「ハゲと養毛剤」
―フジモリ元大統領―
年齢と共に毛髪が薄くなるのは自然なことである。しかし、たまには例外もある。かつての知人は80歳で真っ黒な髪の毛で、「それは自毛ですか?」と人に聞かれるのが嫌だと「黒髪の悩み」なる文章を見せられたことがある。
10月18日、久しぶりにペルーの収容所に収監されているフジモリ元大統領のお見舞いに参上した。あまりに豊かな髪の毛に驚き「うらやましいですね」といったら、別室から「これですよ」と、何と!資生堂の養毛剤を見せて「毎日これをつけて頭をマッサージして下さい。ききますよ」とのこと。収容所での一人生活で、鏡を見ながら養毛剤を頭に振りかけているフジモリさんを想像して、まだ気力も体力も衰えていないなと、少し嬉しくなった。
私は若い頃、年老いたらどのような髪型になるかを考えたことがある。多分父のように、全体が薄く白髪になるだろうと想像していたが、残念なことに最も嫌な形である毛沢東型に近づいてきた。両側頭部は豊富だが、前髪が若干残り、頭の天辺はハゲてしまったのである。老妻より「毛根に皮脂が溜まると枝毛が激しくなるから、毎朝晩髪の毛を洗っては?」との助言を受けて実行してきたが、その結果は元気な毛までむしり取られてしまったのか、ハゲの面積は拡大する一方である。
私は今まで、養毛剤や育毛剤の効果などあまり信頼してこなかった。知人の一人は何百万かけてもハゲになったし、養毛剤を発売する会社の社長の毛髪が年々薄くなっていることを知っているからである。要は気休め程度と思っていたが、フジモリ氏の話を聞くと私の考えは誤りだったのだろうか。時々老妻が「そろそろ『キッパ』でも乗せたら」と嫌なことをいう。『キッパ』とはユダヤ人が頭に乗せている皿のような帽子である。しかし、毛のないところにどうしてキッパは落ちないのか不思議である。まさか両面テープで張ってあるわけでもなかろうに。
フジモリ氏との面談後、じっくり頭を観察してみた。キッパもラージサイズが必要なほどハゲは拡大していた。一層のこと丸坊主になろうかとも考えたが、私の頭はジャガイモのようで形がよくない。床屋の青年は「このまま自然の成行きに任せましょう」と申し訳なさそうに助言してくれた。
かつて私は若ハゲの方々に「女性はハゲや背の高さ、それに眼鏡などで男性を判断しません。やさしく愛情のある人に好意を持つものです。安心して下さい」と、まるで女性の代弁者のように慰めたものだが、私にとって、今更女性の興味の対象になりたいのではない。唯々、この毛沢東型のハゲ具合が嫌なのである。