「北極海航路の開発」
今日、かつて夢の航路といわれた北極海航路が、気候温暖化の影響で海氷域が激減し、航行可能となってきた。今年は8月28日現在で20隻が実際に運行し、11月上旬まで500隻以上が航行する見込みである。
単純な距離では、スエズ経由に比べ3分の2程度となり、運航費は大幅な削減となる。今や北極海は、資源開発を含めて各国の注目の的になっている。しかし下記のスピーチにある通り、さまざまな問題も内包されている。
ようやく日本も北極協議会のオブザーバー国になった。しかし、日本は伝統的に南極中心の調査・研究活動に熱心で、正直なところ、北極海については出遅れていると言わざるを得ない。
私は1993年、固い海氷に閉ざされた北極海の航行の可能性について、「夢への挑戦」と考え、ノルウェーの北極冒険家の名前を冠した「フリチョフ・ナンセン研究所」と共に7年間、共同研究を行った。
今回来日したロシア中央船舶海洋設計研究所のペレシプキン総裁は、「あの時の笹川さんの決断と実行そして研究成果は、今日の北極海航路の実現に大いに役立っています」と、お世辞半分のコメントをいただいた。会場は満席で、関係者の関心の深さを物語っていた。

満員の会場
*******************
「北極海航路の持続的利用に向けた国際セミナー in 東京」
―開会挨拶―
2013年9月3日
於:霞山会館
本日は日本をはじめ、ロシア、ノルウェー、アメリカの北極海航路に関する専門家及び海事産業界の皆様にこのように多数お集りをいただきました。特に今回は、ロシアのヴァシリエフ北極担当特任大使には遠路ご出席下さいまして、改めて御礼を申し上げます。また、日本政府の西林万寿夫北極海担当大使、駐日ノルウェー王国のミットゥン臨時代理大使にもお越しいただきました。
北極海航路の持続的利用に焦点をあて、特に商業利用の促進を目的とした会議の開催は、実は日本では初めてのことでございます。
ご存じの方も多いかと思いますが、本セミナーの主催団体であります海洋政策研究財団と私の勤めております日本財団は、かつて、ロシア、ノルウェーの両国の協力をいただき、未知な領域が多かった北極海航路につきまして、不肖私が議長として、1993年の「国際北極海航路開発計画」を皮切りに、民間レベルで国内外の専門家による国際的・学術的な調査研究を行いました。この「北極海航路開発計画」には合計14ヶ国390人にのぼる研究者の皆さんのご協力をいただき大きな成果を挙げることができましたことは、
海洋政策研究財団が出版した報告書の通りでございます。ご興味のある方は財団にアクセスしていただければご利用が可能かと思います。

北極海の地勢
近年、北極海では気候変動の影響により海氷が大幅に減少し、航行可能な期間が増大しております。この地域での海事・海運業界以外からも大きな関心が寄せられておりますことは皆様ご存じの通りでございます。
北極海航路の商業利用が現実味を帯びており、今年に入って実際に航行する船舶も増加しております。しかし、マーケットの関心がそのまま反映された形で航行船舶が増えますと、当然ながら当該海域で発生する船舶から排出される硫黄酸化物などの排出物も増加をするわけでございます。それに伴いまして、北極海という特殊な地域における環境破壊に関するリスクが急激に高まることも予想されます。
また、厳しい航行条件下にある北極海では、海難事故の可能性が極めて高いわけで、深刻な環境汚染が惹起される恐れもございます。海難事故救助活動は容易ではございません。事故船舶から流れ出す重油が生態系に及ぼす悪影響の規模は想像を絶するものがございます。航行船舶が増加すれば増加するほど、このリスクも比例して高くなることはいうまでもございません。
さらに、北極海航路の管理そのもの、例えば発生した海難事故や海洋汚染やその対処を巡り、沿岸国と利用者による利益対立の構造が生まれ、アジアと欧州を繋ぐ新たな航路であったはずの北極海航路が争いのもとになり閉ざされてしまう可能性も否定できません。
北極海航路の持続可能な利用を前提として、私たちはいったい何をしなければならないのでしょうか。私は3つのことを考えてみました。
第1点目は、商業利用の促進を図る活動、例えば北極海航路を実際に活用したコスト分析が必要ではないでしょうか。地理的には短距離であっても、諸コストを勘案すると経済的に優位になるかどうかはまだ不明な点が多々あると思います。客観的なデータ分析と個別具体的なケースを開示すること必要があると考えております。
2点目は、北極海航路を取り巻く総合的な海洋管理といったガバナンスに関する分野です。沿岸国と航行国が細部にわたって円滑に合意形成を図れるように、国連海洋法条約をはじめ、北極海航路を取り巻く各種法規を透明性・妥当性の高いものにする必要があります。これらに付随する形で、航行が増加するにつれ高まる海難事故と海洋環境汚染への体制の整備も重要でございます
そして第3点目は、北極海航路の気象、海象あるいは海氷といった要素の観測と予測強化のための調査が必要です。これまで培ってきた経験とデータを活用し、より多くの船舶が安全に航行することができるための基礎情報を収集する必要があると思います。ロシアのプーチン大統領は北極海航路を「世界的な大動脈」と表現されていらっしゃいました。これらの調査結果は沿岸国や航行国を始めとする世界の海事業界にとりまして、新たな国際公共財とも言えるほど貴重なものになるでしょう。そのためには、国際的な調査研究プラットフォームのような体制の整備や、このプラットフォームにもとづいた調査研究船による包括的な海洋調査も必要となるのではないでしょうか。
私が提案申し上げたこれら3つの取り組みは、一国やあるいは一つの組織、そして沿岸国だけで完結できるものではございません。北極海航路の持続的利用という人類初めての試みに対して、利用国も含め、関係者は一丸となって取り組む必要があると思います。そのために、日本財団はこれら3つの分野において、ご参加の皆様方をはじめ、関係者と共にできる限りの協力支援活動を行って参りたいと考えております。
今回のセミナーには北極海航路に精通している産官学の第一線の方々にプレゼンターやパネラーとして参加をして頂いております。北極海の商業利用に加えて、持続的な利用に向けて必要な対策など、理解を深めていただければ主催者としてこれに勝る思いはございません。
********************
夢への挑戦!!は、青春真っ只中の私の人生哲学でもある。
ご興味のある方はクリックしてください。
*
フジサンケイビジネスアイ「大航海時代からの夢・北極海航路」*
「北極海会議」*
産経新聞『正論』「新しい北極海、急ぎ国家戦略を」