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笹川 陽平
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【私の毎日】3月16日(月) [2020年03月16日(Mon)]
3月16日(月)

7:10 財団着
    終日 書類整理、決裁、打合せ

17:10 退室
「カチン少数民族武装勢力地域」―74年振り、初めて入る― [2020年03月16日(Mon)]
「カチン少数民族武装勢力地域」
―74年振り、初めて入る―


ミャンマー政府と少数民族武装勢力との和平実現のため、ミャンマー国民和解担当日本政府代表に就任して7年。テイン・セイン前大統領時代には8の武装勢力との停戦が実現したが、現政権では2グループの停戦を実現させただけである。その後の交渉は若干停滞気味であるが、私の役割は、政府と少数民族武装勢力双方に寄り添いながら会談が進むよう努力を続けることで、この7年間で政府と少数民族武装勢力との間を行き来すること100回近くに及んだ。

今は積み木崩しのような状況が続いているが、成果が期待されなくても定期的に関係者と会談することは交渉事の基本であり、「信頼関係の構築」には欠かせない活動だと考えている。

ミャンマーの場合は、70年以上の長きにわたり続いてきた複雑な紛争である。政府と国軍の微妙な関係や、20に及ぶ少数民族武装勢力の合従連衡(がっしょうれんこう)が続き、双方に特出した指導者が存在しないため、複雑な高等数学の解を求めるような難解な作業を続けている。しかし、双方ともに統一されたミャンマー連邦を作るという「一点」については一致しているので、多少の時間は必要だとしても必ず実現できると確信している。

先般、未停戦の最大勢力であるカチン族の政府支配地域ミッチーナから、武装勢力の根拠地ライザに入った。中国側から入った外国人はいるそうだが、ミャンマー側から正式に入る外国人は74年間で初めてのことだった。

日本財団は、ミッチーナのカチン族避難民の帰村及び生活支援に3億円、日本政府の2億円と合わせて5億円の大規模人道支援を発表しており、カチン武装勢力のライザ訪問も、難民支援のための現状調査が目的であった。

アウンサン・スーチー国家顧問とミン・アン・フライン国軍司令官の二人から正式許可をもらっていたが、ミッチーナに滞在中、突然中国側から私のライザ訪問を中止するよう強烈な圧力がかかり、関係者はおびえて中断やむなしとの雰囲気になった。しかし私は、中国はインドネシアのバンドン会議以降、他国の内政干渉はしないことになっていること。又、紛争地域といえどもミャンマーの領土であることは明確であり、政府及び国軍の正式許可を得ていることを強硬に主張し、準備されていた関係者が同行するはずの7台の車列もなく、ランドクルーザー1台で紛争地域を越えて武装勢力の根拠地ライザを目指すことを決断した。

ライザまでは約2時間半。1台のミャンマー国軍の車が中間点まで先導してくれた。途中、政府側の検問所は5カ所あり、1カ所で30〜40分の厳重な検査時間が必要とのことであったが、国軍の先導車のお陰でスムーズに通過。政府側の道路は立派に舗装されていたが、ミッチーナを出発して1時間ほどすると、近年の戦いで廃村となった無人の地域が目立つようになってきた。

不思議なことに、かつて広い農地であったところには何処までもバナナ園が続き、戦いで避難した農民の土地を略奪した人々が大規模なバナナ農園を経営しているようであった。バナナ栽培は土壌の劣化が激しく、避難民にとって生存に必要な農地を略奪された上、その農地の劣化は耐え難い苦痛を強いているようだ。政府支配地でも、混乱の中で行政が十分機能していないことが分かる。
 
1時間半ほどで休戦ラインに到着。想像したほど双方の警備は厳重ではなかった。休戦ラインの浅瀬の川をランドクルーザーでジャブジャブ水につかりながら渡ると、至るところに砂が小山のようになって盛り上がっていた。砂金採取の後であった。

カチン州は北海道より少し広いらしいが、武装勢力がどれ程の面積を支配しているかは分からない。中国人の好きな玉(翡翠)をはじめ、鉱物資源が豊富にあり、材木を含め豊かな地域で、武装勢力の支配地域では長年徴税も行い、行政も確立していて大学や刑務所もあるようだ。

しかし、百聞は一見に如かずで、この武装勢力地域は中国と国境を接しており、私の見聞した場所では20メートルほどの岩だらけの小さな川が両国を隔てているだけであった。テレビは中国語、通貨も元、パスポートも中国が多いと聞く。ミャンマー国内とはいえ、70数年もの戦いの中でカチン少数民族武装勢力の支配地域の生殺与奪(せいさつよだつ)の権力は中国にあることが良く理解できた。小さな町の角々で、それらしい人が私の乗った車両を盛んにカメラに収めていた。無用な混乱にならぬよう、車からは降りずに小さな町を一巡して難民キャンプを視察した。

