• もっと見る
«【私の毎日】4月20日(日) | Main | 【私の毎日】4月21日(月)»
leprosy.jp
resize.png日本財団はハンセン病の差別撤廃を訴える応援メッセージサイト「THINK NOW ハンセン病」を開設。皆様からのメッセージを随時募集・配信しています。
Google
<< 2025年05月 >>
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
プロフィール

笹川 陽平さんの画像
笹川 陽平
プロフィール
ブログ
カテゴリアーカイブ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
リンク集
https://blog.canpan.info/sasakawa/index1_0.rdf
https://blog.canpan.info/sasakawa/index2_0.xml

「日本財団職員へのスピーチ」―25年度年度初め― [2025年04月21日(Mon)]

「日本財団職員へのスピーチ」
−25年度年度初め−


2025年4月1日(火)
日本財団会長 笹川陽平
於:日本財団ビル


おはようございます。日本の様々な季節感や祭日もあまり意味をなさない時代になりましたが、新年度の始まりということでそれぞれの企業や団体では挨拶をする慣例は依然として残っているようです。ところで一回皆さんに話をしても心に残るかは疑問であります。皆さんの心に届く話は「またこの話か」と言われるような話を何回もすることです。しかし多少知識があると「同じ話をするのは格好悪い」と考えて、違う話を探しますが、聞く人の心にはあまり響きません。同じ話を繰り返し伝えることで皆さんの胸の中にインプットされるような話が大切なのです。皆さんの心に残る話ができるか否か分かりませんが、私の思いを話します。

みなさん、何となくというと失礼ですが毎日生活をなさり、日本財団でお勤めを頂いているかと思います。私は、哲学専攻ではありませんが、人生とは一体何でしょうか。生きるとはどういうことでしょうか。まずは、なぜ皆さんここにいるのか考えてみたいと思います。

私がしゃべるとハラスメントになるから注意しろと言われますので、注意をしながら話しますが、人間はご存知の通り卵子と精子が結合して誕生します。精子は普通1億以上いるといわれていますが、卵子は1つです。その1億が争って一つの卵子と結合するわけで、たまたま1億分の1の確率で卵子に迎え入れていただいたということで生まれるのです。ちょっと隣の精子が先だったら我々はこの世にはおりません。大変不思議なことだと思いますし、幸運なことであったと思います。こうしたことを考えていますが、全ての精子が卵子に結合する能力があるのか、あるいは一個の精子だけに結合する能力があるのかは不明です。精子や卵子の中で男性・女性になる配分は決まっているのか、ということをブログに書いたところ、ある医学の専門家から「これを突き詰めていけばノーベル生理学賞をもらえるのでは」といわれたこともあります。

こうした経過を経て誕生したのです。つまりその過程で多くの犠牲者がいるのです。しかし、この世に誕生したら必ず死に向かって生きていくのが人生です。悲しい話ですが生まれた以上必ず死ぬわけで、死ぬために生きているのが人生です。皆さんご承知の通り徳川家康は「人生は重荷を背負って坂道を登るがごとし」と言っておりますが、人生楽しいことばかりではありません。勿論楽しい時もあります。それは、人生の中で様々な困難に直面し苦労を乗り越えると、それが楽しみになります。苦労のない人生は無味乾燥であると思います。

人間には素晴らしい「記憶の美化作用」というものがあります。苦労や困難を乗り越えたことが、懐かしい思い出でとなり、良い人生を歩んできたという気持ちにさせるのです。大抵の人は「幸福になりたい」「幸せになりたい」と言います。そして幸福論の書籍も多くありますが、幸福は永続しません。私は幸福はある一瞬の幸せに過ぎないのではと思います。幸福とは「あ、今日は良かったな、幸せだな」と思うもので、何十年もましてや人生全てが幸福であればつまらない人生といえるでしょうし、事実そのようなことはありません。

もともとこの世に生まれてきた以上、人生は悩みが多く辛いことばかりです。その点ともすると若い人は人生に期待しすぎているような気がしますので、もしかするともう少し人生を達観した方が良いかもしれません。辛い困難なことに直面することもありますが、どんな長いトンネルでも出口はあり、どんな闇夜であっても夜明けは来ます。「この困難を一つ乗り越えたら、竹に例えれば節が一つできたな」「強くなったな」と積極的に思ってもらえると人生が少し楽になるのではないかと思います。

