「日中関係史1972−2012」出版 その3
―北京で刊行発表会―
6月28日(土)、北京で『日中関係史1972−2012』4巻の刊行発表会と、有識者による意見交換会が開かれた。出席者は末尾に記載したが、政治編は編者の高原明生・東京大学大学院教授、経済編は編者の丸川知雄・東京大学教授、社会文化編と民間編については園田茂人・東京大学京教授がそれぞれ報告した。
日中関係史出版座談会
それに対する中国側のコメントの要旨は下記の通りであった。
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【政治編について】
北京大学梁雲祥教授からのコメント:
「政治編」の第8章と第15章の論文が削除された形で出版され、著書本来の姿で読者に提供できないのは残念だ。海外の学者の論文の翻訳なので、主張に同意できなくても、著作は原文のまま訳出し、出版すべきだ。現に中日両国の国家発展の戦略が一部衝突するものがあり、それが拡大されて今日の対立に発展した。これを今後どう調整し、調和していくかを検討する重要な時期にあたって、本シリーズ図書の出版は大変参考になり、重要な意義を持つ。
【経済編について】
中国社会科学院日本研究所の張李風研究員からのコメント:
日中関係の『強靭性』を裏付ける要素として取り上げられてきた経済協力も危機に面していることは、最近の日中貿易額、特に日本の対中国投資の大幅な下落によって示されたように、思われたほどの『強靭性』を持てなくなっており、手放しで安心できない。『強靭性』そのものが『脆弱性』に変わりつつあるので、これを楽観視せず、両国に警鐘を鳴らしておく必要がある。
【社会文化編・民間編】
第3巻「社会文化編」と第4巻「民間編」の編者・園田茂人東大教授の主旨説明に対し、清華大学の王忠忱教授からのコメント:
福田元首相のインタビューを読めば分かるように、日本側の多くの日中協力の推進者たちは、自らが中国と付き合う中で、相手国に対する印象を形成し、それを固定化することなく、絶えず認識を相対化してきた。中国人の日本イメージは固定化の悪影響をうけ、両極端に走っている。日本側についても同じことが言える。相手のイメージの固定化を打破することこそ関係者にとって喫緊の課題である。この見地からみれば、本シリーズ図書が日本側学者の中国社会に対する多角的なとらえ方が示されたので、相手を認識する時の固定観念を打破する意味で特に有意義である。
北京大学牛軍教授のコメント:
自分は日中関係を専門に研究していないが、本シリーズ図書には、日本側の史料が豊富に使用されているので、中国側の研究者にとって大いに参考になる。これらの資料を共有し、吟味しながら、日中双方の関係者が今の日中間の対立について考え、日中関係史の史実の中でメディアによって無限に拡大された部分は何か、また、両国のリーダーたちを支配してきたものは何かを共に考えたい。
北京大学王暁秋教授のコメント:
本シリーズ図書は最高のタイミングで翻訳・出版された。中日関係には、民を以て官を促し、学を以て官を促す歴史がある。中日関係のこの困難な時期にこそ、学者は自分たちの責任を今一度真剣に考える必要がある。
南開大学日本研究院宋志勇院長のコメント:
両国の学者、有識者が本シリーズ図書を必ず自国の指導部に渡し、中日関係の改善に、学者なりの貢献をしていきたい。
中国現代国際関係研究院日本研究所胡継平所長のコメント:
日中関係が空前の困難に直面している今、本書に反映された理性的な声が少ないだけに、この翻訳・出版が重要な意義を持っている。
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このシリーズの出版に尽力された先生方並びに東京大学出版会、中国社会科学文献出版社に感謝申し上げる。
また、笹川日中友好基金の胡一平女史の責任感あふれる忍耐力と、この事業にかけた熱い思いなくして実現しなかったことを記録し、心からの感謝を捧げたい。