「海洋生物866種発見」
―日本財団とネクトン財団―
日本財団とイギリスのネクトン財団による海洋生物の新種発見は着実に進んでいる。しかし、現在まで海洋生物は10%程度しか確認されておらず、90%は未知の世界です。
これからも続々と世界中から新種と思われる海洋生物が発見されると予測しているが、我々の最大の悩みは、海洋生物の分類学者が極端に少なく、動物、昆虫、植物学のように分類学が十分に確立していないことである。海洋分類学者の人材養成も急務であり、そうでないと新種の確認に数年もの時間を必要とすることになりかねない。とは申せ、以下の3月16日付カラパイアの記事では興味深い新種が紹介されています。
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探査船には「日本財団」のロゴ
日本財団 とイギリスの海洋探査機関 Nekton(ネクトン) が共同で立ち上げた、世界最大級の国際的海洋生物調査プロジェクト「オーシャン・センサス」の調査では、わずか16か月の間に866種もの新種の海洋生物が発見された。
866種の新種の海洋生物を発見「オーシャン・センサス」は未知の生命を記録し、海の生物多様性を解明し、海洋生物の保護を目的とした国際的な集まりだ。
今回発見された866種は、科学的に新種と認定されたもので、多種多様な生物が含まれている。
これらの種は16カ月の間、10回におよぶ水深1m 〜4,990mの海洋探検中、ダイバーや有人潜水艇、遠隔操作型無人探査機(ROV)によって発見されものだ。
ではその中でも注目すべき新種の一部を見ていこう。
200mの海底で発見された新種のギターシャークアフリカ大陸東部のモザンビークとタンザニア沖の水深200mで、新種のギターシャーク(Guitar Shark)が発見された。
ギターシャークは、サメとエイの特徴を持つ軟骨魚で、今回の発見で世界で確認されているギターシャークの種は38種類となった。
しかし、このグループは絶滅の危機に瀕していることが指摘されており、新たな種の発見はその保全活動にも重要な意味を持つ。

新種のギターシャーク Image credit: The Nippon Foundation-Nekton Ocean Census
毒を持つ巻貝「Turridrupa magnifica」南太平洋のニューカレドニアとバヌアツ沖、水深200〜500mで、新種の巻貝が発見され「Turridrupa magnifica(トゥリドルパ・マグニフィカ)」と名付けられた。
この巻貝は、毒を含んだ銛(もり)のような器官を使って獲物を捕らえる特殊な捕食方法を持っている。
この毒にはペプチドと呼ばれる物質が含まれており、研究者たちはこれが将来的に痛みの緩和やがん治療に役立つ可能性があると期待している。

毒を持つ新種の巻貝「Turridrupa magnifica」Image credit: The Nippon Foundation-Nekton Ocean Census
モルディブで発見された八放サンゴ亜綱インド洋に浮かぶモルディブの海では、新種の八放サンゴ亜綱(オクトコーラル)が発見された。
八放サンゴ亜綱は、一般的なサンゴとは異なり、柔らかい体を持つ「ソフトコーラル」の一種だ。その名の通り、1つのポリプに8本の触手を持つのが特徴で、これまでに知られているオクトコーラルの仲間はわずか5種しかなかった。今回の発見により、このグループの多様性がさらに広がることとなる。

ポリプの胃腔(腔腸)の隔壁数や触手数が8つある八放サンゴ亜綱の新種 Image credit: The Nippon Foundation-Nekton Ocean Census
南アフリカで見つかった小さな「ピグミー・パイプホース」南アフリカのインド洋沿岸では、タツノオトシゴに近い新種の「ピグミー・パイプホース(Pygmy Pipehorse)」の新種が発見された。パイプホースは細長い体を持つ魚で、オスが育児嚢(いくじのう)と呼ばれる袋で卵を育てるユニークな習性を持つ。
タツノオトシゴほどの知名度はないものの、美しい姿と独特な生態で注目を集めている。

ピグミーパイプホースの新種 Image credit: The Nippon Foundation-Nekton Ocean Census
深海調査で発見された新種南太平洋のニュージーランド沖では、希少なウナギ科の仲間「イールパウト(Eelpout)」の新種3種類が発見された。

新種のウナギの仲間 Image credit: The Nippon Foundation-Nekton Ocean Census
また、サラス・イ・ゴメス海嶺の未調査の海山では、新種のスクワットロブスター(Galathea sp.)が確認された。
スクワットロブスターはヤドカリの仲間で、ユニークな見た目をしている。

新種のスクワットロブスター Image credit: The Nippon Foundation-Nekton Ocean Census
さらに、北極の深海では新種のヒトデ「Tylaster sp.」も発見されており、極限環境に適応した生物の多様性が改めて示された。

新種のヒトデ Image credit: The Nippon Foundation-Nekton Ocean Census
未知の海洋生物発見に向けた新たな取り組み海は地球の71%を覆っているにもかかわらず、これまでに発見された海洋生物は全体のわずか10%に過ぎないとされている。
研究者たちは、まだ100万〜200万種もの生物が未発見のままであると推定している。
また、新種が発見された場合は、それを正式に認定するプロセスも重要だ。
生物が新種と認められるには、科学雑誌での正式な記載が必要であり、その手続きには数年を要することが多い。
そこで、「オーシャンセンサス」は8回の「種発見ワークショップ(Species Discovery Workshop)」を開催し、研究者同士の協力を促進することで、新種の認定のプロセスを効率化する試みを行っている。
オーシャンセンサスの科学責任者であるルーシー・ウッドール教授はこう述べる。
正式な新種の記載には長い時間がかかりすぎており、多くの生物が未分類のまま放置されており、これを変えなければならない
サメであれスポンジであれ、新種の発見は私たちの海洋生態系への理解を深め、地球環境への貢献につながる(ウッドール教授)
また、プロジェクトのディレクターであるオリバー・スティーズ氏はこう述べる。
新たに10万種の海洋生物を発見するには少なくとも10億ドル(約1,500億円)の資金が必要とされている
我々はこの大規模な発見を実現するための基盤を築いているが、最終的に重要なのは、この知識が海洋保護や気候変動への適応、生物多様性の保全にどのように活かされるかだ(スティーズ氏)