「ロシア・ウクライナ ハンセン病事情」
6月28日〜7月6日まで、ロシア、ウクライナのハンセン病療養所を訪問した。
ロシアをはじめとした旧ソ連の国々・ウクライナ、タジキスタン、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンなどでは既にハンセン病は制圧されているが、その後の実態がどうなっているのか。調査の必要性を感じながらもなかなか訪問の機会が得られなかった。この度、世界のハンセン病事情に詳しい笹川記念保健協力財団の山口和子女史がこの地域で長年活動しているドイツ人女医・ドラヴィック・ロマーナ(Dravik Romana)博士を紹介して下さり、彼女の協力で今回の訪問が実現した。
旧ソ連時代、ハンセン病のセンターであったアストラハン・ハンセン病研究所は、ロシア南部のヴォルガ河がカスピ海に流れ込むデルタ地帯にあり、現在はカザフスタンやタジキスタンから治療にきていた患者が回復者として入所している。
研究所所長のビクトール・ドゥイコ(Victor Duyco)博士は、中央アジアのタジキスタン、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンの専門家を集め、状況説明のための小規模な会議を開いて下さった。各国の保健省は、ハンセン病は既に制圧された病気として興味を失っており、最近は患者の正確な記録も存在せず、回復者の療養所も閉鎖の方向にあるとのことであった。
ビクトール・ドゥイコ博士(右側)と筆者
博士とセンターに検査に来ていた回復者
今回訪問したアストラハン、テルスキ、アビンスキ各療養所とウクライナのクチュンガン療養所も患者はゼロで回復者だけの施設になっており、療養所の存在自体が目的化され、立派な施設の中に回復者より多い医師・看護師などの生活の糧になっており、閉鎖を恐れて実態が明るみに出ることを極度に恐れているのが現実であった。
世界ではこれらの病院の機能は統合化され、病める市民に開放されて有効に活用されているのに、「ロシアでは法律でハンセン病だけの施設として定められているので統合化は必要ない」との返答に、閉鎖された空間で安逸の生活を保障された関係者の姿を見た。
ただ収穫は、タジキスタン国立ハンセン病センターのコシモフ(Kosimod)博士より、患者はアフガニスタンからタジキスタンに流れてくるとの報告であった。トルクメニスタン・ハンセン病センターのナラ(Nara)博士からは、イランのハンセン病の実情調査に、トルクメニスタンからの入国が可能との報告があった。
来年6月には是非、タジキスタンからアフガニスタンへ、トルクメニスタンからイランに入国したいと考えており、両博士は全面的な協力を約束してくれた。
楽しみなことである。
以下は2010年度の各国の登録患者数で、登録患者とはかつて患者であった回復者のこと。ドイツ人医師ロマーナ・ドラヴィック女史の調査結果である。
アゼルバイジャン 75
カザフスタン 590
キルギスタン 15
ロシア 410
タジキスタン 80
トルクメニスタン 128
ウクライナ 20
ウズベキスタン 410
ラトビア 10
エストニア 13