私も若い人と一対一で悩みを聞いてあげたいですし、共に悩んであげたいと思っていますが、なかなかそうした機会が来ません。「会長のところに誰々が相談にいった」と噂になることもあるということで、どうも難しいようです。人生は悩み多きものであると理解して欲しいですし、年をとると悩んだことが「記憶の美化作用」で良い思い出として残っていくものです。幸せだけの無味乾燥な人生はつまらないものです。死ぬときに「良い人生を歩んだ」と思える人生がベストではないでしょうか。

ところで皆さんは日本財団に入り、活動いただいています。実はこんな恵まれた職場は、私自身も経験がありません。なぜなら、世の中のほとんどは、政府は公共機関は別ですが、皆収益活動をしなければならない組織でありますが、日本財団はお金儲けをしなくてよい組織であり、こうした組織はそうそうありません。しかし、お金を儲けるよりも使う方がはるかに難しいことです。皆さんは逆に思うかもしれませんが私の経験上使うことの方が難しいです。これまでにも世界には多くのお金持ちが誕生してきました。財団という組織はアメリカから誕生していますが、ロックフェラー財団やフォード財団も今でこそ社会貢献とは言いますが、もともとは税金逃れのために作ったのが成り立ちで、動機は不純でありました。そして世界のお金持ちは「お金が集まり過ぎてどうしよう」となり、財団をつくって免税を得て、社会のためにお金を使おうとできたものです。

しかし日本財団は違います。日本が80年前の大東亜戦争、今では太平洋戦争と言われますが、日本が敗戦し灰塵にきしました。どうやって島国である日本が生き残っていくかを考えたとき、我が国は船がなければ生きていけません。そこで、笹川良一はA級戦犯容疑で巣鴨プリズンに入れられた時に、ライフという英文の写真集を見て、ボートレースの写真をみつけました。そこでボートレースを立ち上げ、造船業等の振興を通じで日本を復興していかないといけないとボートレースを作りました。この話は、私は近年まで作り話と思っていましたが、ボートレース関係者が苦労して過去のライフを調べたところ、現代のボートレースそのものの写真があり、本当の話でありました。モーターボート競走法を作るのは大変であり、最初は衆議院で可決されたものの参議院で否決されました。当時は社会党や共産党といった左翼が強い世相でありましたが、衆議院に差し戻されたこの法案に社会党の左派の人の協力もあり賛成三分の二を得て、難産の上出来たのがモーターボート競走法です。衆議院に差し戻されて法案が成立したのは、近年まではこのモーターボート競走法だけでした。このような難産を経て生まれたのがモーターボート競走法ですが、最初から利益は社会貢献に使うと決められていました。企業が「儲かったら奨学金でも出そう」と後付けで作ったものではなく、日本国を立ち直らせるためにはお金が必要だと出来た法律です。最初から社会貢献を目指してできた組織は世界で日本財団だけではないでしょうか。

世界の資本主義は限界に来ています。GAFAはその資産総額は先進国一国の予算よりも多いと言われ、貧富の差が拡大しています。これからどのように資本主義が進んでいくのか分かりませんが、格差社会は日本でも顕著になっています。政府でも地方自治体でも出来ない問題があるのをいち早く見つけ、そこに対応策を講じていくというのが日本財団の仕事です。通常の組織であれば、5〜10年で人が変わり政策も変わり一貫性がありません。幸い、いや皆さんには不幸かもしれませんが、私も長く仕事をさせていただいております。今や国際社会は「継続性」が流行り言葉になっていますが、5年では継続性は担保できません。例えば、今海洋問題が叫ばれていますが、我々は50年も前からやっています。ウクライナ問題でアフリカの農業問題が指摘されていますが、我々はアフリカで40年近く小規模農家の支援をしてきています。ハンセン病の制圧活動は50年であり、50年WHOと継続して仕事をしてきたのは世界でも日本財団だけです。

