―真の独立国家たる覚悟と戦略を―
産経新聞【正論】
2025年1月6日
「自主憲法制定」「国軍の創設」「スパイ防止法の制定」「サイバー対策の確立」「武器製造力の保持」―。過激な言葉を並べたが、これらの要件を備えるのが、あるべき独立国家の姿と考える。
<<ルールより力が支配>>わが国は戦後80年間、同盟国・アメリカに頼ることで、豊かで平和な社会を築いてきた。しかし気付いてみれば、ロシアによるウクライナ侵攻やガザでの戦闘など、国際社会はルールより力が支配する世界に変わりつつある。
尹錫悦大統領の戒厳令宣布に端を発した韓国政界の混迷、シリアのアサド政権崩壊を見るまでもなく、世界は「一寸先は闇」の状態にある。国内も少子高齢化や巨額の財政赤字、次代を担う若者の内向き志向など山積する難題に身動きが取れない状況に陥っている。
英国の雑誌エコノミストが毎年発表する世界の民主主義指数によると、2024年、民主主義といわれる国は欧米、日本など24カ国。これに対し権威主義国家は2倍以上の59カ国に上る。
経済格差の拡大も急だ。国際的NGO「オックスファム」は19年、10億ドル(約1500億円)以上の資産を持つ世界の富裕層約2100人が、世界人口の約6割46億人分に相当する資産を保有している旨の報告を行った。
民主主義や資本主義は経済を発展させ、人々に幸せをもたらすと考えられてきた。多くの変化を前に、そうした神話の後退・行き詰まりを指摘する声も増えている。
そんな中、わが国の政治は「政治とカネ」、「103万円の壁」を巡る国会論議を見るまでもなく、内政課題に追われ激動する国際社会に対応できていない。
この間、覇権主義を強める中国は軍事大国化し、ロシアのウクライナ侵攻にはミサイル実験など挑発的行動を繰り返す北朝鮮も加わった。台湾海峡の緊張も一段と高まり、3国に囲まれた日本の安全保障環境は急速に厳しさを増している。
わが国は日米安全保障条約に基づき米国が日本を防衛し、わが国が米国に施設・区域を提供するのを安全保障の柱としている。これに対し、現実に有事が発生した場合、米国がどこまで対応するか、日本は受け身の立場でいいのか、多くの疑問が出されてきた。
昨年秋、日本財団が「国家安全保障」をテーマに全国の17〜19歳1000人を対象に行った調査で「他国から日本が攻撃・侵略された時に米軍が守ってくれる」と答えた若者は31%だった。
次代を担う若者の7割近くが不安を感じる、米国依存の安全保障態勢にはやはり問題がある。米国と日本では国益が違い、国民の考えにも差がある。
<<「世界で一番危ない国」>>最近、海外に出張すると、知人から「平和日本こそ一番危険な環境にある」と指摘を受けるケースが増えた。外国の要人から「永遠の同盟も永遠の敵対もない。平和を維持していくためにも日本は核を装備すべきだ」との“助言”を受け、驚いた記憶もある。
イタリア・ルネサンス期の政治思想家マキャベリは「自らの安全を自らの力によって守る意思を持たない国は、独立と平和を期待することはできない」との言葉を残した。
今の社会にも通用する名言と思う。何の備えも必要のない平和な社会が、永遠の理想であるのは言うまでもない。しかし有史以来そのような時代はなかった。
戦争や紛争に巻き込まれるのを防ぐためにも、必要な備えは欠かせない。今のままでは、この国の将来は危ないー。日頃そんな不安を強めていたせいか、正月早々、思わぬ夢を見た。
夢では若者を中心とした国会包囲デモや世論の盛り上がりで憲法が改正され、自衛隊は国軍となり、外交もたくましく変身していた。デモのプラカードには「自主憲法と国軍の創設」、「真の独立国家」といった言葉が並び、「国の尊厳を守れ」といった檄文もあった。全学連が日米安全保障条約改定を巡り「安保反対」を叫んだ昭和35年当時とあまりに違う光景に興奮したせいか、目覚めたときには全身にびっしょりと汗をかいていた。
当時は、自衛も含め軍備を放棄し中立主義に立つ「非武装中立」も議論の一つになった。現実離れした空理空論がもてあそばれた時代でもあった。
<<戦後80年「平和の迷妄」>>日米同盟がわが国の安全保障の要であるのは今後も変わらない。その一方で明確な国家戦略を持たないわが国の現状には、国の在り方として疑問が残る。真の独立国家には国民の総意に基づく国家戦略こそ欠かせない。
そのためにも政治家だけでなく、各界の指導者が覚悟と責任を持って「輿論」の先頭に立つ必要がある。それによって、わが国が戦後80年の「平和の迷妄」から目覚め、世界から尊敬される真の独立国家に生まれ変わる道も開ける。
(ささかわ ようへい)