「海と灯台」―文藝春秋社― [2023年01月23日(Mon)]
「海と灯台」 ―文藝春秋社― 日本財団では「海と灯台」プロジェクトを実施している。 特に文藝春秋社がこのプロジェクトに関心を示され、「海と灯台学」(1600円)を出版。また、文藝雑誌「オール読物」で、灯台についての著名人の連載もスタートした。 いずれも誠に興味深い内容なので一読をお勧めしたい。 以下は、文藝春秋・新年特大号の私のグラビア記事を拝借しました。 **************** 灯台の「灯り」は 日本の未来を照らし出す 11月1日は「灯台記念日」。日本財団では、海洋文化資産としての灯台を未来に継承していくために、「海と灯台プロジェクト」を立ち上げた。日本人にとっての灯台とは、どういう存在なのか。 “危険な暗い海”を照らし続けてきた灯台の灯 日本では、昔から映画や小説、絵画の題材として、灯台は繰り返し取り上げられてきました。わたしたちは様々な作品を通して、灯台に豊かな感情を育んでもらったのです。 その灯台の役割が、変わりつつあります。 かつて“危険な暗い海”と呼ばれた日本の海を照らし、船舶交通の安全を担ってきた灯台ですが、GPSなどの先端技術の発達によって、航海そのものが進化した結果、灯台の中には役割を終えたものもあります。しかし、灯台の存在意義は、単なる航路標識だけではないと、わたしは考えています。 1869(明治2)年、初めての西洋式灯台として、 この観音埼灯台が作られました。灯台ができたことで船舶の自由往来ができるようになり、そこからの近代化は始まったのです。明治の殖産興業というと、渋沢栄一の資本家としての活動ですとか、紡績産業による輸出の隆盛ですとか、そちらに目が行きがちです。しかし、 それを下から支える礎となったのが、灯台だったのです。そして、その灯りを守り、絶やさないようにつとめた人たち、いわゆる「灯台守」の人たちの献身的な働きは、日本の近代化の中で、大きな役割を担っていたのです。 日本の近代化の象徴である灯台を、歴史的建造物として保存しようという動きもあります。2020年には犬吠埼(いぬぼうさき)灯台(千葉)、六連島(むつれんじま)灯台、角島(つのしま)灯台(ともに 山口)、部埼(へさき)灯台(福岡)の4基が、現役の灯台として初めて国の重要文化財に指定されました。ただ、国だけに任せるのではなく、先人たちが苦労して残して来たものをどうすれば次の世代に継承していけるのか、灯台のある地域の人たちみんなで考えてもらいたいのです。歴史的建造物として観光拠点にしてもいいし、地域活性化のシンボルにしてもいい。航路標識としての役割を終えたからといって取り壊してしまっては、そこで文化や歴史の継続性が絶たれてしまうのです。 灯台を活用して考える様々な海洋課題 日本財団では、 40年近くに亘って、気候変動や海洋汚染といった海が抱える様々な問題に取り組んできました。わたしたちが海洋をきちんと管理できなければ、人類の存続そのものが危ういと考えるからです。 灯台を有効に活用することで、多くの人が海洋課題を考えるきっかけになるのではないか。そこから「海と灯台プロジェクト」がスタートしました。今年 11月(昨年のこと)には、東京で「海と灯台サミット2022」が開催され、 灯台有識者や異業種・異分野で活躍される著名人、文化人が一堂に会し、活発な議論が行われました。 日本を豊かな国にすべく、近代化の道程を照らし続けた灯台の灯。日本人の心の故郷として、わたしたちはその灯りを消してはらないのです。 ※日本財団会長。ハンセン病の制圧にむけて世界各地の療養所を訪問するなど現場での活動を続ける。そのほか、海事分野にも精通し、海の専門人材育成、平洋島嶼国への支援、海底地形図作成、海ごみ対策、日本国の海洋基本法制定など多岐にわたる。2018年にガンジー平和賞受賞。2019年に文化功労者、旭日大綬章を受賞。 |