「新聞報道から」その101
―施設や里親家庭の子ども 精神的安定へ支援広がる―
生い立ち知り将来選択 生い立ちを知らず不安なまま暮らす子どもが、自分のルーツを知って主体的に将来に向かえるよう支援する「ライフ・ストーリー・ワーク」の取り組みが広がっている。親の虐待や死亡といったさまざまな事情から施設や里親家庭などで生活する中で、人生の物語を紡ぐ作業だ。専門家は「自分の情報を知ることが人生を選択する基盤になる」と重要性を訴える。
福岡市のNPO法人で働くソーシャルワーカーの中村みどりさん(37)は2歳ごろから児童養護施設で暮らした。父親はいたが、母親の記憶はない。理由も分からず、同級生と違う環境に疑問が膨らんだ。小学5年生で父親が亡くなり、「自分の情報がなくなった」と喪失感を覚えたという。
大学生の時、自分が乳児院にいたことを知り、衝撃を受けた。「自分は何者か」との思いが募り、支援者の協力を得て本籍地を訪問。自分探しの大きな一歩だった。その後、担当職員に再会し、乳児院の頃の自分を知った。「こうして生きてきたんだと今の自分につながった感覚です」。つらい事実もあるが「自分の土台」を知る過程は今も続いているという。
ライフ・ストーリー・ワークは近年、児童養護施設職員や里親らの間で、子どもの精神的な安定に必要との理解が広まった。事実の告知や過去の整理をしながら将来にどう向き合うか。幼少期から時間をかけて向き合い、寄り添うサポートだ。
10月の日本財団のイベントでは、養子として育った当事者が「年齢に応じて情報を全て伝える前提で、その後の受け止め方に気を配って支えてほしい」と求めた。普及に取り組む立命館大衣笠総合研究機構の徳永祥子准教授も「子どもが自分らしい進路や人生を選択するため、自分が何者かを知ること、それを周囲が支えることが必要」と強調する。
厚生労働省によると、保護者と暮らせない子どもを施設や里親家庭などで保護養育する「社会的養育」で育つ児童は、約4万5千人に上る。
親の困窮や精神障害、犯罪などの事情を「つらいだろうから」と説明されず、「自分のせいで親に捨てられた」と自尊心を持てない子も。施設を出る18歳になって知らされ、向き合う余裕も支援もなく困惑する例も少なくない。一方、情報の保存も課題で、社会的養育に詳しい立命館大の中村正教授は「自分で人生を後追いしようとすると、出自を知るための文書の散逸や破棄が壁になる」と指摘、改善を訴える。
子どもを社会全体で育む社会的養育。徳永准教授は「自分や家族について知りたいというサインを、施設や家で出せず、学校や保育園で発することもある。先回りして情報を閉ざさず、耳を傾け、支援につなげてほしい」と呼び掛けている。
※2020年12月30日付「宮崎日日新聞」です。