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産経新聞【正論】難しさ増すミャンマー和平構築 [2024年05月08日(Wed)]

―難しさ増すミャンマー和平構築―


産経新聞【正論】
2024年4月26日


 1948年に英国から独立して以来70年以上、少数民族武装組織と国軍の内戦が続くミャンマーは2021年2月の国軍によるクーデター以降、民主化を求める市民武装組織も戦闘に加わり、混迷の様相を一段と深めている。

 ≪難民救済のモデル≫
 筆者は13年以降、ミャンマー国民和解担当日本政府代表を拝命し、和解実現に取り組んできた。しかし民族、文化、時に宗教、言語の違い、さらに周辺国の思惑も複雑に絡み、和平実現の難しさを日々、実感している。

 そんな中、ミャンマー関連の難題の一つ「ロヒンギャ難民問題」で、バングラデシュ政府が難民移住計画を進めるベンガル湾のバサンチャール島を4月6日に初めて訪問。自立支援に向けた先進的な取り組みを目の当たりにし、今後の難民救済のモデルにもなり得るとの思いを強くした。

 10年以上に及ぶ筆者の取り組みは苦い経験、失敗の繰り返しでもある。そんな思いもあり、これまでは「沈黙の外交」の立場で発言を極力控えてきた。しかし和平実現の難しさを理解していただくために、今回初めて、ミャンマー・ラカイン州での体験を中心に活動の一端を報告させていただく。

 ミャンマーには人口の約7割を占めるビルマ人のほか、135に上る少数民族が住む。主要な反政府武装勢力は21に上り、日本政府代表就任以前も含め計157回、現地を訪れ交渉の結果、18年には10の武装勢力が国軍と停戦に合意し筆者も合意文書に署名した。

 ≪一夜で破綻した人道的停戦≫
 ラカイン州では長く続いたラカイン人の仏教王朝・アラカン王国が18世紀後半、ビルマ人の王朝に滅ぼされた。以後、双方の反目が続き、近年は武装組織アラカン軍(AA)とミャンマー国軍が熾烈(しれつ)な戦闘を続けてきた。

 双方に働き掛け、22年11月、何とか人道的停戦にこぎ着けた。停戦を利用して人道支援を行い、住民に「平和の果実」を実感してもらうのが狙いだ。結果、一発の銃弾も飛ばない平和な時期が1年間続き、その流れを定着させるため記念式典開催も検討していた。

 そんな矢先の23年11月12日、訪問先のタイ・バンコクで「国軍とAAの多数の兵士が200メートルの至近距離で対峙(たいじ)している」との緊急連絡を受け、深夜まで電話で説得工作を続けて国軍司令官、AA議長双方から「兵を引く」との確約を得た。

 しかし翌早朝、AAの兵士が離れた場所にある2カ所の警察官事務所を襲撃する事件が起き、再び戦闘に入った。双方の停戦を「ミャンマー和平の一つのモデル」と期待していただけに、今も残念な思いが強い。

 ロヒンギャの人々は、この州に長く住んできたイスラム系の少数民族。仏教徒であるラカイン人やビルマ人とのトラブルも多く、17年8月、国軍の掃討作戦で約70万人が隣国バングラデシュのコックスバザール県に逃れ、その後、難民キャンプが形成された。

 国際社会が有効な打開策を提示できないまま7年近くが経過し、キャンプの人口も増加。バングラデシュのハシナ首相の決断で20年5月、バサンチャール島への移住計画がスタートし、既に3万6000人が移住している。

 バサンチャールは本国から約60キロ沖合に土砂が堆積してできた島で、面積は約50平方キロ。高さ2.5メートルの堤防で囲われた住宅地域のほか、病院や診療所、モスクも整備され、約2000人の難民女性を雇用する手工芸品センターや1400人の難民漁師を対象にした手網漁業、養殖などの事業も進められている。

 AAと国軍の停戦が実現しない限り、平和裏にラカイン州に帰還するのは難しく、島は帰還が実現するまでの仮の住み家の性格が強い。帰還が実現した場合、地元民との相互理解を進める上でも生活基盤の安定が欠かせず、世界各地で難民が増える中、バサンチャールの取り組みは難民救済の先進的な試みと言っていい。

 日本財団ではこれまでコックスバザールの難民キャンプの教育施設整備や島の生活支援事業に計700万ドル(約10億5000万円)を拠出してきた。島には新たに4万人分の住宅が完成しており、さらに200万ドル(約3億円)を支援して本国から島への難民の移住を後押しする考えでいる。

 ウクライナやパレスチナ・ガザ地区の戦争で国際機関によるロヒンギャ難民支援が細る中、国際社会、さらに日本政府に一層の支援拡大を求めたく思う。それが親日国バングラデシュとの友好を深め、わが国に対するイスラム諸国の信頼を醸成する道につながる。

 ≪ネバーギブアップの精神で≫
 一方で内戦が激しさを増すミャンマーに目を転ずれば、前述のラカインでの人道的停戦の崩壊を見るまでもなく、積み上げた成果は常に不安定でもろい。それ故に一層の努力が欠かせない。

 「解」は常に現場にある。「ネバーギブアップ」の精神で、引き続きミャンマーの平和構築の道を探っていく決意を新たにしている。

(ささかわ ようへい)
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