「ミャンマー大地震」
―日本政府の対応の遅れ―
ミャンマー大地震は、3月28日12時50分頃にマンダレー管区とザガイン管区を中心に発災した。私は、すでに報道されたように、4月2日から4日までミャンマーに滞在。
ミン・アウン・フライン国軍司令官・国家統治評議会(SAC)議長との会談では、日本財団の300万ドルの支援に対して謝意が表され、刻々と入る被災状況の説明と、地震対策のための20日間の休戦の説明があり、午後8時のニュースでは休戦に関する公式発表がなされた。
阪神淡路大震災や東日本大震災などの災害現場での経験を持つ立場から、「現場には問題と答えがある」との行動指針のもと、外国人として初めて現場の詳細な撮影が許可され、その映像は日本の各メディアに提供した。
首都ネピドーでは各役所に甚大な被害があり、特に外務省は建物がほぼ壊滅。死者1名。足や腕に包帯を巻いた職員を含め、猛暑の中、中国製のテントの中で懸命に活動しており、住宅も倒れ、多くの人が屋外生活を余儀なくされていた。
別表の通り、災害大国日本の自衛隊の救助隊は、世界でも屈指の救助能力を持ちながら出動せず、一方で、他国の救助隊は発災後すぐに現地入りしている。被災家屋の生存者救出には72時間が生命の限界とされており、香港は51名の救助隊と2頭の救助犬を派遣、台湾までも発災後24時間以内に、救助隊員34名、医師・看護師5名、そして救援物資を携えて現地入りし、活動を開始したという。
被災者の生命限界が約72時間であることを踏まえると、相手が軍事政権であろうと共産国家であろうと支援を受け入れる被災国家に対しては、ナイチンゲールの精神で対応するのが人道支援というものでしょう。
ミャンマーは有数の親日国です。ミン・アウン・フライン国軍司令官をはじめ、会談した全ての人々は、日本の救助活動の遅延について誰一人として非難するような言葉を口にしなかった。それがかえって、私の心に深い傷を残す結果となった。
※日本政府は4月2日、600万ドルの支援を国際機関を通じて実施する用意があると表明した。日本政府は、よく国際機関を通じての援助を実施するが、これは、“マネーロンダリング”のようなもので、親日家のミャンマー国民には日本人の援助、日本政府の援助だと認識できません。「日の丸」の見える援助こそ大切なのです。海外で600回近く活動を行ってきた中で、これほど悲しく、みじめな経験をしたのは初めてです。少し感情的な文章になりましたが、現在の私の心境です。
以下の表は、日本および他国の支援対応を時系列で比較したものです。
以下は、4月5日にバンコクで行われたメディアインタビューの内容です。
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笹川陽平・日本財団会長へのメディアインタビュー
4月5日、タイ・バンコクを訪問中の笹川陽平・日本財団会長は、nikko hotel bangkokに於いてメディアインタビューを行った。
1.冒頭笹川会長より以下の通り述べた。
(1)日夜タイには大きなニュースが連日ありご苦労されている中お集まりいただき感謝。
(2)本日報告したいのは、ミャンマーの地震の件と停戦の話だ。
(3)ミャンマーではネピドーは勿論、マンダレー管区そしてザガイン管区が酷い影響を受けた。ザガイン管区の状態については、なかなかメディアの皆さんが入れない状況下にあるかと思う。
(4)日本財団は、ミャンマー事務所もあり継続的に人道支援活動をしていることもあり、300万ドル相当の人道支援を実施すると早々に表明している。
(5)救援物資は限られたものであり、日本財団では国内においても阪神淡路大震災、東日本日本大震災、能登地震などのあらゆる災害にも出動しており、その経験から現場のニーズを見ないと、単に食料、医療という考えだけの支援では不十分だと考えている。
(6)その為、現場を見たいということで、ミン・アウン・フライン国軍司令官と1時間会談した。特別の許可を頂き、現地では州首相、管区司令官も同行され、これまで視察できなかった場所についても視察し、状況を把握して参った。後程映像を流し説明をするが、この映像は自由に使っていただきたい。
