―正念場を迎える日本の国連外交―
産経新聞【正論】
2021年1 月8日
2020年、創立75年を迎えた国際連合をめぐるニュースのうち気になった一つに米国の民間調査機関ピュー・リサーチ・センターが行った国連に対する好感度調査がある。昨年6〜8月に先進14カ国を対象に行われ、13カ国が59〜80%の高い好感度を示す中、日本は29%と突出して低く、国際協調に対する支持率も最下位だった。
前年調査に比べ18ポイントの減少。パンデミック(世界的大流行)となった新型コロナウイルスに対する世界保健機関(WHO)の初動対応のまずさが大きく影響したと想像するが、わが国は1956年の加盟後、国連中心主義を外交3原則の一つに掲げ、国連に対する好感度もかつては60%を超えていた。なぜ、これほど落ち込んだのか、不思議な気さえする。
≪顔が見えない日本の資金負担≫ 筆者は国連との協力が国益につながると信じて長年、活動してきた。世界のハンセン病の制圧、危機にひんする海の再生に向けた取り組みなど、どれをとってもWHOや国際海事機関(IMO)など国連との密接な協力なしに進まない。
好感度が低迷する原因の一つとして、わが国が国連に負担する巨額の資金がどこで、どのように活用されているのか、国民に実感できない点があろう。世界には主要な国際機関だけで100近くあり、わが国は分担金や任意の拠出金、出資金など2017年度で約4800億円を負担している。
うち分担金は国連通常分担金と国連平和維持活動(PKO)分担金の2種類があり、日本は19年から3位になったとはいえ全体の8.56%、20年は双方合わせ最終的に約830億円が拠出される。全加盟国に課せられる義務的拠出金で、3年に1度、各国の国民総所得(GNI)に応じて国連総会で分担率が決まる。額の多寡が国会で審議されることは少なく、国民に見えにくいのは、ある程度やむを得ない面がある。
≪常任理事国よりトップ人事≫ しかし、任意の拠出金や出資金などに関しては、どの国のどんな事業に提供され、どのような成果があったのか、日本の貢献が実感できるよう一層の工夫が必要ではないか。資金協力の実態、顔が見えない現状では国民の理解は進まない。
わが国は長く国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指し、国連60周年に当たる05年にはドイツ、インド、ブラジルとともにG4改革案を提出したが不発に終わった。
率直に言って、常任理事国入りは今後も難しい。米国、中国など5常任理事国が拒否権を含めた既得権を手放すことは考えにくいからだ。
国連各機関の幹部ポスト獲得に力点を移すのが現実的な対応と考える。日本人スタッフが然(しか)るべきポストで活躍すれば国連に対する親近感も上がる。残念ながら15の専門機関でみると、現在は4機関のトップを中国出身者が占め、この10年間で日本人がトップを務めたのはIMOの事務局長ら2人にすぎない。最近の世界貿易機関(WTO)事務局長選でも「適任者がいない」との理由で候補者擁立が見送られた。
背景には当選第一主義がある。結果にこだわりすぎると、育つべき人材も育たない。政官財界から幅広く人材を求め、育成すべきである。アントニオ・グテレス事務総長は1995年から7年間、ポルトガル首相を務めた。わが国も閣僚経験者を国連に送り込むぐらいの気概があっていい。
≪信頼できるが力強さを欠く≫ わが国は財政面だけでなく、平和構築、人権、環境、開発など幅広い分野で長く国際社会に貢献してきた。国連の枢要なポストを目指す資格は十分ある。その意味で、シンガポール国立大学東アジア研究所が2019年、日本、中国、米国、インドなど8カ国について行った調査結果が興味深い。
東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の識者に「どの国が信頼できるか」聞いたところ、日本を肯定的に評価する声は61.2%と1位を占めた。米中対立の中で「連携すべき信頼できる戦略的パートナー」「自由貿易のリーダーシップをとる国」でも1位の評価を受けている。戦後の平和外交の成果として誇りにしていい。
しかし、「政治、戦略面で影響力がある国」では、中国が圧倒的なトップ。日本に対する支持は1.8%にとどまった。日本を「信頼できない」とした21.3%の約半数も、その理由を「日本はグローバルリーダーシップをとる能力あるいは意思がない」を指摘した。
日本に高い信頼を置く一方で、いざというときの力強さ、頼りがいに疑問符が付けられた形だ。グローバル化で大きく変わりつつある世界はコロナ禍でさらに大きく変わる。その中で国連の在り方も役割も当然変わる。わが国が新たな国連外交をどう構築していくか、正念場を迎えている。
(ささかわ ようへい)