「私の目指す大学教育」―果敢に挑戦してみたい― [2024年12月02日(Mon)]
「私の目指す大学教育」 ―果敢に挑戦してみたい― 産経新聞【正論】 2024年11月27日 「地方創生の道を拓くZEN大学」 人口が減少する中で若者の流出が続き、活力を失う地方都市が増えつつある。さまざまな原因が指摘されているが、その一因は大都市と地方の教育格差にある。 <<進学機会は平等であるべき>> 4年制大学への進学率を令和3年度で見ると、トップの東京都は75・1%、最も低い山口県は38・5%(文部科学省資料)と2倍近い開きがある。大学への進学機会は、どこに住もうと等しく保証されなければならない。それが地方創生にもつながる。 そんな思いで日本財団は株式会社ドワンゴ(本社・東京都中央区)と提携して、オンラインによる通信制大学「ZEN大学」の設立準備を進め、このほど文科省の認可を得た。定員は3500人、来年4月に開学する。 同省の推計では、平成29年に120万に上った18歳人口は4半世紀後88万人、大学進学希望者も50万人強に落ち込む。厳しい流れを受け、私学事業団によると本年度、4年制私立大学の60%に当たる345校が定員割れした。 少子化の進行で大学経営は今後、一段と厳しさを増す。一方で、新型コロナウイルス禍以降、情報通信技術(ICT)を利用したオンライン教育が欧米で急速に広がっている。その中でZEN大学の設立申請をどう扱うか、文科省にとって難しい問題だったと思う。 同省の設置許可は、そうした現実も踏まえた上で新たな大学教育の在り方に向けた英断と理解する。これを受け、われわれも地方創生や少子化対策も視野にZEN大学を充実・発展させる必要があると考える。まずZEN大学の概要、狙いを紹介させていただく。 大学は「知能情報社会学部」だけの一学部制。入学生は志望理由と小論文で選考する。著名な教授陣122人が文系、理系を含め計279科目を用意し、学生はこれを複合的に学び4年間で計124単位を取得することで学士号を取得する。 オンラインによる通信制大学であり通学は不要。全国どこからでも気に入ったカリキュラムを繰り返し学ぶことができる。授業料は年間38万円。国立大の年間53万5800円(標準額)、私立大全体平均の93万1千円より低く抑えた。授業料全額を免除する奨学金制度も設け学生の負担を軽くする。 地域社会や他大学との交流も含め幅広い「学び」を目指すのが特徴で、来秋、世界100カ国からなる米・ミネルバ大学の学生150人が長期研修で来日した際には相互交流も予定している。 <<有効な少子化対策にも>> わが国の人口は今年5月時点で約1億2400万人。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計では、46年後の令和52年には8千700万人に減る。全国1729自治体の4割に当たる744市町村が今後約30年間に消滅する可能性があるとする人口戦略会議の予測も公表されている。 同会議によると、これら自治体では今後30年間に20〜30代の若年女性人口が半減し出生数が低下。自治体機能が維持できなくなるというのだ。 江戸後期から明治維新にかけ日本の人口は約3000万人で推移した。それを根拠に人口減少を楽観視する声も聞くが、急速な少子化は年金、医療など社会の基幹システムの運用を危うくする。 同時に江戸時代は全国で250を超す藩が独自に経済・産業政策を持ち、何よりも藩外に人が自由に移動することは不可能だった。越後・長岡藩の「米百俵」の故事に見られるように、それぞれの藩が独自に人材を育成する風土・文化もあった。 移動も移住も自由な現代は、多くの大学、企業が集中する東京、大阪など大都市への若者流出は防げず、地方社会の衰退は避けられない。大都市で職を得れば故郷に帰る人は減り、収入面やキャリアの優先で未婚・晩婚化も進む。 現に昨年1・20と昭和22年の統計開始以来、最低を記録した合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)は東京都が0・99と全国で初めて1を割り、衝撃を与えた。 オンライン大学は、地元を離れることなく自由に入学し学べる。結果、地元で就職し地域社会に貢献する若者が増え、人口流出にも歯止めが掛かると期待する。 <<新たな教育拓く“先兵”に>> 仮に東京の企業に就職してもオンラインの普及により地元での在宅勤務も可能になる。そうなれば合計特殊出生率の改善も期待でき有効な少子化対策にもなる。 近年、通信制大学で学ぶ学生数は増加傾向にあり、11月から開始したZEN大学の出願も順調に進んでいる。提携するドワンゴには約3万人の生徒が在籍するN高、S高の運営で培ったノウハウがあり、日本財団には内外の幅広い社会事業で蓄積した豊富な知見と経験がある。 世界は激動期を迎え、人材の育成が何よりも急務。大学の在り方や役割も大きく変わる。ZEN大学が新しい時代の教育を切り拓く“先兵”となるよう積極的な取り組みを進める決意でいる。 (ささかわ ようへい) |