何処のキャンプでも、避難民は一様に早く故郷に帰りたいという。仮設の小学校の教室に予告なしに入ったとろ、どこの教室の生徒も一斉に立ち上がり、両手を組んでの挨拶をしてくれた。小学一年生で語学はカチン語、ミャンマ−語、中国語、英語と4科目もあり、驚かされた。初めて見る日本人に、目を丸くして私の話を聞いてくれた。短い挨拶の最後に「両親を大切に!」と言ったら、大きな声で返事をしてくれた。

昭和20年3月9日10日、私は6歳の時の東京大空襲での生き残りで、学校は焼失。遠く離れた大阪の田舎の小学校に一年遅れで入学。1教室に50人、色刷りの教科書は2冊、あとはガリ版刷りであった。そんな経験もあり、世界中の子ども達に教育の機会を与えてやりたいものだと、蟷螂の斧(とうろうのおの―力のないこと)ではあるが、ミャンマーには460校の小学校、中学校を建設してきた。このキャンプにも人道支援で教材の充実を約束したが、万難を排して実現したいものだ。

この地域には他の武装勢力の訓練所もあり、地雷もあり、日暮れまでに休戦ラインを超える必要があるとの事で、慌しい帰路となった。しかし、74年間にわたる戦いの中で初めての外国人であり、私が正式ルートで休戦ラインを越えたことは、蟻の一穴ではないが、将来の明るい展望の一助になって欲しいものである。

このカチン族は、中国・重慶にあった蒋介石軍をアメリカが支援するために利用したいわゆる「授蒋ルート」で、多くは仏教徒ではなくキリスト教徒である。一昨年の11月、ミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官に直談判の上、一方的クリスマス休戦を要請した。司令官は熟慮の上、多分、世界で初めて一方的クリスマス休戦を決断してくれ、何と、停戦は9カ月に及んだが、誠に残念なことに、その間の停戦交渉は進展しないどころか国軍幹部養成学校近くで他の武装勢力の攻撃による被弾事態が発生。やむなく司令官は休戦を停止せざるを得なかった。カチン武装勢力との停戦はミン・アウン・フライン国軍司令官の悲願であり、この件について私の非力を非難することはなかった。

後日談であるが、武装勢力側は私を除く同行者を拉致・拘束するために追跡したが、既に休戦ラインを越えていたので実現できなかったという。次回訪問時には私一人を拉致・拘束し、同行者には手を出さないよう伝えておいた。

日本は戦後74年、平和を享受してきたが、明治以来、第三国の紛争解決に主役を演じたことはない。親日国ミャンマーの74年にわたる紛争を停止させることは、日本の大きな務めであり、それを期待されていることに何とか答えたいものである。

日暮れて道遠しではあるが、停戦・和平の実現のために、裂帛の気合で努力を続けていく覚悟です。

1 バナナ畑 緑の袋の中には実ったバナナが.jpg
バナナ畑 緑の袋の中には実ったバナナが

2 第一検問所.jpg
第一検問所

3 まだ舗装された道が続く.jpg
政府支配地域

4 元々は大きな村であったが、戦闘により廃村となった。荒れた建物が立ち並ぶ.jpg
元々は大きな村であったが、戦闘により廃村となった
無人の荒れた建物が立ち並ぶ

5 2011年の戦闘によって廃村となった村.jpg
2011年の戦闘によって廃村となった村

6 検問の様子(ライザ側から).jpg
休戦ラインを突破、浅瀬の川を渡る

7 砂金の採掘場及びKIA駐屯地を通過。KIAが中国人(科挙)に採掘許可を出している.jpg
砂金の採掘場

8 難民キャンプ(Woi Chyan)を通過.jpg
難民キャンプ、山は中国領

9 この橋を渡れば中国領土に.jpg
この橋を渡れば中国領土に

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「しっかり勉強して、お父さんお母さんを大切にして欲しい」と挨拶

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村人と意見交換
水は近くの山から引いているが、洗剤など日用品が不足している
元々の村は難民キャンプから5-6時間離れた場所で、早く戻りたいとのこと

12 「お父さん・お母さんが好きな人手を上げて」「はい!」.jpg
「お父さん・お母さんが好きな人手を上げて」「はい!」

13 木造住宅が密集しており、以前火事が発生したとのこと.jpg
仮設住宅が密集しており、以前火事が発生したとのこと
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