「アメリカ・カナダ大学連合日本研究センター」
―2023年度日本財団奨学金一
「アメリカ・カナダ大学連合日本研究センター」は、横浜にある秀れた日本研究センターである。
ともすれば、世界の大学の中で「日本研究」は低落傾向にあり、かつて「JAPAN as NO.1」といわれた時代と比べると隔世の感は否めない。そこで日本財団では、1人でも多くの日本研究者予備軍に支援したいと活動を続けている。
卒業祝いは、全員で浜松町から屋形船に乗船し、東京湾から光り輝く陸地のビル群を眺めながら思う存分「カラオケ」で楽しい時間を過ごすことにしている。
19人の卒業生から卒業にあたっての手紙を戴いた。
3通ほど、立派な日本文を紹介します。
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南カリフォルニア大学宗教学部のエレノア・リンダマンでございます。日本財団フェローシッププログラムで私の日本語の勉強をご支援いただきまして、誠にありがとうございました。お蔭様でこの十ヶ月間で日本語能力が向上したと感じております。
私は平安時代と鎌倉時代の宗教を勉強しております。特に、仏教と女性の関係に興味があり、文学作品や公家日記などを史料として、女性がいかに仏教に影響を与えることができたかという問題を研究しております。日本研究センターでの勉強を通して、研究に必要な一次史料が読めるようになりましたし、専門的な文章を読んだり発表したりすることにも慣れてきました。将来は日本人の学者と一緒に研究したいと考えていますので、専門に関して日本語で発表したり、話し合ったりすることが以前よりきるようになり、研究を続けていく自信つき、とても嬉しく思っております。勉強会などで他の日本財団フェロー達と話し合う機会も大変勉強になりました。心からお礼申し上げます。
アメリカに帰国後は、南カリフォルニア大学で博士課程を続ける予定です。センターで学んだこと活かして、平安時代の斎宮・斎院に関する研究を続けます。斎宮・斎院は伊勢神宮や賀茂神社に仕えている期間、仏教の修行は禁止されていましたが、それでも深い仏教信仰心を持ち続ける斎宮・斎院も存在しました。それで、そのような女性たちの日常生活とその影響を探りたいと思っております。そして、まだ英訳が出版されていない「閑居友」という仏教説話集の翻訳を続けるつもりです。改めて、笹川様と日本財団に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
令和五年五月十二日
エレノア・リンダマン
アメリカ・カナダ大学連合日本研究センター(IUC)のアレック・フレーザーでございます。
最近の気候は春の真髄です。周りの鳥、虫、咲いている花々を見ると、今年度の哀歓、出会った人々と苦労が思い浮かびます。来月には梅雨が始まりますが、その前に私は春の思い出を持って帰国いたします。
おかげさまで、IUCで十か月を過ごし、血と汗の結晶を味わうことができるところにたどり着きました。上達したと感じられる場面も増えてきました。日本財団のご支援に深く感謝いたします。
世の中では、芸術、文化、学問が社会の覇権にあまり評価されておらず、将来世界はどのようになるのか、懸念も少なくありません。しかし、日本財団の奨学金をいただいたことによって、これらの不安にさいなまれる状態に耐えて、学問の世界に向けて進むことができました。私にとってその世界は文学です。卒業論文は安部公房の小説と思想について書きましたが、日本に来て、この研究を少しずつ深めることができました。基礎的な文法などのスキルの習得はもちろん、日本語を通じて多くの大切な体験ができました。特に早稲田大学で安部公房の専門家による講座を受講し、新たな知見を得ることができました。今学期は青木先生の下で哲学者・柄谷行人の『隠喩としての建築』を読んで、安部公房の思想と結びつけてみようと考えています。帰国後は、カリフォルニア大学バークレー校の博士課程で、文学の研究を続ける予定です。そして将来は、西洋文学にしか触れたことがない学生たちに、日本文学について教えたいと考えています。確かに難しい道ですが、ゴールデンウィークに訪ねた龍安寺のつくばいに刻まれている「吾唯知足」という言葉をいつも念頭に置いて、学問の道を進んで行きたいと思います。
現代社会の問題を解決するためには、折衷的な考え方が不可欠です。そのためには、異文化を学んで視野を広げることが必要だと言えるでしょう。
春の鳥、虫、花は日本だけに恵みを与えているというわけではありません。その含意を心の底に受け入れれば、世界の接続性を理解し、平和に向けて一歩ずつ前進できるのではないでしょうか。春の甘い空気に包まれながら、そのような思いを巡らしております。
最後になりましたが、笹川会長をはじめ日本財団の皆さまに、重ねて御礼申し上げます。
令和五年五月十五日
アレック・フレーザー
二〇二三年五月十五日
マライア・ゾン