「ダニとの対話」
―エチオピアにて―
私 :日本でもダニは評判が悪い。
他人の稼ぎを巻き上げて生活する者を「社会のダニ」といって嫌っている。
ダニ:旦那、それは大きな誤解です。
日本にも約2000種類の仲間がいますが、人間の血を吸うのはわずかです。
私 :それが良くない。
それに最近、日本でも病気になる悪質なダニが発見されている。
ダニ:一部を見て全体を評価しないで下さい。
お国の警官や教師などにも不届き者がいるのと同じことです。
私 :前回のエチオピア出張では世界遺産の「アリベラ」に行ったよ。
ダニの名所としても有名なんだね。
ダニ:世界中から観光客が訪れるので、ダニの仲間には大人気なんですよ。
私 :人間によって味も違うのかね。
ダニ:そりゃそうですよ。
やはり一番人気は日本人ですよ。
私 :どこの国の人間の血だって同じだろう。
なぜ日本が一番なのかね。
ダニ:そりゃ私たちだって一日も長生きしたいのは人情、いやダニ情ですぜ。
世界一長寿の日本人の血は世界一でしょう。
しかし最近、日本人の血は吸えないと、仲間内では大問題なんだ。
私 :どうしてだ!!
ダニ:最近、日本人はダニ防止の薬を塗ってくるので、手も足も出せないんです。
私 :私は薬を塗ってないよ。
「アリベラ」に行った時は海外青年協力隊や笹川アフリカ協会のピチピチした女性も
一緒だった。
そこで皆で、一晩お前たちにご馳走しようと賭けをした。
一番ダニに愛されて咬まれた者に賞金を出すことにしたんだ。
驚くべきことに、一番年寄りの私が19カ所咬まれて優勝した。
お前たちの仲間は人を見る目がないね。
ダニ:いやいや、ちゃんと人は見ていますよ。
私 :ならば何でピチピチした女性を吸わなかったんだ。
ダニ:私らは世界中の観光客の血を吸っているグルメなんだ。
確かに若い女性の血はうまいよ!!
ただ、味は淡泊なんだ。
旦那の血は老人だが肉は柔らかく、何といっても人生に苦労された方だから何とも
いえない豊潤な味がするのよ。
仲間の間では、ワインでいえばビンテージ物だったと評判になっている。
私 :同行者には、現地で全く咬まれなかったのに、日本に帰ってから咬まれて病院に行った
者もいるぞ。
ダニ:先にも言ったように、日本人は俺たちのあこがれなんだ。
俺たちの世界もグローバリゼーションだから、海外に行く者も多いよ。
私 :英国のBBC放送の調査では、日本が世界一好感度が高い国だそうだが、お前たちの
世界でもそうなの?
ダニ:その通り。
私 :私の親父は「世界は一家 人類は兄弟」と言って平和主義者だった。
倅の私も蟻の行列を眺めたりと昆虫が大好きだが、蚊とダニだけは許せない。
ダニ:たしかに蚊はマラリア、デング熱などを媒介して命に関わるからわかるが、ダニは命
までは取りませんので、どうぞお目こぼしを願います。
私 :さっき、日本のお前の仲間は命にかかわる相当な悪がいると言っただろう。
ダニ:平和主義者の旦那がダニを目の敵にするのはおかしいですね。
インドの仏教徒は生きているものは一切殺さないそうですよ。
私 :何事にも例外はあるものだ。
通常、お前たちは人間の手足を咬むが、今回、私の首筋や肩、胸を咬んだんだ。
ダニ道に反するのではないか。
ダニ:確かに。
しかし旦那の体を調べて歩いていると、何とも言えない魅力的な肉体に、ついつい
我を忘れて咬んでしまったのです。
ご勘弁ください。
私 :それで味はどうだった?
ダニ:近年まれにみる美味でした。
通常軽く咬んで血をいただくのですが、つい興奮して深く咬んでしまって申し訳
ありませんでした。
私 :そんなに美味かったのか?
ダニ:わたしゃ天国に行ってもいいほどの味でした。大満足です。
旦那、どうしてその年齢で美味な体なんでしょうか?
私 :よくぞ聞いてくれた。
私は今76歳だが、毎朝5時に起きて竹踏1000回、腕立て伏せ150回を中心に、50分
のストレッチ体操で体を鍛えているんだ。
80歳になったら筋肉マンの写真を撮りたくてね。
ダニ:でも腹筋はまだまだですね。
私 :腹筋を鍛えると尾骶骨(びていこつ)の一点に体重がかかるので、痛くて続けられ
ないんだ。
ダニ:どうりで尾骶骨のところは皮膚が荒れてて、咬む気がしませんでした。
私 :健康維持の努力はダニのためではないぞ!!
ダニ:人生の艱難辛苦に耐えて、なお肉体を鍛えている旦那の血は、なんともいえない
ほのかな香りと深い味わいがありました。
私 :バカを言え!!
お前のお陰でハードスケジュールの中、かゆみと痛みに耐え、まるでエチオピアで
禅の修行をしているようじゃったぞ。
何処にいてもかゆくて・・・
ダニには日干しがいいと言われ、部屋の外に干してはみたが・・・
ダニ:またのエチオピアへのお越をお待ちしていいます。
私 :日本は今、積極的平和外交を展開している。
これからも人道活動で何回でも来るよ。
しかし専守防衛が国策だ。
次回はダニ防止の薬で専守防衛をやる。
ダニ:何てことをおっしゃる!!