(7)視察をもとに、食料支援、医療は当然のこと、40度を超す熱い場所で路上生活を余儀なくされていることから、ビニールシート、蚊が多いことから蚊帳の必要性も高い。また、出来ればござのようなマットは普通の支援では入り切っていないので、食料を含めてこうした支援を、長い間の人道支援活動の経験を活かして活動していく。
(8)ザガイン管区は今まで入れず、またマンダレー王宮の中の被害状況についてはミャンマーの人も入れていないところにも入れて頂いた。後程映像でご覧いただきたい。
(9)こうした中で、各国の支援体制が活発になっている。当方が入るまでには中国、ロシア、インド、ベラルーシ、シンガポール、タイ、マレーシア、ラオス、ネパール、パキスタン、インド、フィリピン、バングラデシュ、インドネシアなど続々と各国国軍による専用機による物資搬入がされていた。
(10)日本からの救援物資が入っていなかったのは、親日家の多いミャンマーに対して非常に寂しい思いをさせられた。特に72時間ルールがあり、人の生命は72時間以内に救援活動が出来ないとほぼ生存は絶望的になる。これにも対応できなかったのは慙愧の念に堪えない。
(11)日本では防災省を作るというのが内閣の目玉だが、防災省ということであれば国際的にも活動すべきであるところ、親日国ミャンマーの人々の人道支援活動に大きな後れを取ったことは胸の痛むことだ。
(12)今、日本の医療部隊が入った。ようやく一昨日の15時頃に現地に入り活動を開始したようだ。大変優秀な方が入っているので活躍を期待している。
(13)ネピドーにおいても例えば外務省が損壊を受けており死亡者もでている。職員は外にテントを張って机を持ち出して仕事をしている状況で、公務員宿舎も倒壊している。
(14)建物の損壊状況については特殊で、完全に崩れてしまっている。例えばマンダレーにおいては、日本人の行方も分からなくなっている11階建てのアパートがものの見事に跡形もなく瓦礫の山になっており、何人埋まっているかもわからない。11階建ての建物は下の5階は潰れてしまっている。一見すると6階建ての建物が被害を受けているように見えるほどだ。
(15)ネピドー近郊のピンマナ町にも入ったが、そちらの映像もご覧いただきたい。
(16)当方はミャンマーとタイには190回近く停戦活動に来ているが、過去に3回停戦交渉に成功した例がある。今回は国軍司令官からは、地震の惨状、想像以上の国際的な救援に感謝を表されたと同時に、当方が行くと停戦の話と思ったのか、先方からこうした状況であることから20日間の休戦をしたいとの話が出て、その日の20時のニュースで正式に発表された。
(17)この停戦をどのように継続的に実施していくかはこの20日間にかかっている。過去の経験からすれば、全土停戦を10ヶ月間、また、AAとの停戦を1年間、2度仲介した。しかしどうしても偶発的に些細なことで小さな戦闘が始まり、双方に不信感が募り、本格的な戦いになってしまうのは過去の例だ。なんとか20日間を活用して双方の間にしっかりとした停戦が延長されることが、地震の復興活動にとっても重要と考える。
(18)今回は停戦の話、地震の現状視察の報告となるので、まずは映像を見ていただきたい。
2.これに対し、読売より以下の通り述べた。
(1)支援物資に関して、一般的に支援物資が配られても国軍の支配地域のみに配布される懸念があるが如何。
(2)この点国軍司令官と協議したか。
3.これに対し、笹川会長より以下の通り述べた。
(1)海外の方が地理的なことが分からない状況での物資配布をするにはどうするかとなると、国軍或いは赤十字等々の指示を受けてやっているようだ。我々は長く活動しており、我々の裁量で配布物と場所も自由にやることになろうかと思う。
(2)支配地域以外も対象としていく。
4.これに対し、中日新聞より以下の通り述べた。
(1)ザガイン市街地に行かれたと思うが、住民によると国軍と警察はがれき撤去もしていないようだ。マンダレーからの橋、道などのチェックポイントにおいて民主派側の人が通れず迂回したりしているようだ。国軍の兵士が救助作業はしていたか。
