を手渡し、協力をお願いした
法務省の関係者の中には、このような要望書が公開されることを不快に思われる方々もおられるだろう。ただ筆者は、再犯防止プロジェクトの実現は国民の理解なくして不可能であり、情報を共有することが大切と考えてあえて公表させてもらう。
法務省におかれましては、我々の情熱を了とされ、誤解なきようご理解いただきたいと思います。
法務大臣
上 川 陽 子 様
刑務所出所者等の再犯防止における要望
官民が共に再犯防止のための更生支援を実施する上で、次の項目について ご理解ご協力下さいますよう、お願い申し上げます。
(1)
外部通勤作業の拡充 一部施設で実施の本制度について、職親プロジェクトにおいても活用、職場定着率の向上を
目指す。
(2)
採用内定者等の個人情報の一部開示 犯罪経歴、施設内処遇、犯罪傾向、カウンセリング等に関する情報を開示いただき、雇用後
に留意すべき情報を得る。
(3)
職親企業の刑事施設内等での職業訓練の実施 仕事フォーラムの実施により仕事に対する意識を高める取り組みが行われている。本取り組
みをより一層強化する対策として、職親企業による職業訓練を刑事施設内で実施する。
これにより、受刑者の職業選択の幅の拡大を図るとともに、より社会ニーズにマッチした技
術習得を目指す。
2015年5月27日
日 本 財 団
会 長 笹 川 陽 平
【注】
(1)は、刑務所、少年院から職場に通勤することです。一部集団で実施されていますが、一人での外部通勤では監視ができず、逃亡された場合の責任問題が生じます。この難問をどう解決するかが智恵の絞り所で、これを日本財団が全て責任を持つことで検討いただけないかと考えています。
(2)は、出所者の犯罪経歴、家庭環境、本人の性格、その他個人情報が入手できないので、雇用主としては個人の性癖が不明で手探りの指導になってしまいます。雇用主限りの情報として提供していただきたい。
(3)は、受刑者は入所した時から出所後の生活を考え、施設内での職親企業の説明会や職場訓練を行い、出所後の生活設計ができるようにする。最大の問題は施設内でのパソコン使用が厳禁なことです。出所後、働く職場でパソコンが使用できないということは致命的なことで、加減乗除(四則演算)が出来ない出所者も、パソコンが使えれば可能になるからです。