「タイの安全保障対話会議」
―ミャンマーを中心に基調講演―
8月31日、タイで開催された「安全保障対話」の国際会議に基調講演者として招待され、日帰りで参加。以下、英語で行った講演内容の日本語訳を掲載します。
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基調講演中の筆者
お集まりの皆さん。本日このような素晴らしい会議にお招き頂いたことに感謝致します。タイ王国は歴史的に政治信条に関わらず、周辺国で迫害を受けた人々に避難の場を提供してきている人道的な国家であります。特にミャンマーについては、人道的見地より長年にわたり難民キャンプのみならず、数多くの困難な状況にある人々を長期間受け入れられていることに心から敬意を表すると同時に、国際社会も大いに評価する必要があると考えております。
日本財団はこれまでミャンマーで50年近く保健衛生、教育、障害者支援、平和構築を中心とした人道支援活動を2億ドルを超す規模で実施して参りました。こうした経験をもとにミャンマーにおける和平を実現すべく「現場には問題点と答えがある」という哲学のもと、少数民族武装勢力(EAOs)の活動する山岳地帯をはじめ現地を150回以上訪問して汗をかいております。本日は、この場で私の経験を皆さんにお話しできることを嬉しく思います。
私がこうした人道活動に従事しているのは、私の幼児体験に由来しています。私は今年86歳になりましたが、80年前日本はアメリカと戦争しておりました。私が6歳の時に、私が住んでいた街はアメリカ軍の空襲にあい、2.5時間の間に10.8万人が殺され、数百万人が怪我を負いました。町が焼ける中、町では私と母親のみが生き延びることが出来ました。奇跡的に生き延びたものの町は焦土と化し、当然食べるものがなくなり、道に生えた草を食みながら常に栄養失調の中苦しい生活をしてきました。こうした幼児体験があるからこそ、現在人道支援をしているのであります。
皆さんご承知の通り、ミャンマーには20を超える少数民族武装勢力(EAO)がおり、80年近く国軍との内戦が続いております。しかし、この20を超えるEAO同士も和平に関する政策や方針等について必ずしも一致団結しているわけではありません。また、クーデター以降、NUGやPDF等の軍政に対抗する新たな勢力も台頭し、これらの新興勢力と個々のEAOの関係性も多様な状況です。更には、国連をはじめ各国が、和平の働きかけを試みてはいますが、ほとんど効果的な活動は残念ながらできておりませんし、また、中国とは2000キロメートルにわたる国境を接しておりますが、この国境地帯においては中国語が使用され、流通している通貨も中国元である地域もあるなど特異な状況も抱えています。こうしたミャンマーの現状が今スクリーンに映し出されておりますが、これをご覧頂いてもお分かり頂けると思いますが、まさに高等数学を解くかの如く複雑な様相を呈しているのが現在のミャンマーなのです。

ミャンマークーデター以降における20の少数民族武装勢力とNUG・PDFを含む複雑な関係を示すスライド
ではこうした紛争解決にはどのような道筋があるのでしょうか。世界の紛争解決の歴史を見ると、2つの方法があります。一つは力による解決。もう一つは話し合いによっての解決ですが、多くの関係者が参加して紛争解決が出来たためしはありません。大きな力によって屈服させるとすればそれも一つの解決方法といえるかもしれませんが、私はそのような方法には賛同しかねます。やはり、意見を集約して解決策を見出す非公式の交渉が重要になると考えます。
実体験を申し上げると、ミャンマーは誇り高い国民性であり「こうすべき」「ああすべき」という上から目線の説得ではなく、まずは、彼らの言い分をじっくりと聞く姿勢を持ち続ける中で、信頼関係を構築してこそ率直な意見交換ができるのです。とにかく国軍、EAOをはじめ関係者の話をじっくりと聞いて、「この人は信頼できる」という関係を構築しなければ話は前に進みません。「こうすべき」の正義の議論や肩書きの外交では決して解決は望めません。そして、先に述べた通り、ミャンマーは二項対立ではなく、珍しい複雑な紛争形態であることも理解して対処することが重要です。
私はかように考え、当事者間で話し合う機会を作るのが役割であると認識し、仲介者が主役になってはいけないと考えています。こうした当事者間の話し合いの機会の醸成に第三者が汗をかくのが役割であります。物事を上からの視点で教育、指導する姿勢はアジア、特に誇り高い国民性をもつミャンマーという国では通用しません。時間はかかりますが、彼らと一緒に考え、より良い解決に向けて一歩一歩進むこと以外方法はないと私は思います。
もちろん私の方法が最良とは申しません。ただ、時間はかかりますが、静かに関係者の理解を得ていく以外に方法はないのではないでしょうか。私は彼らのプライドを尊重し、当事者の対話の場を作ることが第三者の役割と考えています。従って会談で合意したことを除いて、交渉過程の話は決して口外してはおりません。私はこれをスウェーデンの名外交官であったグンナー・ヤリング氏にならい「沈黙の外交」と呼んでいます。「沈黙の外交」の成果として、テイン・セイン大統領政権時代の2015年に8つのEAOとの全国停戦合意、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問時の2018年に2つのEAOとの停戦合意、また2018年の国軍による一方的かつ無条件のKIOとの10ヶ月に及ぶクリスマス停戦、そして20年から2回にわたる国軍とAAとの停戦、などがあります。
しかし、うまくいったと思ったら、新たな状況の変化が起こるといったことが繰り返され、いわば積み木崩しの如く、これまでの努力が水泡に帰してしまうことも正直に申し上げれば沢山あります。しかし私の理念は「ネバーギブアップ」で継続していくというものであります。どんな困難が何遍あろうとも、悲観せず未来志向で何度も粘り強く挑戦していくことが大切です。人間が作り出した問題である以上、我々人間が解決できないことはないと私は考えているからです。そして何より、ミャンマーは今、ミャンマーの歴史の中でも非常に難しい状況にあると思いますが、私はミャンマー全ての国民がある1点で一致していることに希望を見出しています。それは、EAOをはじめ、全員が民主的連邦国家を樹立したいということであります。これはミャンマーにおいて最大の希望であると考えております。
冒頭申し上げました通り、タイには多くの避難民がいるほか、EAOの幹部も生活しており、ミャンマーの平和はタイの協力無くして実現は難しいでしょう。私はタイの皆さんと協力してミャンマーの平和国家実現のために今まで以上に活発に活動して参ります。