「日本財団創立記念日」
―私の思い―
10月1日
即興の挨拶です
今日は創立57年です。私はあまり過去を振り返るのは得意ではありませんが、日本財団は非常にユニークな組織であるということを、皆さん方には改めてしっかり認識してもらいたいと思います。
私は若い頃、General Motorsを世界的な企業に押し上げたアルフレッド・P・スローンJr.の著書であり、当時、経営の一つの聖書と評された「GMとともに」という本を読むなどしながらビジネスをしていた時期がありました。しかし40歳でビジネスを止め社会活動に入りました。
当時はコングロマリット、今はホールディングスといいますが、日本財団はホールディングスのような存在ですね。我々はこれまで、その時々の社会的ニーズに応えて、笹川平和財団、東京財団政策研究所、B&G財団、日本科学協会、笹川保健財団、笹川スポーツ財団、日本音楽財団等々、専門性を持つ多くの関連団体を設立してきたわけですが、これらは非営利組織におけるホールディングスとも言え、世界でも例がありません。
しかし誤解しないで下さい。ホールディングと言っても日本財団が関連団体を支配しているわけではありません。各財団は評議員会、理事会もあり、独立性のある組織です。日本財団との関係は縦より横のつながりと説明した方が良いかも知れません。日本財団は、このようなチャレンジングな仕事をずっと行ってきていますが、常に時代の変化に対応すると同時に、時代を超えた問題を提起し取り組んできた伝統があるわけです。少子高齢化も問題になっていますが、30年前に我々は将来を見据えて、スポーツ一つとっても、笹川スポーツ財団を立ち上げ、いわゆる競技スポーツよりも全ての人が健康にということで、生涯スポーツの分野にいち早く取り組んできました。
一つ一つ例を挙げればきりがありませんが、この日本財団という組織が世界的に大変チャレンジングな活動を続けている中で、皆さんが今存在していることを理解した上で、皆さん方にはさらなる未来志向のチャレンジをしていっていただきたい。
これからは若い人たちがもっともっと活躍をしてくれなければなりません。特に女性を積極的に採用してきました。それは、世の中が言うよりも前に、我々は女性の活躍する時代は必ず来ると考えていたからですが、残念ながら、いまだ女性の役員は出ていません。これは私としては非常に残念なことで、なんとか日本財団において、プロパーから女性の理事が誕生するために、女性の皆さんにはさらなる活躍を期待したいと思います。女性の採用については先進的に取り組んできましたし、今でも育児休暇などを踏まえた就業環境の整備を進めていますが、与えられた待遇に満足するだけでなく、上手に活用しながらより良い仕事をし、責任ある立場に立つように皆さん方に努力をしてもらいたい。
我々は革新的な仕事を未来志向でやっていく。そのためには我々自身が変化しないといけませんし、組織も変化していかないといけません。そうした躍動感溢れ、風通し良い議論が盛んに行われる中で未来志向の仕事を生んで欲しい。
ハンセン病制圧活動のように、30年40年やってきた仕事が、今や世界的に高く評価されるようになってきました。皆さん方が思っている以上に人々から日本財団が評価されてることは、大いなる責任を持ち仕事をしていく必要があるということです。自分に与えられた仕事に満足し、その中に埋没してしまうことがあってはいけません。日本財団の職員はあらゆる分野に配属されます。そうして私が言う「日本財団という方法」、いわゆる社会課題が見つけ、政治家、行政、学者、NGO、そしてメディアにも参加していただき、その問題を議論し、ある程度の方向性が見つかったらすぐ実践活動に入り、成功モデルケースを作り、関係者の参考にしていただくのです。
30年程前に一人部屋の老人ホームを作りました。当時の老人ホームは4人部屋、6人部屋が普通でした。専門家からも一人部屋などあり得ないと忠告されたことを思い出します。三箇所作った老人ホームは、全国の先駆けとなったのです。そういうことが出来る人材に一人ひとりがなっていってほしいのです。
