「引きこもりになった愛犬ゴン太」
―相談に山荘へ―
息子の愛犬ゴン太は「ローデシアン・リッジバック」といって、犬族では名門中の名門で、南アフリカに住む狩猟遊牧民族の猟犬として活躍しており、体重75kgの巨体の割には、花火や雷が大嫌いで、すぐに便所に逃げ込む小心者です。日本には10数頭の希少種らしい。
飼主の息子から、そのゴン太が最近「引きこもり」になり日課の散歩を嫌がり一日中家の中で寝てばかりいるので「親父から一度説教してくれ」と日曜日に富士山麓の山荘に連れてきた。
「ゴン太!!人間でいえばそろそろ還暦だぞ!!毎日散歩して足を鍛えておかないと、特に後ろ足が弱るとお前の75kgの体重では飼主もどうしようもないぞ。朝夕散歩だけは健康のために続けたらどうかね」
「それはわかるけど最近世の中が嫌になってきたんだ」
「どうしてだい」
「公園に行くと人間より犬の数の方が多いんだよ。一人で三匹とか、中には五匹も小型犬を連れて、これみよがしに自慢気に散歩している人間さまがいるんだよ」
「それがどうしたというの」
「僕が歩いているとキャンキャンうるさいんだよ。一度ガブッと噛んでやろうと思うけど、旦那さまに迷惑をかけるといけないから我慢しているけど、我々犬にとっても嫌な世の中になりましたね。子犬のくせに一匹何百万円もしたとか人間さまが自慢しているんだよ。しかも犬の気持ちも知らないで、暑いのに洋服着せたりしているよね。あれは虐待だよ。なかには乳母車に犬を乗せている人もいるね。かつては雪の国では犬ぞりで人間を運んだものさ」
「それは飼主の趣味の問題だろう。お前とは関係ないだろう」
「僕は最近故郷のアフリカが懐かしくなってきたんだ。荒野を思い切り走りたいんだ」
「ゴン太はそう言うけど、君は少し走るだけで息を切らすではないか」
「それもそうだけど、都会の臭いが嫌になったんだ。ここの山荘のように富士山を見ながら、静かに鳥の鳴き声を聞いて、草の匂いを嗅いで、のんびり過ごしたいよ」
「仕事の予定がなければ週末にはいるからおいでよ」
「有難う。嬉しいよ。先生は犬の気持ちがわかるんだね」
「犬でもお世辞を言うのかい」

「ゴン太!!君は最近『引きこもり』だそうじゃないか」
「都会がいやになってね」
-4a3ea-thumbnail2.jpg)
「そうか、自然の環境がいいのか。それでは週末山荘においで!!」
「よろしくたのみます」