「中国に広がる笹川フェロー 相互理解に一役期待」
―Sylff、日中医療、図書寄贈事業を現地に見る―
9月末、中国を訪れ、Sylff(笹川良一優秀青年奨学基金)、日中笹川医学奨学金制度、日本語図書寄贈事業の現場を訪問した。立ち上げから4半世紀が経過した両奨学制度では既に1万人を超すフェローが育ち、中国の各界で活躍。図書寄贈事業で贈られた日本語図書も383万冊に上り、中国の学生の日本理解に一役、買っている。
この間、中国は世界第2の経済大国に発展し、社会全体が急速に変わりつつある。両国の相互理解・友好促進に役立てるためにも、各事業が培ったブランド力を活用して、フェローのネットワークの活用強化など、新たな飛躍を目指したいと思う。
▼世界で1万6千人、半数を中国が占める
今回はまず、中国内陸部の工業都市・重慶市の重慶大学と南西部・雲南省の雲南大学で行われたSylffの25周年式典に参加した。1987年、米タフツ大学に100万米ドルの基金を設置して始まったこの事業はその後、世界44ヵ国69大学に広がり、この奨学金で卒業したフェローは世界で1万6000人に上る。
中国では1992年に北京大など5校、2年後に重慶大など5校に設置された。当時の中国に奨学金制度はなく、100万ドルの価値も現在よりはるかに高かった。両大学の式典で中国教育国際交流協会の李春生副秘書長が述べたように「Sylffは当時の中国にとってまさに“恵みの雨”」。フェローの半数、8000人を中国の10大学が占め、うち重慶大学は500人、雲南大学は1600人に上る。
式典に先立ち懇談した重慶大学の張宗益学長は「私もSylffフェローの一人。大変世話になった」と語り、筆者が「若干のお手伝いができたことを誇りに思っている」と述べると、「伝統あるSylffの名前は現在も国際交流分野にとどろいている。Sylffの奨学生になることが今も学生の大きな目標となっている」と強調された。
重慶大の式典では、「Sylffフェローが各界のリーダーに育ち、日中友好の絆となっている」(明炬副学長)、雲南大学では「人材育成に大きな成果を挙げ、今や教育や学術、ビジネスの中枢に人材を送り込んでいる」(楊沢宇副学長)といった指摘も出され、Sylffが中国の発展に貢献してきたことを確信した。
Sylff25周年を祝い記念撮影(重慶大学)
現在は公的制度も含め奨学金は数十に上り、他の奨学金とどう差別化していくかが今後の課題となる。幸い民間団体の立ち上げが難しい中国で「Sylff Association」の設立も認められ、運営に当たる東京財団では、フェローが取り組む研究活動に対するサポートプログラムなどネットワークを活用した新しい取り組みも始めている。Sylff奨学生は中国の8000人だけでなく世界1万6000人の一人として幅広い可能性に挑戦できる。この点にこそSylffの最大の魅力があり、長い歴史と伝統を持つこの奨学金制度の明日の姿があると考えている。
▼学ぶ立場から共同研究に
Sylffより一足早く新しいステージに飛躍したのが日中笹川医学奨学金制度。1986年、日中医学協力プロジェクトの一環として開始以来、日本に招請した医学生や研究者は延べ2404人に上り、研究者の同窓会組織「笹川医学奨学金進修生同学会」(笹川同学会)は医学医療系大学の学長や大手病院の院長、大学教授らを輩出、全国で300万人を超す中国医学界の中枢に位置している。
当初は毎年、中国全土から医師、薬剤師、看護師ら100人を日本に招聘、大学や病院、研究所などで日本の先進医療を学ぶ形でスタートした。その後、年を追うごとにレベルが上り、現在の第5次制度は全体で30人ながら、日本での博士号取得を目指す学位取得コースと日中の医療関係者が共同で研究活動を行う共同研究コースからなる質の高いプロジェクトに発展している。
今回の訪問先となった遼寧省の省都・瀋陽市で9月27、28両日、笹川同学会主催のフォーラムが開催され、筆者は「医療全体を対象にした質の高い医学交流が30年以上の長きにわたって続いた例を他に知らない。人々の健康をつかさどる事業を支援できたのは日本財団にとっても大きな誇り」と挨拶、関係者の努力を称えた。
日中共同フォーラムで挨拶
35周年を迎える21年には、さらなる発展を目指して、同学会メンバーや日本で医学生の指導を引き受けてくれた225の受け入れ機関の関係者や1700人に上る指導教官にも参加してもらい、北京の人民大会堂で盛大な式典を開催する計画も進められている。
▼75大学383万冊
一方、図書寄贈事業で日本科学協会が中国の贈った日本語図書は既に75大学383万冊に上る。今回の訪問先となった雲南大学には計33回にわたって計18万2000冊が贈られ日本図書コーナーも設置されている。中国では現在508大学に日本語学科が設けられ、約65万人の学生が日本語を学んでおり、寄贈先大学を100大学まで広げたいと思う。
雲南大学の日本語図書コーナー
日本科学協会が主催する日本知識大学も参加大学が100大学を超えるまでに発展、関連した作文コンクールで優秀な成績を収め来日する中国人学生と日本人学生の交流も拡大しつつある。
中国における日本財団や姉妹財団の事業は自衛隊と人民解放軍の佐官級交流など多岐にわたるが、今回、現場を訪れた3事業だけでも中国社会に着実な実績をひろげている。重慶や昆明では、医学奨学金の卒業生を久しく懇談する機会があり、中国社会での彼らの活躍を実感できた。驚いたことに雲南大学・方精雲学長も医学奨学生のOBとのことだった。引き続きこうした事業に取り組む先に、日中両国の相互理解の促進があると実感している。