「ミャンマーで新しい動き」
―与党NLDの元候補者や国軍兵士を解放―
筆者が国民和解担当日本政府代表を務めるミャンマーで新年早々、注目すべきニュースがあった。バングラデシュと国境を接するラカイン州の少数民族武装組織「アラカンアーミー」(AA)が1月1日、昨年11月の総選挙前に人質とした政権与党・国民民主同盟(NLD)の元候補者3人と、それ以前の戦闘で拘束していた国軍兵士3人を解放したのがその内容。
「治安上」を理由に総選挙での投票が見送られた一部地域の追加選挙の実施だけでなく、長く少数民族との内戦が続いてきたこの国の平和統一に向けた新たな端緒となる可能性を秘めており、ミャンマーの新聞、テレビはいずれもトップニュースとして報じている。ここに至る経過や意義を報告させていただく。
解放された元候補者はミャンマーの上院、下院、州議会選挙に立候補していた男性1人と女性2人。昨年10月、選挙運動でラカイン州内を移動中、拉致された。また国軍兵士は2019年11月の戦闘で拘束されていた。6人は1日、ラカイン州の州都シットウェー近郊でAAから国軍に引き渡され、元候補者3人はこの後、ラカイン州政府に引き取られた。
元候補者3人の拘束は、ミャンマー選挙管理委員会(UEC)がラカイン州や東部シャン州の一部計16議席の総選挙を見送った理由の一つとなっていた。これに対しAAは追加選挙の実施を求め、2年前から続いた国軍との戦闘を停止、国軍もこれを歓迎する姿勢を打ち出し一時停戦が実現している。3人の解放で追加選挙を実施する条件は整ったと言っていい。後はNLDを率いるアウン・サン・スー・チー国家最高顧問の判断に掛かる。
追加選挙が実施されれば、地元アラカン民族党(ANP)など地元の少数民族政党が議席の多くを獲得する可能性が高いが、総選挙ではNLDが大勝しており、どのような結果になれ、国会の勢力図に影響はない。むしろ国際NGOなどから出ている“欠陥選挙”の批判をかわす意味でも期限となる1月中に実施するのが好ましいと思う。
そんな思いもあって筆者はAAと国軍の話し合いの仲介を努める一方、昨年12月にはラカイン州の未投票地域を視察、選挙を実施する上で治安上、何らの問題がないことを確認し、スー・チー氏やUECに早期の追加選挙実施を進言してきた。同時に日本政府の選挙監視団長、さらにミャンマー国民和解担当日本政府代表の立場を踏まえ、人質解放を歓迎する声明を発表し、地元紙やテレビニュースでも大きく取り上げられた。
現地を管轄するミャンマー西部管区のテイン・ウッ・ウー司令官がニュースのインタビューに「人質解放のきっかけを作ってくれた笹川日本政府代表に感謝を申し上げたい」とコメントし大きく報じられたのも、こうした経過を踏まえてのことだ。
今回の一連の動きでもうひとつ注目したいのは、今後の平和統一との関係。長年内戦が続くミャンマーでは、少数民族武装組織のうち10組織との停戦が未だに未成立で、中でもAAは最強硬派と見られていた。そのAAと国軍との停戦が一時的にせよ成立したことで、今後、AAやカチン独立機構軍(KIO)など4組織がつくる「北部同盟」の動向にも影響を与える可能性がある。
背景には長い内戦の歴史があり、中国の影響もある。一筋縄ではいかないと思うが、ミャンマーの平和統一の実現に向け、引き続き日本政府代表の職務を全うしたいと思う。