(2)停戦後にも攻撃していることは如何。
5.これに対し、笹川会長より以下の通り述べた。
(1)ザガイン管区に入る橋は2本あり、1つは崩壊し、もう1つも状況が良くないようで交通制限をしないといけない状況だ。現地では中国が真っ先に入って救助活動が活発に行われていた。
(2)当然のことながら総出で活動されていた。日本であれば木造家屋などは崩れても空間がある程度残るので挟まれた人の救助が可能なことも多いが、レンガが全て崩れている状態の中に人間がいるため、完全に生き埋めになっており何人中にいるか分からない。
(3)今回の支援物資については、日本財団が独自で行うものであり、今までも人道支援を長くやってきており土地勘もある。また品物も現場を見ないと不必要とは言わないまでも、ある一定の救援物資が大量に来て処理できない問題も発生しうる。我々が現場を見たのは、皆街路で生活していること、蚊が多いこと、寝るためのシート、そして食料を中心に迅速にやる手配をミャンマー事務所で開始している。
(4)軍はいまだに攻撃をしていることについては、停戦の話が最前線までしっかりと短期間に届くかというのは若干疑問がある。本来は停戦後前線から撤退するといったことが必要だがそこまで話が行っていない。空爆については停戦に入っているが、この停戦中の空爆のあるなしは真実かフェイクニュースか現状は判断できない。
6.これに対し、読売より以下の通り述べた。
(1)停戦を延長するかについて国軍司令官と協議したか。
(2)国軍は来年にも総選挙をしたいと言っているが、その点についても国軍司令官の考えに変化はあったか。
7.これに対し、笹川会長より以下の通り述べた
(1)選挙の方は困難な状況ではあるが、当方の個人的な考えでは来年1月頃までにやるのではないか。8月の発言に注目すべきだが、選挙が出来なければ軍政が継続してしまうので、何としても選挙をしたいという強い気持ちがあろうと思う。
(2)ミャンマーの内戦は世界の紛争の中でも特異な紛争形態だ。20の少数民族武装勢力(Ethnic Armed Organization:EAO)がそれぞれでも闘い、また国軍とも闘っているという複雑な状況下だ。この悲劇的な地震を契機として国家再建に貢献しようという目標が出来たように見えるが、この20日間の過ごし方で延長の如何が決まってくるのではないか。
8.これに対し、朝日より以下の通り述べた。
(1)ザガイン管区の方は重機もなく、人々はテントで暮らしている状況は理解した。他国と比較するとこうした重機は足りているのか。国連のデータによると75%は何も支援できていないということだが如何。
9.これに対し、笹川会長より以下の通り述べた。
(1)支援が遅れたことは事実だろう。重機は足りないという印象だ。72時間というのがとても大事なルールだと思うが、あの壊れ方は異常な壊れ方で、11階建ての5階部分までは潰れ、ブルドーザーで瓦礫を整理したような状況であり、完璧に崩れている。これからの復興に重機は不可欠でこれから国際社会がどのように提供できるかと思う。
10.これに対し、共同より以下の通り述べた。
(1)この地震をどのように国軍司令官はどのように受け止めているか。
11.これに対し、笹川会長より以下の通り述べた。
(1)大変深刻に受け止めており、時々刻々とデータが上がっていることは会談の際にもわかったことであり、報告される仕組みは出来ていた。
12.これに対し、共同より以下の通り述べた。
(1)地震が内戦状態にどう影響すると考えか。
13.これに対し、笹川会長より以下の通り述べた
(1)地震地域と戦闘地域は関係がない。しかしザガイン管区はPDFが活動している地域でもある。こうした不幸なことを契機にするというと語弊があるが、やはり停戦を延長し、復興に努力していくということは必要だろう。