今や日本財団自らが仕事をすると同時に、ホールディングスとして多くの関連団体と共に仕事をするケースも増えていくでしょう。皆さん一人ひとりが関連団体は何をしているか、どういう方向を向いてるかということも知って、総合力を発揮していかなければいけません。例えばB&G財団は、全国に470ヶ所もの施設を30年前から作ってきました。ほとんどが行政の行き届かない過疎地に作ってきました。今や、そこから育った多くの若者たちが市長や町長になっていますし、子供のスポーツのために開設していった施設ですが、今や老人の健康関連の仕事もできるようになり、この施設のネットワークが今度は子供の貧困対策も手がけていく。さらに、日本財団が持っている防災に関するノウハウを彼らと共有して防災拠点として活用し、地域の災害ボランティアも育成していく。
これから日本財団は、どれだけ関連団体と連携してやっていけるかが大変重要になってきます。これは1+1が5にも10にもなる関係です。実はそういうネットワークの強化は、すでに奨学事業において各国での奨学生たちとの連携を大切にしながらやってきています。
ネットワークの有効性の例を一つ挙げます。今回、世界の海底地図の世界大会において、海野常務が長く温め育ててきたチームが、世界各地から有力なチームが参加したシェル石油の主催する海底地図の作成コンペで優勝し、賞金4億円を獲得しました。このチームには本部も何もありません。日本財団のフェローがネットワークを組んで参加して優勝したのです。こういう例に対して、ただ「優勝したんだってね」と見過ごすのか、何故本部も何にもないチームが優勝したんだろうかと思って好奇心を持つことによって、皆さん方の能力の発揮の仕方が全然違ったものになってくるわけです。我々のチームは多国籍の混成チームだが、本部がない単なるネットワークだった。しかしなぜ、ネットワークでそのように力が発揮できるのか。それには皆さん方が使っているスマホや情報器具の活用が有効に機能したのです。そういうことに興味を持っていただければ、なるほどこれからはネットワークの時代だ。何も拠点や本部を設置し人件費をかけてなくてもできる方法があるんだなと。こういう方法を何とか我々も使えないものだろうかというように考え、発展していくわけです。日本財団は、自ら仕事をすると同時に、自らが一つのプラットホームとして、先ほども触れた「日本財団という方法」を実践していくことが求められます。
皆さん方には私の本を差し上げていますが、残念ながら、読んでくれたのは半分にも満たないと聞き驚いていますが、やはり、ここで私の話を聞くだけではなく、本をきちっと読み、その中からどのような歴史を踏まえて今日の財団があるかということを知り、皆さん方の個性をその中にプラスし、一人ひとりが素晴らしい活躍ができる。そういう組織体になっていく必要があります。
我々は組織も変えます。事務所のあり方も変えます。働き方も変えていきましょう。未来志向の仕事がきちっとできるネットワークを構築し、日本財団はどういう存在になりたいのかということを考えて下さい。自分はどういう立場なのだろうかだけではなく、どうなりたいのか、どうしたいのか。皆さん方が日本財団を希望して入られたときの初心というのは一体何だったのかという事を常に考えながら、自分自身の能力を高めていってほしいと思います。
自己研鑽さんは当然の話です。「人材を育成してほしい」と、ともすれば受身になりがちです。人材養成は日本財団にとっても大切なことです。すでに海外留学制度も皆さん方の希望の中から実現しました。しかし、与えられるだけではだめで、最後は自助努力です。私たちは皆さん方が自分自身の力を発揮出来るための補助線は当然引いていきます。しかし、情報を共有するためにも努力をして欲しい。私は知りません、聞いてません、ということを言う方がいます。知らないことは尋ねてください。待っていても情報が来るツールも出て来てはいますが、積極性がないところで革新は起こりません。やはり自らが変わり積極的に行動を取る姿勢こそ、人材養成の基本ではないかと私は理解をしています。
一般的な財団は、血眼になってファンドレイジングに取り組まないと自分たちの仕事ができません。ところが日本財団は、ファンドレイジングをしなくても毎月、毎年自動的にお金が入ってきます。そういう組織は世界中探したってありません。みんな非営利団体は、ファンドレイジングに命をかけなければいけない。我々のお金がいかに大切なものかということに対する私たちの理解は、もう少し真剣に考える必要があるのではないでしょうか。
