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産経新聞【正論】―「母なる海」は危機に瀕している― [2026年01月14日(Wed)]

―「母なる海」は危機に瀕している―


産経新聞【正論】
2026年1月8日


急速な温暖化に伴う猛暑や豪雨災害など地球環境が急速に悪化している。とりわけ海は水温の上昇や酸性化、海洋ゴミの急増など極めて深刻な状態にある。

≪初の世界島嶼国海洋会議≫
海は生命の起源であり、健全な海洋があって初めて人類は生存できる。同時に地表の7割を占める海は一つ。約200に上る世界の国々が共有財産として守っていく必要がある。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ・ガザ地区での戦争を前にすると、世界が今も陸の価値観を中心に動いているのを実感する。

早急な紛争解決が必要なのは言うまでもない。しかし海の危機も“待ったなし”の状況にある。しかも温暖化のツケは島嶼(とうしょ)国により大きく圧(お)し掛かり、母なる海、地球環境保全への取り組み強化が何よりも急務となっている。

そんな状況を受け、日本財団と日本政府、世界152カ国が加盟するユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)は6月3、4の両日、東京で初の「世界島嶼国海洋会議」を共催することになった。

世界の島嶼国・地域が一堂に会し、海における地球温暖化対策、海洋資源の管理などを広く世界に訴えるのが狙いだ。今年後半以降、「国連気候変動枠組み条約第31回締約国会議(COP31)」やIOCの「海の10年会議」など海に関する多くの国際会議が予定されており、これら会議に弾みをつける狙いも込め、早々に会議日程を公表した。

会議には(1)日本や英国、インドネシアなど13の海洋国家(2)国連が小島嶼開発途上国(SIDS)と定義するカリブ海、太平洋、大西洋などの39の島嶼国(3)主権国ではないもののSIDSに含まれるバミューダや英領バージン諸島など18地域(4)会議の結果を実現する上で重要な役割を担う米国、ブラジルなど7カ国−の計77の国・地域が参加する予定だ。

このほか国連や世界銀行など20の国際機関からの参加も予定されている。

日本財団は40年前から事業の柱として海洋問題に取り組み、平成19年の海洋基本法の制定に貢献したほか、世界の海洋人材の育成に取り組み、これまでに157カ国で1800人を超す海の専門家を育ててきた。

2030年までに全世界の海底地形図の100%完成を目指す「Seabed 2030」や現在90%が未解明といわれる海洋生物の新種発見に向けたオーシャンセンサスなど多くの国際プロジェクトにも取り組んできた。これらを通じた幅広い国際交流と人脈が会議共催につながった。

≪ブルーエコノミーが追い風≫
近年、環境保全と経済成長の両立を目指すブルーエコノミーが注目され、島嶼国に対する期待も大きくなっている。そんな時代の“追い風”もあり、ぜひ会議を成功させたいと思っている。

海洋劣化の最大の原因は18世紀後半に始まった産業革命以降、急増した化石燃料による二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの増加にある。これを受け15年末にフランスで開催された「COP21」で、新たな法的枠組みとなる「パリ協定」が定められた。

産業革命前からの気温上昇を「2度より低く、できれば1・5度に抑える」ことを目標としているが、国際社会の対応は極めて鈍い。世界気象機関(WMO)によると24年の世界平均気温は産業革命前の水準を1・55度上回り、国連環境計画(UNEP)は原因となるCO2など温室効果ガスの排出量が24年、過去最多になったと発表している。

協定から10年に当たる昨年11月、ブラジル・ベレンで開かれたCOP30では、化石燃料からの脱却に向けた具体的な工程表の策定や森林保全などを目的とした対策の採択は不発に終わった。

世界銀行も21年の報告書で、このまま推移すると50年までに世界6地域で2億1600万人が国内移住を余儀なくされる、と懸念を表明している。プラスチックを中心とした海ゴミが50年には海の魚の総重量を上回るといった試算もある。

≪千年2千年先に健全な海を≫
振り返れば、人類の歴史は陸中心の価値観で進んできた。その中で海は近代以降も17世紀のオランダの法学者グロチウスの『海洋自由論』そのままに野放図に使われ、今もその流れは続いている。

陸も海もこれ以上の負荷に耐えられない。同時に人間の社会活動により、わずか2、3世紀で豊かな地球環境を破壊することは許されない。

われわれには千年2千年先の子孫に健全な海を残す責務がある。海に守られて発展してきた日本には、その先頭に立つ責任がある。

会議の成功が、国際社会の中で地盤沈下が目立つこの国の存在感を増し、高市早苗首相が唱える「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」にもつながると考える。(ささかわ ようへい)
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