(2)停戦については、かつてクリスマス停戦を呼び掛けて成功したが、10ヶ月の間に停戦をしたが成果がなかったこともあった。ラカインでは2回停戦をしたが、昨年に至っては停戦1周年となるところ、双方一触即発になりそうになったので、当方が国軍とEAOに交渉して前線から撤退をした。しかし別の場所でEAOが警察署を襲撃したということで戦闘が再開されてしまったこともある。上からの指令がちゃんと伝わらず結果相互不信が積み重なってきた結果でもある。当方としては、希望的にはそうしたいと思う一方、それを実現できる仕組みが構築できるかは現在の状況では予測が立たない。
14.これに対し、朝日より以下の通り述べた。
(1)戦闘しないというのが停戦の第一歩だ。震災なので、物資の流通のために検問を開くなども必要なるだろう。何をターゲットに交渉をするのか。
15.これに対し、笹川会長より以下の通り述べた。
(1)地震のあった場所は戦闘地域ではなかった。PDFの活動はあるようだが、物資を検問したりすることは視察した限りなく、多くの国が緊急支援物資を運んでいるので、順調に物資は入っていくものと思う。
16.これに対し、西日本新聞より以下の通り述べた。
(1)水や食料は意外と入っているとのことだが、一番足りないのは燃料と思うが如何。
(2)国軍司令官から日本政府へのリクエストはあったか。
17.これに対し、笹川会長より以下の通り述べた。
(1)燃料を入れることも問題ないだろう。早急な復旧が一義的な問題であるが、ミャンマーの政府だけでは対応できない。20ヶ国からの救援物資の申し入れがあり、既に救援隊も入っているので救援活動も活発になっていくだろう。
(2)日本財団として重機や燃料を入れることは我々の能力を超えている。あくまでこれまでの活動の延長線上でやっていきたい。
(3)日本へのリクエストがなかったのが心苦しかった。以前国軍司令官は、日本がミャンマーにしてくれたことは忘れないが、日本が経済制裁に参加しなければいけないことも理解していると話していた。ただ軍の問題ではなくミャンマー国民は親日家であり、それに対する人道的な活動を速やかにとることが出来なかった。一方ネパール、パキスタンといった貧困国が物資を届けている姿を見ると残念だ。
18.これに対し、中日新聞より以下の通り述べた。
(1)NCA10年となるが、EAO側に意思はあるか。
(2)偶発的な衝突の話があったが、軍のリーダーは計画的に攻撃している印象があるし、チャオピューにも合弁会社が出来たことは如何。
(3)数年前と大分状況が変わってきており、日本の政権も代わり、渡邉秀央先生もなくなり、会長の心境の変化は如何。
19.これに対し、笹川会長より以下の通り述べた
(1)今は少数民族側は元気がいいが、USAIDが解体され、資金的に苦しくなるだろう。ただ、EAOは自分たちの支配地域を回復したいということで、それ以上に闘う意思がないのは共通している。EAOがヤンゴンに攻め入ることはないと思う。
(2)AAの議長は、しっかりしたリーダーであるとみている。一昨年の11月で停戦一周年の記念をするタイミングで、武力衝突の懸念がでたことから、双方に連絡し、国軍側は絶対に先に手は出さない、AAは部隊を下げる、ということで合意した。しかしあくる日に警察署が2ヶ所襲撃されたことから、国軍は騙されたということで本格的戦闘に入ったことは残念だった。
(3)ミャンマーは親日国であり、5000億の借款もなしとしたが、クーデターが発生し、日本政府は思考停止となってきた。どうしていくかは政府が考えることだ。
20.これに対し、西日本より以下の通り述べた。
(1)死臭の話があったが、これから感染症が出てくると思うが現地で感染症対策はあったか。
21.これに対し、笹川会長より以下の通り述べた。
(1)短時間の滞在でそこまで見てはいないし、まだそこまでの対策に行く前の段階であった。日本の医療部隊がしっかり対応してくれることに期待している。
22.これに対し、NHKより以下の通り述べた。
(1)国軍司令官との1時間の会談の中で、停戦の説明以外に何か話したか。
23.これに対し、笹川会長より以下の通り述べた。
(1)我々への御礼、地震の被害状況については書類をもって説明をされており、そうしたことがほとんどであった。日本への非難は一言もなかったが、支援をしている国の名前を上げながら感謝を述べている中に日本の名前はなかったので聞くのが苦しかった。(了)