今や、稼ぐ方の皆さんが血眼になって努力してくださって、今年もボートレースの売上は17%の伸びです。1日遊んでいただいているお客様の平均購買額は6,000円程度です。皆さん方がディズニーランドに行くよりも安いお金で多くのファンが楽しんでくださっているわけです。6,000円の中から、私達が頂戴してるお金は約3%ですから、180円を1人からいただいているわけです。皆さん方がやっている仕事の桁数はどの桁ですか。何百万円の仕事でしょう。1万人の人に舟券を買っていただいて180万円。180万のお金を日本財団が得るためには1万人の人がここ日本財団から行列する様子をイメージしてください。1万人の人がここから並んだら東京湾に届きます。ここから約3キロですから。それで180万円のお金をいただく。皆さん方は、そういうファンの何十万、何百万人分のお金を使ってるわけです。私たちが使うお金は公金です。株式会社のお金とは違います。心してください。1日も忘れてはいけません。多くのボートファンからお預かりしたお金は公金ですから、株式会社が稼いだ利益のお金とは意味合いが全然違います。ですから私達はこのお金を使うことに、大変重い責任があるのです。
私は40歳まで仕事してある程度の成功を納めました。今で言えばIT企業の走りをやったようなものです。しかし私の経験から、お金は稼ぐより意味あることに使う方がはるかに難しいことです。先ほど来言ってるように、皆さん方の努力で非常に評価をされる日本財団になってきました。私達は慎重に、でも大胆に行動しましょう。しかしそういうことを可能にしているのは、日本財団の総務や経理、そして監査という部署がしっかりしているからです。これも世界の公益法人では珍しいことで、自ら監査の業務も行っている組織は世界にありません。公金を私たちは透明性と説明責任をしっかり持って使い、仕事していくという大きな方針の中で、努力を続けています。
私が常にお願いしているように、お金を活用する皆さん方にはコスト意識をしっかり持っていただきたい。昔は丸めた数字で助成金額が出されましたが、あるとき理事会で非常勤の理事から叱られました。何千万円という整った数字ばかりあり得るのだろうか。しっかり計算しているのか。コスト計算はどうなっているのかと。私たちはそういう大きな公金を預かる身の引き締まる立場にいることを常に忘れないで仕事をしていく必要があります。私たちの過去の経験からもう一度原点に戻り、公金を預かる大切さをみんなで改めて認識を共有したいと思います。
未来志向の日本財団が、ユニークなホールディングスとしての立場をどう堅持して発展させていくか。全ては経験のない分野にチャレンジしてきた結果です。未来志向の変化変化、また変化です。それを皆さん方がやっていかなくてはいけない。もうすでに十分やっていただいていますが、まだまだあなた方は若いから可能性があります。失敗なんて恐れることはありません。ともすれば、公金という観点が強すぎて保守的な仕事のやり方に陥っている部分がちらほら見られます。しかし、そこはきちっとけじめをつけ、熟慮断行、勇断を持って未来志向の仕事にチャレンジしていきましょう。
この世界はテキストがありませんが、皆さん方には、ネットワークをうまく組み立てるキーパーソンになってほしい。海洋の世界で言えば、海野常務が世界の海のキーパーソンの一人になっています。これとこれとこれを繋げればこうなるという絵が描ける。そういう人になってください。政治家、専門家、役人、学者、NPOと連携して社会課題解決へのモデル事業を実践し、地方自治体や国の政策に反映させましょう。これからも我々に与えられた課題は大きいし、チャレンジする部分がたくさんある。こんなにうれしいことはありません。しかし船に例えれば、航路のない世界に出ていくわけですから、当然リスクも伴います。しかし度々皆さん方に伝えているように、全ての責任は私が取ります。私は逃げません。皆さんの責任は私が取ります。遠慮なくチャレンジングな仕事に邁進してください。