しかし継続だけでは十分ではありません。毎年チェックしてより良い方向に変えていく必要があり、惰性の継続性ではいけません。私はダーウィンの進化論者でありますが、組織も人も未来志向で変化しなければ生き残れません。今日が昨日の続きではいけません。明日は今日より変化していく必要があります。どんな強い組織、頭の良い集団でも社会の変化を予測して対応しなければ弱体化します。トインビーの歴史の研究には27の文明が栄えて崩壊してきたと述べられており、ましてや我々のような組織は言うに及ばずです。これを乗り越える方法は変化することです。変化に必要なことは好奇心です。世の中、森羅万象に好奇心を持ってもらいたいと思います。その中に皆さんの活動のヒントがあります。上司から言われた仕事を処理するだけでは日本財団はダメになります。皆さん優秀な能力を持った人ばかりです。好奇心、興味を持ってもらい、常に「これは財団の仕事に活かせるのではないか」と考えて欲しいと思います。テレビで「かわいそう」「日本政府は何をやっているのか」と思うのではなく、問題を財団に持ち込み議論してほしいのです。私もかつて勉強会をやりました。今も勉強会をやってほしいと言われますが返事をしません。なぜなら皆さんはもう私を頼る必要ないくらい成長しているからです。しかし足りないのは若干の好奇心です。既に事業にできる環境があるのに十分活用できていないということもあると思います。好奇心を深め、環境を最大限活用いただければ、皆さんは十分仕事が出来ると確信しています。

しかし我々が事業を行うにあたり使用するお金は、我々が稼いだお金ではありません。多くのファンからお預かりしているお金です。日本財団に交付される100万円というお金はどのようなお金かということをよく話しています、大体、ボートレースのファンは1日2万円買って下さるそうで、600円が日本財団に交付されることになります。つまり、100万円とは1600人の国民からお預かりしたお金なのです。日本財団から1600人が1メートルおきに並べば最後の人は東京湾に落ちてしまいます。皆さんは20代で多額のお金の決裁権を持っているのですが、恐ろしいと思いませんか。お預かりしているお金ですから、私は恐ろしいです。もし1000万円となると1.6万人です。それを平気で使っているのですから、高い倫理観も必要です。1.6万人の顔を想像してください。したがってお金を使う判断をするのは非常に難しいことであり、我々幹部にも大きな責任はありますが、皆さん一人一人がそれを背負っているのです。皆さんには、高い理想をもって社会のために貢献したいという心、つまり、昔からある利他の精神を体現し、社会のために貢献したいという高邁な精神をもってここに集っていただいていいます。多少の意見の相違や悩みを持っていても、それを乗り越える力が皆さんにあります。辛い困難な仕事を超えたとき、竹でいうところの節が出来て、人間は強くなり成長します。頭の成長だけでは十分ではなく、心の成長、精神が強くならないと人生面白くありません。

世界には数多くの財団があり、その活動は助成金の提供です。しかし、日本財団は違います。日本財団はお金を自らも集めていますし、日本財団の仲間として20を超える関係財団があり、それぞれの専門分野をもっています。その専門分野は、国際交流、シンクタンク、保健衛生、音楽、伝統文化など多彩です。ホールディングスの形になっている組織形態を持っている財団は世界で日本財団だけです。我々は世界唯一のユニークな社会貢献財団をつくろうとしており、それを更に建設的にしてくのは皆さんであります。皆さんに期待しているのは、自主的に取り組んでいく姿勢であり、言われたことだけをやるだけでは十分ではありません。現在の社会問題が何で、未来の日本はどうなるのか、そうしたことを主体的に考えて欲しいと思います。

こうした取り組みをするには、両目を活用しなければなりません。片方の目は望遠鏡です。望遠鏡にして広く世界を見渡してください。我々は50年前からハンセン病制圧、海洋問題など世界的な取り組みを展開してきています。もう一つの目は顕微鏡です。公のお金を使う以上、些細なことも見逃さないという姿勢が大切です。お預かりしているお金は1円たりとも無駄には使えません。この2つの目を兼ね備え、その上で、大いに好奇心を発揮してユニークな事業をつくり、活躍してください。

今や世界一のユニークな日本財団並びに関連団体を、日本はもとより世界に広くこの独創的なシステムを更に広げ「こんな若い人が世界で活躍できるのか」と世界を驚かせてください。そして、風通しの良い組織で、これからの未来志向の世界に冠たる日本財団を一層発展させていく責任と義務を皆さん一人一人が持っていることを明確に自覚してください。ありがとう。(了)
コメントする
コメント